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樹当千  作者: 千葉
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五十五話 力と思惑


今回は短いです


その不吉な声に気づいたナーガとユーリィが一階のフロアから飛び出て

くるのが見えた。

ナーガとユーリィは最初そのイキモノを見た時に驚いたようだが、さすがに経験が多いので直ぐに平静をとりもどし、互いにアイコンタクトをとり左右から挟みこむような形で向かう。二人の動きは元々かなり素早い上に、互いが絶妙なタイミングで前後左右へフェイントを入れるので、離れて見ている俺ですらその動きを目で追いきれずにいる。

あまり動きが機敏そうに見えないそのイキモノも当然動きについていけず、その外殻に左右から同時にユーリィの風の魔剣とナーガの手甲が突き当たる。カンッという金属音の後にブシュッと緑色の体液が流れ出すが動きに支障は全く無いようだ。


「ったくユーリィもナーガも無茶しおるのぉ」


時折反撃をしようとするイキモノをマキアが正確な弓術でダメージを与えることは無いものを意識を上手くそらしている。


『イツキはいつ戦うの?』


突然フィランが話しかけたことに若干驚きつつ答える。


「いや、これ入っていける戦いじゃなくない?」


『そこんとこは大丈夫! いつものあのウザイ女精霊がいない分、サービスでもう一本槍を使わせてあげるから』


あのウザイ女精霊ってひょっとしてベアンテのことか?

というかこいつら会ったことあるの? ベアンテもフィランも基本的に俺と関わりのある精神体だから別に有り得ない話じゃないけど……何故仲が悪い?


「そんな簡単に許可下ろしていいものなのか?」


『いいんだよ。あの女がいないイツキは正直言って弱いんだから!!』


「うう~、最初の頃は可愛かったのに最近のお前と来たら……」


『えっ!? 泣くまで!?』


困惑するフィランは可愛い。


「それにしても俺、二槍流は始めてなんですけど」


『イツキは基本ダメ人間だけど槍を使うセンスだけはあるから直ぐ慣れるよ。

それにいつか僕を完璧に使いこなすなら、最大で五槍流になるから今の内に慣れておかなくちゃっ!!』


「まぁそうだよな~」


『槍の銘は【天沼矛】(あめのぬぼこ)、型は鉤槍。

イツキが前使えるようになった【地虚矛】(じむなのほこ)と兄弟にあたる魔槍だよ。

この二槍は仲が良いから使う時はセットにしたほうが余計に働いてくれるし、魔槍としての能力を発揮してくれるんだけどそれは使って見てからのお楽しみで』


フィランがそう言うと共に手の中の槍が消え、気づけば両手に二本の槍を持っていた。

左手に柄が漆塗りの十文字槍【地虚矛】、右手にはあまり殺傷性が高そうには見えない鉤槍【天沼矛】、柄の部分は螺鈿細工が施されていて金のように自己主張が強くない反射光が綺麗だ。


試しに両手の槍を回転させると、手に馴染むし悪くない。【天沼矛】は振るたびに螺鈿の輝きが見え、【地虚矛】は掌から大地の躍動を感じさせる。


「うん、悪くないな」


『でしょ、でしょ!』


マキアが弓を撃とうとしている飾り窓から身を乗り出すと、


「イツキっ!? 自殺はいかんぞ!」


「いやいや違うから」


それでも引きとめようとするマキアを無視して窮屈な飾り窓から地面に飛び降りた。

飛び降りる寸前に思ったのは(あれっ、これ別にわざわざこんな高い所から飛び降りなくても普通に正面から出て行けばよかったんじゃね?)だ。


速く行きたい一心でつい行動してしまったが、この高さはマジで怖い。直ぐに地面と頭からキスをして短い生涯を終える破目になるかと思い、思わず目を閉じてしまったが想像された衝撃はいつになっても訪れなかった。目を開けて確認すると無傷の自分の体。


ベアンテがいた時ならこの状態も納得がいくが今の俺の体はただの一般人に過ぎない。受身もとらずに助かるはずがないのだが……


『それが【天沼矛】の力だよ。見てごらん』


フィランの言うとおりに見てみると、右手の【天沼矛】が地面へぶつかった衝撃を抑えるように俺の体の下に入り込んでいた。


『【天沼矛】は自動で槍使いへの攻撃を防御してくれるんだ。【地虚矛】はその逆で自動攻撃だね。でもその槍使い以上の動きはどちらもすることは出来ない、いわば不意打ちをあまり喰らわなくするちょっとしたオマケみたいな物だからそれに頼り過ぎちゃいけないよ』


本当に思ったより使いどころが少ないな。いずれ五本の槍を扱うことになるなら便利になるかもしれないが。

何はともあれ今だあのイキモノ相手に戦っているユーリィとナーガの加勢に行かねば。あのイキモノがどういう意図でここへ来たのかは分からないがこれまた何となく俺の所為だという気がする。自意識過剰かもしれんが確信に近い何かがある。


あのゼノア教の教祖兼、ラノーラ帝国の皇帝ヴレイン・ラノーラがこの状況を眺めて微笑んでいるのが脳裏に浮かぶようだ。




†  †  †  †


皇帝とは言え、書類整理などでつかう執務室にある机は実用性を考え簡素なものがおかれている。その机の上で大きく場所をとっているのは治水や街道の整理のために必要な書類などではなく、大きな鏡だ。


魔導具の一種で、飛行する魔獣に埋め込まれている小さなレンズから撮られた映像をこの鏡に映すというものだ。各国で偵察などに使われているがこれは我が帝国の魔法使いが作り出した最新式のもので映像も非常にクリアかつ、伝達速度も以前のようにまる一日かかることもなく見たままの映像が直ぐにこちらへと伝わる。


あの少年がようやくマンティスに立ち向かう様子を見て思わず笑いが漏れてしまった。


「教祖様、あの精霊珠の余剰魔力でマンティス八十体の量産に成功しました。つきましては製造費のお支払いをお願いしたいのですが……」


生物兵器マンティスの製造並びに、人体改造を生業としてきた研究員の一人がこちらを遠慮深そうに金の請求をしに来た。ただでさえマンティスは通常の魔砲や魔導具の金額のおよそ百倍であり、一体ずつ対魔コーティングしたので最初に支給した予算を多く上まったらしい。

金貨でパンパンになった麻袋を三つほど投げ渡すと研究員は分かりやすい喜悦の表情を浮かべ頭を下げる。


「これはどうも――我ら一同これからもさらに技術の研鑽をさせていただきます。」


「それはもう良い。それより肝心の精霊珠は持ってきただろうな?」


研究員は困惑の表情を浮かべたが、目で再び促すと懐から小さな鍵つきの宝箱をとりだし鍵をあけた。その中に大切そうに保存されている紫色の包装布をゆっくり外すと、中から光が漏れる。新芽のような緑でいて、それでいてエメラルドのような光沢を併せ持つエッグ型の精霊殊がそこにあった。


精霊殊は精霊の力の本体であり、精霊は自身の精霊殊が盗られることを恐れ異次元空間にしまうとも言われており今回精霊殊が手に入ったのはまさに奇跡以外の何者でもないだろう。あの少年がどういう方法で手に入れたかは分からないが、伝説級の代物が手に入った今では精霊殊を手にいれる可能性があるあの少年の存在は邪魔以外の何者でもない。


「ご苦労、ついでに君達も変わっていきたまえ」


「はっ!? これはいったい……sdふぁbdfーー!!!」


目の前の研究員の全身から赤い煙が噴出す。血だ。

精霊のマナを信者の血液とあらゆる魔獣の血液で無理やり固めたものに私自らが神聖術を行使したものを飲ませるとマンティスができあがる。目の前の男もいずれ醜い怪物に成り下がるだろう。


マンティスたちを連れ、メイハ教の総本山があるザルナ王国の首都までおよそ一日。私は広場にある転移魔法陣で直ぐに行けるだろうが対魔コーティングされたマンティスは転移できない。

まだまだ改良の余地ありだ。


グルーナがカナゼやリザルトをどこまで足止めできるかにかかっているな



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