五十二話 処刑開始
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ユーリィは今横で何か考え事をしているようじゃ。まぁ無理もない
イツキが攫われて一ヶ月
カナゼ殿がメイハ教のコネを使って得た情報によるとどうやらイツキはラノーラ帝国の帝都ブロンディアに運ばれたらしい。我らはメイハ教の騎竜を借りて(我はガロンに乗って)一路ブロンディアを目指した。三日間にわたる強行軍じゃったがなんとかたどり着いた時、周りの騎竜たちがへとへとの中ガロンだけがピンピンしておったのはさすがといったところじゃ。
我の姿を見ても嫌悪しないイツキ、かっこよく敵を倒すイツキ、そして我の耳元で愛を囁くイツキ(脳内で大分美化された後、有りもしないことまで生成された)、その素晴らしい思い出が頭の中に蘇る。
じゃがそんなことを考えている我を驚かせたのはイツキの処刑が明日に迫っているという事じゃ。皆と相談してこれからどうするかを考えたが中々良い意見は出てこん。
結局イツキがいるであろう城は警備が厳重なため、明日の処刑の際にイツキを助けるしかないという旨をカナゼ殿が重々しい声でおっしゃった。普段あれほど酷いことを言い合う師弟じゃがカナゼ殿は本気で心配しているようだ。男同士の関係はオナゴの我にはよくわからん……
何とか処刑の阻止をせねば!!
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あれから二日、いよいよ今日が処刑の朝だ。日々ベアンテの不在から夜も安心して眠れず目に隈もでき、体重も落ちたように思う。元々俺はただの高校生だということを改めて実感する。今思えばモンスターを殺した時も何も思わなかったのはベアンテのおかげかもしれない。そうでも無いと普通の高校生ではいつでも死が身近にあるこの世界では生きていけなかっただろう。ベアンテ無くして魔法もつかえない俺はただの無能だ。
「さっさと出ろ!」
牢の外から衛兵が入り俺の片腕を掴んで引っ張り出す。そんなに引っ張らなくても今行くよ
処刑台はいわゆるギロチンという奴でこの世界にもあるんだなと思う。
木で出来た足場の上にギロチンが設置されていて、広場いっぱいに集まっている観客が楽しめる趣向だ。さすがに間近には民衆はいないようで騎士団が万が一の為に周りを囲んでいる。その中には以前湖で見たクロトや名前は忘れたがその部下の姿もあったが、一番目立つ玉座の上には帝王ヴレイン・ラノーラの姿があった。
奴は笑うでも悲しむでもなくただそこにいた。全てが自分の思うがままに動いているとでもいうように……
「この罪人、イツキ・チバは恐れ多くも帝王ヴレイン・ラノーラ様の居城に入り込みそのお命を奪おうという愚行をしでかした。よってその穢れた命をここで浄化するものとする」
仰々しいくだりを延々と話しだすが、そのほとんどが意味のないものだ。
それがすむと終にギロチンにセットされる。
やはり怖い、怖くないはずが無い。震えそうな顎をがっちり押さえ込んで必死で冷静さを装う。やはり男なら最後はかっこつけたいのだ。
例の海賊王のように処刑台で笑うことはできないけどりりしい顔で最後を迎えてやる!
「では処刑をはじめ、グハッ!!」
ギロチンを落とす役目だった男の喉に矢が突き刺さる。何だ!?と思い処刑台から見下ろすと鎧姿の騎士が赤い弓を引いていた。あの赤い弓は……マキアか!?
気づけばマキアの周りには修道士がよく持つ杖を持った人がマキアを守るように動いていて、そしてもう一人処刑台に剣を振り回しながら近づく人影がいた。
「待ってろ、イツキ!! 今行くっ!!」
俺が女だったら惚れそうなセリフだな。まぁ男の今でも充分惚れるセリフだけど……
俺が囚われの姫だとすると、ユーリィはそれを救いだすナイトということだろう。
『プリンセス・イツキ』
そんな電波が飛び込んできたが、必死でその電波を頭から振り払って正気に戻る。
気づけばユーリィが直ぐ足下まで迫っていたが、クロトがそうはさせじとユーリィの剣を己の大剣で受け止め進路を塞ぐ。
俺は何も出来ない自分にイライラしたが手錠はジャラジャラと空しく音を鳴らすだけで到底抜け出せそうもない。そんな俺の様子を見て、
「おい、罪人が抜け出そうとしてるぞ!! さっさと刑を執行しろ!!」
と民衆の一人が叫んだ。
執行者はそれに気づくと俺の思いも空しく、ギロチンを支えていた綱を分厚い刃で切った。
血で黒く塗られたギロチンの刃が俺の首目がけて落とされた。
思わず目を瞑ったがいつまでたってもその瞬間は訪れない。
「ぶ、無事か? クソ野朗」
目をゆっくり開けると太陽の光と共に金色の髪が頬に落ちてきた。
「普通、そういう時ってお前という人物を犠牲にして、俺が怒りで強くなるタイプじゃないか?」
ナーガは落ちてきたギロチンの刃を真剣白歯どりの要領で受け止めているが、予想以上にギロチンに勢いが有ったようであと数ミリ掴むのが遅かったら髪の毛だけじゃすまなく、頭がパックリ割れていたことだろう。
「バカかお前は?
俺が身を投げ出して守る存在はユレイア様だけだ!!」
当然のように言うナーガ。
「それよりさっさとここから出ろ!」
「そんなの無理ですよ~、僕ここから動けませんもん♪」
「なんだかお前急に余裕になったな」
そんなことをやっているとナーガの後ろから処刑執行人が大きな斧を持って振り下ろそうとする。
「危ないっ!!」
グハッという声を出して倒れたのは処刑執行人だ。そして倒れ行く執行人の後ろには血塗れた剣を持つユーリィの姿が……
ナーガはそれに気づくと慌てて土下座をしようとしたが途中で俺のギロチンを放したことに気づきギリギリなところで、間に合った。
「嬉しいぞナーガ、よく帰ってくれたな!!」
「その言葉だけでご飯二俵は行けます!!」
二俵って単位おかしいだろっ!
それにしても気に食わない。何故俺が空気になっているんだ!?
「イツキ、無事でよかったぞ」
ユーリィは甲冑のフェイス部分を外し腰まで届く長い金髪を見せながらそう言って微笑む。
そんな顔したら俺も何も言えなくなるだろう! ご飯五俵はいけるぞ!!
ユーリィは魔剣で無理やり手錠を斬り、首を固定する道具も外す。
久しぶりに自由の身となった俺は首をゴキゴキいわしながらストレッチする。
「ほら受け取れ」
ナーガがそう言って投げ渡したのは俺の愛槍。
「貴様っ! 俺のフィランを手荒く扱うな!!
こいつの可愛さ舐めたら痛い目に会うぞ!!」
ナーガは呆れたような表情をした後、黒い金属製の手甲を両手に嵌めて戦闘準備を始める。あれも魔武器の一種なんだろうか?
『ちょっと! 僕の事をほうっておいて考えるのは違う魔武器のこと?』
「おいおい、俺はお前以上の魔武器は知ら無いぜ」
『ったく、心配したんだからね! 見るからに体調もよく無さそうだし……』
そう言うフィランの声は最後のほうが泣きそうな声色だった。
どうやら心配かけちゃったみたいだな
「おう、体調はあんま良くないけどお前なら俺をちゃんと守ってくれると信じてるぞ」
『もう、心配かけないでね?』
「おうっ!! でもその為にはここをどうにかして逃げ出さないとな……」
騎士の中には師匠やリザルトさんが混じって無双をしていたが、騎士の数は多いしここは敵の本拠地だ。
まっ、やるしかないけど
これからも応援よろしくお願いします。
どうか迷える子羊に感想を……