四十七話 お主は愛い奴よのう
最近新しく小説を書き始めたけどここで宣伝するような卑怯な真似だけはしたくないです。
どうぞ『仙水さんの歩むハンター道』をよろしく!!
大分朝の水汲みは楽になってきたがその他の修行は実感できるような成果を挙げていない。
カナゼ師匠の武器との対話に関してだが対話をした後の武器はかなり性能があがっているように思える。
一番初めに話せたマキアは当然のことながら弓の威力、精度ともに上がり何より今まで必要だった矢がいらなくなったのだ。弦に手をかければ自然に魔力で構成された矢が手の中に出現し、それに自身の魔法を組み合わせた新魔弓は岩を貫き内部から破壊するという恐ろしいものになった。
そして二番目に話せたユーリィは剣に常に氷の属性が付与されその冷たいまでの鋭い剣閃は敵を斬ると同時に凍らせる。またユーリィが得意とする氷魔法の威力が2~3倍にまで上がりマナの消費も減るというありがたい効果までついている。
今ではすっかり剣を離さなくなり、睡眠中はもちろん食事中まで持ち歩き楽しそうに話しかける始末。ユーリィの笑顔を独占し始める剣にちょっとイラっとさえした。
最後は…俺だが全ての神器が使えるようになりベクトルを操る能力を身に着けた。
すまん、冗談だ!!
もちろん出来損ないでヘタレな俺は『オトートノカタキヲトルノデス』という電波以外何も聞こえないし何一つ進歩が無いダメ人間だ、死のう
「イツキ、ちょっと来い」
ユーリィとマキアはそれぞれ対話できた武器の性能を試している中俺は師匠に呼ばれた。
あまりにも才能がない俺にきつい一言でも言われるのだろうか?
何にせよ気がすすまない
「何ですか師匠?」
「お前に同じ槍使いとして一つ助言をしておこう」
「急に何を…」
「いいから聞け。……槍という武器は非常に気位が高い武器だ。
わがままな女と思ったほうが良い。
だが気位が高いからといって決して至高の武器というわけでもない。」
俺は師匠の言いたいことが分からなかったが師匠の真剣な様子から真面目に聞く。
「要するにお前は槍を愛していない。」
俺はちゃんと槍に愛着をもっている。何故師匠はそんなことを言うのか?
「不満げな顔だな。
確かにお前は槍を大事に扱っている。
だがそれは幼子が自分の玩具を大事にするのと一緒の感情だ。
結局お前は武器本来のもつ力を信じきれていない。」
何か言い返そうとするが言葉にでず空気を求める金魚のごとく口を開け閉めする。師匠の言葉はあまりにも思い当たりがあることだったからだ。
「これからでもいい。武器を信じろ。
彼らは常に私達に語りかけているのだから」
無言のまま師匠に一度深い礼をしてその場を離れる。
どこか自分の気持ちを整える場所に行きたい。自然と足は家と反対方向の森を目指した。
昔から何か嫌なことがあれば森の中へ入った。森という大きな存在が自分をすっぽり包んで守ってくれる気がしたのだろう。そして今もその時と同じように森にいる。
木々が己の葉をすり合わせてザワザワと心配そうな音をたてるのを嬉しく感じる自分がいた。
彼らはいつも俺を守ってくれた。ふと視線を落とすと無骨な槍が見える。
彼らとこの槍はどう違うのだろう?どちらも同じではないか。
こんな単純な対比論で納得する自分もどうかと思ったがそれが自分なので仕方無い。
「遅れてすまない。今からでもかまわないかな?」
するとあたりが静かになっていきしばらくたつとかすかに音が聞こえてくる。いや、声か?
これが槍の与えてくれた最後のチャンスだと直感的に感じた俺は手元の槍を握り締め意識を集中させる。今にも消えてしまいそうな程小さなその声を閉ざさないように……
少しずつ声は大きくなってくるのだが何を言っているのかがはっきり聞こえない。
そしてあともう少し大きくなれば聞こえるといったところで声は途絶えた。なんだか胸に隙間ができた後冬の冷たい隙間風が入ってくるようなそんな感じだ。
『なかなか面倒臭い遠まわしの婉曲だね。君は女子にもてなさそうだ』
「失礼な!!こう見えて学生時代はジョニーというアダ名で女子に一定の人気があったんだぞ」
『一定の人気www』
「ったく失礼な野朗だな」
『・・・・・』
「・・・・・」
『・・・・・』
「お前はいったい誰だ!!!???」
『べ、別に僕は君を心配してきたわけではないんだからな』
「男なのにツンデレとか誰トクだよ!!あとちゃんと質問に答えろ」
『おもに腐女子たちのためだよ。
あといい忘れていたが僕はこの槍<五つの軍隊>(フィフス・ランス)だ。』
なぜか非常にこいつに親近感が湧くのは何故だ?
師匠は会話らしい会話が出来ないといっていたがこいつとはこんなに話しが出来る理由も知りたい。
「話したいことは山ほどあるが、姿が見えないと話しづらいだろう。
姿を現してくれないか?」
『顕現は久しぶりだね』
そう声が聞こえると目の前の地面に白い輪っかがでてくる。そうしてようやくここが森の中ではないことに気づいた。雲の上に乗っているのだ。それもかすみのような薄いもので足下の強度を確かめながら恐る恐る見下ろすと大地が遥か遠いところにある。高所恐怖症の俺としては早いところお暇したくなる光景だ。
そんなことを考えている内に輪っかからいつのまにか出てきたらしい少年が俺を見下ろす。
水色の髪の先端が寝起きのようにあちこちへクルッと曲がっている天然パーマを隠そうとしてなのか大きめの外套についているフードを被り、たしか槍の石突についていた小さな銀の装飾が五つ連なったものを大事そうに首からぶら下げている。顔はまぁ…愛らしいとだけ言っておこう。
『どうかな?ちゃんと顕現できてる?』
「もとの姿を知らないから断定は出来ないがたぶん出来ていると思うぞ」
体のあちこちをぺたぺたと触って確認している少年の様子はまるでなくし物を必死に探しているみたいに見えておもしろい。身長もせいぜい俺の肩ぐらいしかないだろう。
「まずは応えてくれたこと、感謝する」
『別に感謝されるようなことをした覚えはないよ。
ただおもしろそうだったから出てきただけ』
「まさか!?」
『どうかした?』
「お前はツンデレがデフォルトだったのか!?」
『ち、違うよ!』
ためらうな、益々その疑惑が確信へと変わっていくじゃねぇか!!
「質問していいか?」
このままだと終わりそうにないのでとりあえず話をきりだす。
『いいよ』
「何でお前とはこんなに会話できるんだ?
たしか師匠はそんなに会話らしい会話は出来ないって言ってたぞ。」
『ああ、あの人の持っている槍も僕と同じ魔槍なんだけどやつは堅い奴でね。
ほとんど必要なことしか話さないし主人に情が湧くと別れがつらいからって自ら積極的にコミュニケーションをとらないんだよ。
確かユーリィとマキアだっけ?二人の持っている魔器はもっと話していると思うよ。』
その発言でやはりこいつは今までずっと俺が持っていたあの槍だということを改めて教えられた。師匠に後で謝っておかなくては……
『他に何かないの?』
「そうだな、じゃあ対話が終わった後皆は新たな能力を得ていたがお前はどんな力がつくんだ?」
『それは僕の名前から想像できるでしょ。』
たしか<五つの軍隊>(フィフス・ランス)だったな。
『そうそう、今度からは僕のことをフィランて呼んでいいよ』
「アッハッハハハハ。フィランは可愛いなあ」
フィランの頭をゴシゴシとかきむしると露骨に痛そうな表情を浮かべて嫌がる。
『痛ッ。じゃ、じゃあね』
プツンとむりやり回線が千切られるような感覚がして再び目を開けるとそこは先程までいた森だった。
ったく可愛い奴め!
ユーリィやマキアが愛おしそうに武器を見つめる理由が俺にも分かった。
特に書くことは無い!!