四十四話 魔法
ともかく魔法の訓練は始まった。
俺がマナを単体で扱えるのは植物を操る時と回復の時だけらしいが、それでもベアンテによるマナとの親和力のおかげでマナとオドの割合が100:1で魔法を行使できるらしく俺の少ないオドでも十分に魔法が使えるらしい。そういうわけで魔法を使う上で必須な自分のオドを感じれるようになる訓練からすることになった。
自分の中のオドを探し始めて二時間、全くその感覚がつかめないままでいた。
リザルトさんが言うには『森の中で迷子になったユレイアを探す』感覚らしいがそれを聞いたら尚更分からなくなった。
そんな俺を見るにみかねてマキアがアドバイスしてくれるには『山の中で迷子になったガロンを探す』感覚らしい。
何も変わんねぇ!!
……もうこいつらに頼るのは止めて自分でどうにかしよう。
とりあえず自分の中にある力を探すイメージだったな。するとまず最初に分かるのは俺の中にある植物たちの統率者であるらしいベアンテの大きく優しい力。
これでもまだベアンテの本来の力には遠く及ばないらしいからビックリだ。きっと完全体になったら世界を掌握できるかも?なぐらいにこの力は大きい。
さてと、オドはいったいどこにあるのかな~?
必死に自分の中のオドを探すが姿どころが影さえも見当たらない。
もしかして俺にはオドなんて無いのかも……
そんなことを思い始めたときあることに気づいた。
ベアンテの力の根源のすぐ近くに弱弱しく輝いているものが見えたのだ。
ベアンテとはまた力の方向性が違うその力がどうやらオドらしい。
そんなに近くにあって何故気づかないのかと思うならこう考えたら分かりやすいだろう。
あなたは象の足にしがみ付いているアブラムシの姿がみえますか?
つまり象がベアンテでアブラムシがオドだ。普通は気づかないだろう。
それに考え直してみたら俺の視界の中におそらくオドは入っていたと思う。それも何かあそこはおかしいとしっかり感じていたのだ。
……だがあれがオドだと認めたくなかった。あんなちっぽけで弱弱しい光を放つものがオドだと認めてしまえば俺の中の何かが壊れ、封印されていた第二の人格が暴れだす……そんな予感がしたのだ。
まぁこれ以上厨二設定に逃げるのは精神衛生上良くないからもう止めにしよう。
空しさがこみあげてくるだけだしな。
何はともあれオドが確認できた旨をリザルトさんに報告しよう。
「リザルトさん、マキア、オドを感じ取れましたよ。」
「よくやったな」
「さすが我のイツキなのじゃ」
褒められるのはやはり嬉しい。それが身近な人からだったら尚更だ。
とはいえ、あまり表情に出すのは恥ずかしく感じたので無表情を装い話しを進ませる。
「次はどうするんですか?」
「次は属性魔法の特訓だが、ここで少し座学に入ろう。」
「魔法の種類には属性魔法、召喚魔法、封印魔法、時空間魔法の四つがある。
順に説明すると、属性魔法は魔法使いが攻撃や防御、治療、付加などに使うもっとも使用頻度が高く応用性もあるものだ。
そして二つ目の召喚魔法は魔獣、精霊、神獣などの生き物や剣などの武器と契約することによっていつでも呼び出すことが出来る。
三つ目の封印魔法だが、これがなかなか深くてね。鍵をしめたり開けたりするような簡単なものから神を封じ込めるかなり強力なものもある。最近の魔法使いは封印魔法を軽く見て、昔のようなハイレベルの封印魔法師が少なくなってしまったがね。
そして最後の時空間魔法だが、これは今の技術じゃ説明できないんだ。」
「それは何故ですか?」
「イツキ君は知らないだろうが、かつてこの世界の技術力は今の技術力を遥かに凌いでいた。俗に言う『原典の時代』だね。
この時代の魔法使いの数は人口のおよそ九割。現在の魔法使いの数が人口の約一割だからこのすごさが分かるだろう。そして各国の魔法使いたちは自分達のもてる技術を生かして、自らのオドだけでその力を発揮させる道具、魔導具を発明した。
現存する魔導具は全てこの時代の物を模倣して作られたといってもいいだろう。
だが、極端に成長した技術文明はその力によって幕を下ろす。
書物によるとどこかの国が発明した世界中に存在する魔法使いから生命力を吸い上げマナに変える魔導具によって、魔法使いが全滅しかけたらしい。
これを止めるために造られた魔導具が転移機で、残った魔法使い全員がそれに大量のオドを流し込み生命力を吸い上げる魔導具を異相空間に飛ばし見事世界の危機を脱したわけだよ。
要するに時空間魔法というのは、その転移機を造る際にかけられた魔法だということ。
そして転移機が大都市を除いて存在しないのは
その時空間魔法が今だ解明できていないからなのさ。わかったかい?」
「は、はいたぶん」
ずっと足下にいた蟻から目線を離して俺は了承する。
昔から座学の時間だけは苦手だ。高校の授業ではノートもとらずずっと外の景色を見てぼんやりしてたもんな。今は何もかも懐かしい……
「属性魔法についてはそこにいるマキアちゃんに聞いたほうが早いだろう。
私はこれから少し用事があるので後はマキアちゃんに頼んだよ。」
「ちょっ、何故我が……」
マキアがリザルトさんのセリフにつっこもうと声を出した時にはリザルトさんが既にどこかへと去って行った後でマキアの声が虚空に空しく響く。
「ちゃんと今まで話を聞いてないからすぐに対応できないんだよ~」
「ずっと蟻を見つめておったイツキにだけは言われとう無いっ!!」
「で、教えてくれるか魔法?」
「……むう、リザルト殿の頼みを断るわけにもいかんし仕方無いのう」
未だ納得のいかない表情で渋々言うマキア。
「確かイツキの属性は風だけじゃったが実際存在する属性は九種類ある。
火、水、風、土、氷、雷、影、毒、念の九つ、
まぁ大抵の魔法使いはこのなかの一つから五つぐらいは属性として持っておる。」
「火から毒までの属性ならなんとなく分かるが最後の念ってやつは何なんだ?」
「念は手を触れずに物を動かしたりある程度人の心を読んだりできる珍しい属性魔法での、目に見えんから対応がとりにくいのが特徴じゃ。」
マキアの説明からすると地球でいう超能力に近いイメージだな。
そのことをマキアに話してみると『どこの世界でも似たような所があるのじゃな』と関心してる様子だった。
そう考えるとパイロキネシスやエレクトロマスターはこの世界で言う火や雷の属性をもった人なのかもしれない。以外と身近なところにファンタジーがあるもんだと感心する。
「そういえばマキアの属性は何個あるんだ?」
「教えてもよいが誰にも秘密じゃぞ!
案外リザルト殿は気づいているかもしれんがそれでもじゃ!!」
「あ、ああ」
マキアが強い口調で言うので少し驚いたが、よく考えると自分の属性を教えるということは弱点を教えることにもなるので納得いった。
「我は念……以外の属性魔法をもっておる。」
「本当か!?すごいな~!!
じゃあ俺に風魔法の使い方を教えてくれないか?」
「えっ!?イツキは怖がらぬのか?」
マキアはキョトンとしたような表情を浮かべるが何故そんな表情を浮かべるのか分からない俺もマキアと同じようにキョトンとする。俺は少し間をおいて、
「何でだ?」
「ああ!そういえばイツキは異世界人じゃったの。だったら知らんでも無理は無いの♪」
マキアの意図が読めないがとりあえず嬉しそうなので良しとしよう。
まずは魔法が一番だ!!
そこからはマキア解説の優しい魔法講座が始まった。
「まずは魔力の合成が出来るようにならなくては魔法など使えんからのう。オドとマナを1:100の割合で合成するんじゃ!」
ほんのちょっとのオドとマナを自分の中で混ぜ合わせるのは想像以上に難しい。
なんとか自分の中のオドを取り出すのはいいのだが、マナの量が多すぎて上手く魔力を合成出来ないのだ。
1:100にしなければいけないところなのだが、1:10000のようになってしまう。
「お主は合成が下手じゃのう~」
マキアは呆れたように言うが俺だって全神経を使って集中しているのだ。これ以上集中したら新しい世界に『こんにちは』してしまう。
「んなこと言ったって……」
「もっと集中するのじゃ!!」
優しい魔法講座じゃなくて鬼畜講座の間違いだったな。とは言うもの、このままでは俺が魔法を使えるようになりそうもないのでマキアの言うように更に集中する。
息をすることも意識するのが勿体ない。ただ考えるだけの存在になる。
酷い頭痛がしたがそれすらも今は放っておく。
マナとオドがある場所に俺という意識体を送り込み自らの手で適量のオドを掴む。
もう片方の手で大きな緑色の光の塊、『マナ』に手を入れる。
おそらくこの中の中心部にベアンテがいるのだろう、どうしてかは分からないがそんな気がした。
そうしてバスケットボール程の大きさのマナを取り出し、両手にある魔力の球を胸の真ん中あたりで合成した。
するとあたりの景色がゆっくり消えていき気がつくともとの場所に戻っていた。
目の前でマキアが心配そうな表情をしていたので心配させないように軽く笑みを浮かべる。
マキアは安堵のため息をつくと俺の魔力合成が上手くいったのに気づいたのか優しく笑う。
「よくやったの。」
「ああ、まぁ俺にとっちゃ簡単だったさ」
ふらつきながらそう言う。これは男としての意地だ。
「ならその合成した魔力を使って魔法を使ってみようかの」
そしてその意地はしばしば自分の足を引っ張ることになる。
自分でいったんだけどな。
リザルト説明乙。
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