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樹当千  作者: 千葉
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四十二話 師匠の教え


これからは特訓編です。引き続きお楽しみに!!


師匠はそれから前回俺の植物で酷いことになったとクドクドしゃべりだしたがユーリィのお父様のリザルトさんが『もうそれぐらいで・・・』と止めてくださったのでそれ以上長引くことはなかった。


だいたい師匠は過去のことに囚われすぎなんだよ。男なら前を向いて生きやがれ!!


とは言え、師匠がいるのは正直助かる。師匠はいろいろと残念な人だが槍の腕前だけは尊敬しているからな。

槍を教わる上でこれ以上はないという人だ


「師匠、リザルトさん!!お願いがあるんです。聞いてくださいませんか」


「嫌だ!」


この野郎せっかく人が頭下げているっていうのに……


「お前の頼みを聞くのは嫌だ。だが偶然にも私は任務を早く終わらせてしまってしばらくここに滞在することになっている。だから暇つぶしにお前の修練に付き合ってやる!ありがたく思えよ」


「し、師匠!!」


「もちろん私も君を鍛えるというのはやぶさかではない。それに君はどうやら私の娘をさんざん引き連れまわしているらしいしな」


あれっ!?何でリザルトさんそんなに引きつった笑顔をしてるの?

そして片手に渦巻いている力は何!?


「うむぅ、すさまじい魔力が片手に集中しておるのじゃ。純粋な魔力のみで空気が震えておる。さすがユーリィの父上じゃ」


いやそんな解説はいいからマキア。どうにかしてくれ


「ようこそ魔法の世界へ☆」


リザルトさんはそれはそれはいい笑顔をしながら俺にその魔力球(名前は後で知った)を放った。


どうしてこの世界の達人と呼ばれる人たちは変な人ばっかりなんだろう。



その日の晩俺は歓迎会というのに一口も食べる気が起こらなかった。リザルトさんにうたれた魔力球が腹部にジャストミートし、食欲を奪っていたのだ。

それでも優しいユーリィは俺が何か食べれるように薄味のスープをつくってくれて、マキアはそのスープをフーフーしながら口へ運んでくれようとしたのだがリザルトさんがうっかりユーリィの作ったスープに下剤を入れてしまったり師匠が『たまには弟子をかわいがらんとな』とマキアに変わって屈辱のアーンを強制してきたりするので外の風を吸いに行ってきますとだけ言って俺はさっさと退場した。


外の空気は思った以上に冷たくてビックリした。流石に息が白くなるほどではなかったが肌寒かったので上着を着てくればよかったと今更ながら思う。

山は夜に冷えると聞くがまさにそうなんだな。都会で暮らしていたころはこの時期夜蒸し暑くて眠れなかったが……


会えない家族の顔が一通り浮かんだ後ナーガの顔が浮かんできた。

この満天の星空の下いったい奴は何をして何を思っているのだろう?

しばらく星空を見上げ俺はまだまだ盛り上がっている様子の宴会会場に戻った。



「おきなさ~い!!ほらほらイーちゃん!!」

シクエちゃんの可愛い声とは裏腹にものすごい力で襟元を掴まれ、揺すられる。

「どうしたのシクエちゃん?」


シクエちゃんに引っ張られ伸びきってしまったシャツのたたずまいを直しながら壁にある時計を確認する。

「えっ!?まだ朝の三時じゃん!!どうしてこんな朝早くに!?」


シクエちゃんは当然とでもいいたげな表情で答える。

「それはね~私の可愛いお花ちゃんたちが水を欲しがっているからだよ~。それに今日一日分の私達の水が無くちゃ大変でしょ!」


「水を取って来いと?」


「うん♪あと私のことはシクエちゃん先生って呼ぶこと!」


「……何でですか?」


「あれっ!?言ってなかったっけ~、私はイーちゃんに格闘を教える先生なんだよ~。

だからこれも修行の一環ってことだよ~」


そう言いながら渡されたのは巨大なタンクらしきものだ。

よくビルとかデパートの屋上にあるやつを思い浮かべてくれればいい。

違うのは背負いやすくするために皮製の丈夫な綱が二本ついていることぐらいだ。


それにしても……すごく……大きいです。

これが一日に使う水の量だというなら日本の地下水脈はとうに枯れ果てているだろう。


「じゃあここから十キロ先にある川から水を汲んできてね♪近くに小川があることにはあるんだけどそれじゃあ日が暮れちゃうから。」


「分かりましたよシクエちゃん先生」

まぁ俺から強くなりたいって言い出したからな

やるしかない!!


水を汲んで帰るのが終わったのはそれから五時間後の八時過ぎだった。

さすがに疲労しきって喉からヒューヒュー音が鳴る。


もう一歩も動けねぇ


芝生に横になって庭を見るとユーリィとリザルトさんが木製の剣をつかって打ち合っていた。ユーリィが一方的に攻めているように見えるがユーリィの額には汗がうかんでいるのに対しリザルトさんは全く汗をかいていない。

ユーリィが進まない状況にイライラして大振りな袈裟ぎりを加える。だがそれを当然のごとく見越していたリザルトさんが剣を素早く横に振ってユーリィの木剣をなぎ払う。

カランッと軽い音をたてて俺の前にユーリィの木剣が転がってきたので俺は片手で受け止める。


その木剣を見て驚愕した。

木剣には『娘は渡さない!!』と刻まれていたのだ!!


あの一瞬に、それもたかが木剣で俺の方向へと正確に飛ばすとは……恐ろしい子!!


「まだまだだな。これから精進に励め」


「はいっ、父上!」


リザルトさんから言われていることは厳しいがユーリィの表情は嬉しそうだった。口ではあまり会いたくないと言ってはいたが家族に会えてユーリィの笑顔が多くなった気がする。

ランクAの冒険者の前にユーリィは一人の女の子なんだな


「イツキ、今暇かのう?」

マキアが倒れこんでいる俺に向かって声をかける。

なんだか片手に赤い弓を持っていてあまり良い予感がしないんだが


「少し弓の訓練をするから付き合って欲しいのじゃ」


「で、俺は何をすればいいんだ?」


いつまでもここで寝転ぶわけにもいかないので重い体に鞭打ち、よっこらせっと立ち上がる。


体がミシミシなっている。これは明日筋肉痛だな


「イツキの頭の上にりんごをおくから、ただジッとしておけばいいのじゃ」


「いいか、絶対体に当てるなよ!!フリなんかじゃ無いからな!!」


「なるほど。そういうタイプのフリじゃな」


マキアが納得のいった表情が怖い!!こいつ狂ってやがる……


「ちょっ、冗談じゃ冗談。」


マキアも俺の心底ひいた目を見て慌てて弁明を始め出す。

まぁマキアの弓の腕前は人狼たちと戦ったときに見たから問題ないだろう


俺が了解の意を伝えるとマキアは50メートルほど離れた地点へと移動し弓を構えた。

弦を引き絞り一呼吸、二呼吸したところで声をかける。


「マキア、お前のことを信じている」


「……イツキ//////!?」


動揺してふいに放たれた矢は目標から大きくずれ俺の上着の袖を貫いていった。


「ああ~~!!」


「くっ、イツキ私の矢で怪我をしたのかの?こうなればお主の肌を傷物にした責任をとらねば……」


「俺のお気に入りの服が~。ロッドマスターから貰ったローブもあの変態野朗にダメにされたからな~。俺ってツイてねぇー!!」


「落ち込むなイツキ。我の服を貸してやろう」


「ありがたくお断りします!!」


この世界に来て毎日がサバイバルだったから慣れない俺は服をあっと言う間にボロボロにしてしまって唯一無事だったのが今の服だったからな~

それにこの世界は服の値段が異様に高いし

しばらくはこの破れた服で我慢するしかないな


「お~い、みんな~朝ごはんにするよ~!!」

シクエちゃんの作る料理はおいしい。きのこと自家製野菜のサラダにリゾット、グリルチキン。特にチキンの焼き具合が完璧で、皮はこんがり中からは肉汁が溢れ出るほどだった。


そんな充実した食事をすました後師匠についてくるように言われた。

物見高いユーリィやマキアもおもしろそうだからという理由で後をついてきたが正直やめて欲しい。

師匠がこれからすることはだいたい想像できるし……

あまりみっともないところは見せたくない


「よしっ、ここらでいいだろう」

師匠がそう言ったのは池のほとりの開けた場所だった。

身の丈をゆうに超す師匠の黄金の槍は太陽の光をキラキラと反射している。


その槍が俺に向けられていなければただ綺麗だろうと思っただろうな


「お前がどれだけ成長したか見てやろう。後、お前は植物使うの禁止だ。」


「師匠とやるのは疲れるから嫌いなんだけどな」


「バカかお前は?それじゃあそろそろ行くぞ」


口ではそう言ったものの俺も師匠と久しぶりに闘えて嬉しい。まだまだ師匠に届くとは思わないが少しは師匠に俺の成長を認めさせてやる。


師匠相手に後手に回ると永遠に攻撃の機会が回ってきそうにないので先制攻撃をしかける。

ベアンテによって強化された脚力で後ろに回りこみ突きとみせかけてのなぎ払いも師匠は体を後ろに傾けてかわす。

次々と槍を師匠目がけて衝くがどれひとつとして当たらない。

中には惜しいのもあったが師匠は自分の槍で刃先を違う方向へと受け流す。


前回闘った時と似たような流れになるのを感じた俺はこの状況を打破するために師匠によって受け流された槍を体の横で一回転させ槍の石突の部分で土を巻き上げ師匠に飛ばす。

さすがに師匠もこの攻撃は予期していなかったようで一瞬動揺した様子を見せる。


チャンス!!


師匠の槍は長い分間合いもが長いが、近寄ったらその攻撃手段のほとんどが削られる。

でも俺の槍はちょうど短槍と長槍の間ぐらいなので師匠より十分間合いを生かすことが出来るだろう!!

一足飛びで師匠の間合いに入り槍を打ち上げようとしたが師匠は筋肉が浮き出るほど槍を強く握っていて己の武器を離さない。


この膠着状態は不味いと思った俺は師匠の胸板を蹴って距離をおく。

けっこうな勢いで蹴ったはずだが師匠は微動だにしないのでおそらくダメージもほとんど無いだろう。


ったく!どんだけ化け物なんだよ


「……そろそろ攻撃するぞ」


師匠はそう言うと俺にむかってつっこんでくると思いきや!?普通の歩くスピードで近づいてきた。

その師匠の突飛な行動にいささか驚いたが槍を構えて待ち受ける。

ジャリジャリと土を踏みしめながら歩いてくる師匠は余りにもスキだらけだが、それゆえに手が出せない。


そんなふうに俺が逡巡していると師匠はいつのまにか目の前まで迫ってきていた。

嫌な予感を感じて体を伏せると頭上を師匠の槍が通過する。


まったくのノーモーションからのあの衝きをかわせたのはまさに奇跡としかいいようがないな。


とはいえ師匠がそれぐらいで追撃を止めるような人じゃないので俺はしゃがんだ体勢から足払いをする。師匠は軽く飛んで避け、着地と同時に俺の槍を掴みもう一方の手で槍をもっている俺の手に鋭い手刀をはなつ。


そのあまりの痛さに手が痺れ俺は敢え無く槍を落としてしまった。


「このっ、軟弱物!!」


師匠は風を切るほどの激しいビンタをした。

観客の女性たちがあっと息を呑む音が聞こえる。


打たれた右ほほはしばらく感覚が無くなった後熱を持ち始め、頭の中では何故っ!?という考えといつか師匠を絶対泣かしてやるという思いがムクムクと膨れていく。


「何でぶつんですか!?」


「当然だ。自分の命をつなぐ槍を落とすということは自分の命を落とすということだ。


もっともお前の命のほうが槍より軽いというなら話は別だがな」


くっ、正論だけに言い返せない。


「そんなムスッとした顔をするな。今回の戦闘は前よりましだったぞ。


戦闘時間が一分から三分に延びている。大幅な進歩じゃないか?」


何このおっさん喧嘩売ってんの?


はいはいすごい進歩ですよ。師匠に俺の攻撃すべてが避けられて、息すらもきらせない程短い戦闘を進歩と呼ぶならな。


「イツキ、お前が本当に強くなりたいならその槍と話してみろ」


なかなかおもしろい冗談ですねと言おうと思ったところで言うのを止めた。師匠の顔があまりにも真剣そのものだったからだ。

師匠はふざけた人だが時々真剣な表情をする時は嘘なんかつかない。そういう時は教会の中でも高位な司教という役職についていることも頷けるほどだ。

でも現代人である俺は槍と話すなんていまいち信じられないのも確かなので一応確認をとっておく。


「師匠はその黄金色の槍と普通に会話ができるんですか?」


「いや、意志の疎通は出来ない。


その性質に魔をもつ武器はたいてい強い意志をもっていてな。その意志を聞き取り武器に認められることを『話す』というんだよ。


実際にこちら側から話しかけても答えは帰ってこない」


師匠の話を聞いていたユーリィとマキアも『なるほど~』といったような声をあげる。


「実際に試してみたら分かるさ。

まず己の武器を持って胸のあたりに当てるんだ。そして目を閉じてひたすら武器から意志が伝わってくるのを待つ。


まぁ一気に認められるとは思ってないからゆっくりやるといい。

そこにいるユレイアとマキアちゃんも試しにやってみなさい。」



「ふむ~、難しいのじゃ」


「あせるなマキア、カナゼ司教もおっしゃっただろう。


どうやらこれは大分根気のいる特訓らしい」


上のマキア達の会話から分かるようにこの特訓はそうとう大変だ。

かくいう俺も愛槍を胸にかかえて瞑想のまねごとをしているが槍からの意思は何も感じられない。

これはまだ俺が槍に意志があるということに半信半疑なのが原因なのかもしれないが、異世界人であるユーリィやマキアも感じられてないので時間がかかるものなんだろう。


しかし何も進展が望めないまま無為にこうやっているより槍の特訓をしたほうが効率的なんじゃないか?また次に何時人狼が襲ってくるかも分からないというのに……


そんな不安で押しつぶされそうになる。


ふと気配を感じて目を開けてみれば目の前には師匠の姿が


「師匠どうしたんですか?」


動揺を隠して何気ないように聞く。


「安心しろ。ここは外とは隔絶された世界だ。そう簡単に進入などできん」


「……師匠にはバレバレみたいですね」


「私だけでなくお前の仲間にもな。


女はな、男のたまに見せる弱みにコロッといってしまうんだ。だからたまには仲間に頼れ」


そうおちゃらけて言う師匠。


良しっ、今度相談に乗ってもらおう!!


別に落としたい訳じゃないよ、本当に……!!


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