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樹当千  作者: 千葉
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三十六話 追跡


楽しみにしてくださる読者の皆さんの期待に答えたい!


ナーガが出て行った宿屋の中には深い静寂が訪れていた。

詳しく説明もせずに勝手に出ていったナーガとそれを止めきれなかった自分自身にいらついて仕様が無い。

ナーガは俺の親友だ。

お互い隠し事はしていても、根っこのほうでは一緒にいたいという思いで繋がっていたと思っていたのに……



俺は苛立ちで拳を握り締め、宿屋の白くて頑丈そうな壁にその拳を振り下ろす。


ドスッと鈍い音をたてた後、少し血でにじんだ拳を壁からゆっくり離すと壁は俺の拳型にへこんでおり、端の方からパラパラと壁の欠片が落ちていく。


そしてさっきまで痛んでいた拳も傷口を塞ぐようにニュルニュルとつたが生えてすぐに傷の痕も無くなり、ひりひりした感覚だけが手に残った。


俺もスッカリ化け物になっちまったな……

こんな化け物にもう親友なんて出来るのか?


「イツキ、さっきまで我慢していたがもう我慢の限界だ!!何だその女々しさは?臆病風ににでも吹かれたような表情は? 壁になんぞ八つ当たりしおってそれでお前の気分は晴れるのか!?」

俺は急激に怒り出したユーリィに唖然としてしまってただ黙るばかりでいる。

「確かにナーガの決意は堅そうだった。だがイツキ、お前はここでナーガと別れてしまっていいのか?」

「・・・・」

「私達は同じ『ルクゾの宴』の仲間じゃなかったのか?」

ユーリィの言うことは正しい


ナーガの固い決意が秘められた表情を見ると、小心者の俺はただ最後の言葉を受けとめるだ事しか出来なくて、結局最後に奴を引き止められなかったのだ。


こんなに広い世界だ。このままだと本当にもうナーガと会える機会など無いのかもしれない。


俺はこの世界で生きていくと決めた。

だったらこの世界で悔いの残るようなことはしたくない!!

「ありがとうユーリィ」

「気にするな」

「そしてこれからよろしくなマキア」

「えっ!?」

マキアはいきなり振られたことに目をパチパチさせて驚いている

「……我も一緒に行ってよいのか?」

「いや、今更?」

「マキアお前も『ルクゾの宴』の仲間だ」



マキアはそれを聞くと嬉しそうにガロンに抱きつく。

ガロンは少し迷惑そうな表情をしたがまんざらでもなさそうだった。


ガロンの羽毛に顔を埋めるマキアが俺には泣いているように見えた。




俺達は宿にある荷物をとるとすぐにナーガを追って出発した。

ナーガは目に包帯を巻いていてかなり目立つので道行く人に尋ねることで簡単に情報を手に入れることが出来たが、ダッドルメアから北東の方角に行ったということまでしか分からなかった。


「北東の方角には何があるんだ?」

「近い場所ではイリア公国、更に北東にはラノーラ帝国があるのじゃ」

「おそらく前者はないだろう。イリア公国は三十年以上前から完全に鎖国状態だからな。死体でもない限り国に入れないし出れない」

「イリア公国を北周りに迂回してラノーラ帝国に入る案が一番妥当じゃろうな」

「それに速度を速めれば途中のヤコブ村で追いつけるかもしれない!」

「そうじゃな」



言い出したのは俺なのに全然話に着いていけない

悲しいけど、ここ異世界なのよね。


今度からはユーリィの異世界地理講義を耳から耳へと流さずに真面目に聞くようにしよう



ダッドルメアから出るのに少々時間がかかったが俺達は出発した。


緑豊かなダッドルメアから北上していくと徐々に緑が減っていき、日が暮れるころにはサボテンらしき生物を除いて草一本見当たらない荒野に姿を変えたところで野営の準備をした。


さすがに一切休み無しの強行軍だったので旅に慣れているはずのユーリィまでも肩で息をしていて疲労を隠しきれていない様子だ。


マキアもガロンの上で仰向けに寝そべっている状況なので、唯一動ける俺が店で買った食材で簡単なものをつくり、疲れているマキアたちに無理やり食べさせた。


飯を食べないと体はろくに動いちゃあくれないからな


「ユーリィ、マキア、今夜は俺から見張りをするよ」


「すまないイツキ。ウィスプが沈んだ頃に起こしてくれ、そこで交代しよう」

ユーリィはそう言うと俺がベアンテを編んで作ったハンモックに飛び込み、スヤスヤと静かな寝息をたて始めた。


「おやすみなのじゃイツキ。ユーリィを起こしたら二時間後に見張りを交代しようと伝えてくれ」


マキアも既に眠っているガロンに抱きつくようにして眠りについた。


「さ~て」

さすがに大分体力はあるとはいえ、今日の旅程はかなりハードだったので横になるとすぐ寝てしまいたくなるような眠気を感じる。


俺は最近全く違和感がなくなったイバラの冠をいじりながら近くの黄色の花を咲かした一番大きなサボテンに近づいて話しかける。

『すまない、少し力をわけてくれないか?』


サボテンから肯定の意が感じられたと同時に俺へ力が流れ込んできた。


この厳しい環境の中に生息しているのもあってか、サボテンには予想以上の生命力があり、昼間の体力の消耗をすべて回復してくれた。


お礼の言葉を述べるとサボテンはカーッという擬音が出そうなほどその棘棘な表面を真っ赤にした。


この子、女の子だったのか!?おそらく性格は見た目どおりツンツンしているのだろう。

いや、さっき照れたからこの子はツンデレだな!!


この子によって心と体もリフレッシュした俺は寝ているユーリィとマキアに近寄り(別にやらしい下心があって近づいたわけではない事をここに誓おう)、深い催眠効果のあるトミン草を地面から生やし、その花粉をそっと顔に落とす。


酷い幻覚作用をもたらす幻覚草の一種だが、何事もつかい方次第というわけだ。


おそらくどんなにうるさくしても朝まで一度も起きないだろう。


俺みたいに直接植物から力をもらえないユーリィとマキアはしっかり休んで、明日の旅程に備えるべきだ。




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