三十四話 天誅。いや、人誅?
テスト週間だったので更新遅れました。
真に申し訳無い!!
月明かりが辺りを幻想的に照らす薄闇の中、遠くの方で犬が鳴いているのが聞こえる。
『あ~こちら隊員I、隊員Yそちらの様子はどうだ?オーバー』
『非常に可愛いワンコを見つけたぞオーバー』
『Y様が非常に可愛いぞオーバー』
『隊員Nはすぐさま帰れオーバー』
『だいたいオーバーとは何じゃイツキ?もっと皆は真面目にやるべきだと思うのじゃが…』
そう俺達は某商人の屋敷に潜入する際、それぞれの進入ルートから入ることになったのだ。
各個での潜入はより敵からの発見率を上げることになるのだが俺達にはマキアが用意した地図があるし、それになによりこの通信用魔導具『コード』をもっと使いたかったからである。
『石で躓いたぞオーバー、でもってその石はなかなか綺麗だったぞオーバー』
『隊員Nのそういう報告はこれから無視していくぞオーバー』
『『隊員Y・M共に了解!!オーバー』』
その後も何かを言っていたナーガを無視してマキアが突入のゴーサインを出したのでそろそろ活動するとしよう。
俺は屋敷の裏から潜入することになったが、この屋敷の周りは三メートルほどの鉄柵で囲まれているので一番警備が厳重な正面を除いてあまり潜入の難しさに違いは無い。
重要なのはタイミングだ
妙に高そうな装備をつけた巡回の兵士が通り過ぎていった後急いで柵に近寄り、力任せに柵を開いてすきまをつくりそこに体をねじ込ませると再び力任せに柵を閉じる。
あまりスマートなやり方では無いが柵を壊すよりも音が出ないですむので今回はそうした。
次回があるとは思わないが…
屋敷は宮殿のようなつくりをしていて綺麗に手入れされた庭や悪趣味な魔物の銅像が置いてあったりしたが、肝心の建物への入り口が見当たらない。
普通ここまで大きな屋敷だと入り口の五つや六つぐらいありそうなものだがそれらしきものは無く焦りは募るばかりだ。
トロトロしてるとまた警備の連中が来てしまう。
角の向こうから見張りの連中の話し声が聞こえてくる段階になって今まで上を見てなかったことに気づき、見上げると頭上十メートルにようやく入り口になりそうな窓を見つけた俺は急いでその窓へつながるベランダにベアンテを伸ばし、引っかかったのを確認した後ベアンテを収納してなんとか見張りにばれずにベランダへと降り立つことが出来た。
「ふぅ、ギリギリだったな」
さ~て後はこの家の主人とお話するだけだなと…油断していたのがいけなかったかもしれない。
「武器を置け」
いつのまにか俺の首もとにはナイフが押し当てられていたのでとりあえず俺は謎の人物のいうことを若干ビビリながら聞く。
「良し。そのまま両手を頭の後ろで組んでゆっくりこっちを向け」
恐る恐る謎の人物と顔を合わすとそこには・・・どや顔のナーガがいた。
「まったくイツキは油断しすぎだぞ。もし俺が敵だったらどうする?」
「フフフフフ、ハハハハハッ!!」
「どうした急に笑い出して、ついに壊れたか?」
「テキハッケン、コウゲキヲカイシスル。」
「止めろっ、槍をこっちにむけるな!!アッーー!!」
『こちらスネーク、潜入に成功した』
『了解だ。そういえばナーガだけ潜入成功の報告が無かったんだが知っているか?』
『…いや、ナーガは知らないが足下でピクピク動く生物なら知っているぞ』
『はぁ、なら帰りにでも拾ってくれ』
それだけ言うとユーリィはコードを切った。
何ぶん潜入なので屋敷内では無駄な会話はしないようにと決めていたからだ。
ユーリィに帰りに拾えと言われたがナーガはでかいから運ぶの面倒くさいな
仕方無いから俺の大自然の力をちょっと分けてやって回復させるか。
…もともとこの力は大自然の力を借りて本人の自己治癒速度を速めるというもので神聖魔法のようにケガの部分を修復するわけでは無いのだが、その分即効性は神聖魔法を軽く抜く
それを考えても、誰のせいかは知らないが先程まで見るも無残なほど体中を痛めつけられていたというのにもう全快しかけている…この回復速度は異常だぞ?俺も人のことはいえんが・・・
すぐにナーガは気がつくと顔を上げて死んだような目をしながら虚空の一点を見つめる。
ふざけているのだと最初は思ったが、あまりにも長くぼんやりとしているので心配になってナーガの肩をゆすって起こす。
「おい起きろナーガ!!ナーガちゃん起きなさい!!・・・チバ・イツキが命じる、起きろっ!!」
最後の一言が効いたのかナーガの目にようやく生気が戻ったのでホッとする。
「どうしたんだナーガ、ぼおっとして?」
「・・・いや、何でも無い。気にするな」
変な奴だな。あと、普通治療した俺にお礼とかあるだろう
「とにかくずっとこのバルコニーにいる訳にはいかないから、とっとと入ろうぜ」
「・・ああ」
なんだかナーガの様子がおかしい気がする。
・・・だが特に興味がないのでここは無視しておこう。
しかしどんなに探しても普通はあるはずのバルコニーへと続く扉は無く、あるのはガラス製の窓だけだ。
「入り口はあそこだけか」
現状確認のためにつぶやいた独り言をようやく正気にもどったナーガが聞き、苦笑いしながらやってくる。
「どうやらそのようだな。それでどうする?窓を壊したらその音を聞いた兵がやってくるぞ」
「ナーガには分からないだろうが、この窓には内鍵がかけらている」
「しかし俺達は今外にいるから関係ないだろ」
「あまいなナーガ君!まぁ君はそこで黙っていたまえ」
こういう時によくTVとかで見た泥棒の侵入方法が役に立つな。
俺は槍を両手でしっかり構え穂先に全神経を集中させると窓に軽く穂先が入るように槍を突き刺し、そのまま槍の先で円を描く。
そして円形に切り抜いたガラスが重力に従って地面へと落ちていくその前にそのガラスを槍で突き刺し、こっちへ引き抜けばミッションコンプリートだ。
後はあいた穴に手をつっこんで内鍵をあければいいだけ、アホの子のナーガですら出来る。
「・・・イツキ、お前だいぶ槍術が上達したな・・」
ナーガは口をポカンと開けて驚いている。
「俺も自分の才能が怖いよ」
でも師匠には遠く及ばない
槍の先が70センチ程しか無いというのにあきらかにそれ以上の大きさのものをいとも容易く切り裂いていくんだからな。
なんでも達人になると己の槍気で切断範囲をある程度増やせるらしい
俺の目測だと師匠は三メートル以上切断範囲がある。唯でさえ槍は攻撃範囲が広いというのに……
師匠はいずれ自分も使えるようになると言っていたがその日は来るのだろうか?
何はともあれ俺は今やることをやらなきゃな
窓から部屋に侵入して辺りを観察すると、どうやらここは使用人達の部屋らしく二段ベッドが三つ並べてありその中にはまだ幼い少年たちがすやすやと眠っていた。
俺とナーガは足音をたてないようにひっそり移動して出口のドアを開けるとそこには長い廊下が広がっていて足下には高価そうな絨毯が…
庶民で日本人の俺は靴を履いたまま絨毯を踏むというのに忌避感があるのでなるべく端の方を歩いていたがナーガがこっちをおかしなものでも見る目で見たので途中から真ん中を歩くことにした。
これが日本人の美徳だというのに…
とりあえず一番偉いこの屋敷の主は一番上の部屋にいそうなので、階段を上へ上へと上がっていったが家の中に兵はいないようで、時折屋敷の使用人と会った時は素早くベアンテで拘束した後、天井に吊り下げてばれないようにした。
にしても、この家の調度品は全てが金や銀、よく知らないが高価そうな材質でできたものばかりだな。
どれほど悪いことをすればこんなに金持ちになれるのだろう?
しばらく進むといかにもな部屋をみつけた。
扉の両端には二対の翼をもち片手に剣を掲げた醜悪な顔の悪魔の石像があり、到底入る者を歓迎しているようには見えなかった。
「ったく、いい趣味してるな」
「全くだ」
扉まであと数歩というとこで急に石像の目が赤く輝きだし、こちらへ剣を構えた。
『『待て!』』
「おいおいこいつらしゃべるのか?」
「どうやら魔導ゴーレムみたいだな」
『『わが主はお休みだ。邪魔するものは許さない』』
ゴーレムかぁ、いよいよファンタジーめいてきたな
「邪魔するっていったら?」
『『貴様らを排除す、ガッsdsfrtrヴあうvt……』』
奴らが話しきる前にゴーレム一体の脳天には俺の槍が刺さり、もう一体の脳天はナーガが粉々に拳で砕いた。
俺長い(・・)話を聞くの嫌いなんだよね。
槍を引き抜いて扉を開けると、一番最初に目に着くのは月明かりがさす窓際で佇んでいる二人の女神だ。
憂いを帯びた顔の二人だったが俺達の姿を見ると、ホッとしたように笑みを浮かべる。
「遅いぞイツキっ!」
「すまん、ナーガが女湯をどうしても覗きたがるのを俺は必死で止めていたんだ…」
ユーリィとマキアは魔獣でも逃げ出すほど冷たい視線をナーガに向ける。
「いえっ、違いますよ!!全然そんなことはしていませんから、そんな目で見ないでください!!」
女性陣の目の前で土下座をするナーガを見て楽しんでニタニタしていると、ナーガがこっちに憤怒の表情を向けて口の動きで『後で絶対殺す!!』と言っていたから笑うのを一旦止めた。
「それでこいつどうするんだ」
俺の指差す先には天蓋つきのベッドでゴーゴーといびきをかいて寝るメタボな商人。
「そうじゃな、盛りのついたオス猫は去勢と相場が決まっておろう」
「うむ、賛成だ!」
それは同じ男としていたたまれないな
「さすがにそれは・・・」
「何だ!?反論でもあるのか?」
ユーリィが『お前も同類か?』とでもいいたげな目でこっちを睨んできたが、ここで引き下がったらこの先ユーリィに一生勝てない気がするので一度ガツンと言ってやらないとな
「あの~、去勢されたらこの商人は使用人達に責任を求めてクビか良くて体罰をすると思うし、情操教育的に良くないと思うんですよ、はい」
俺は根っからのへたれでした
「う~ん、確かに後味が悪いな」
「その代わりに提案があるんだが」
俺の可愛い寄生植物たち、もとい何者かの手によってその商人はまるで人が変わったかのように商品の品質向上や価格低下、更には孤児院の建設や教会への寄付などの善行を積極的に行い始めたらしい。もちろん、女を囲って遊ぶことも無くなりその代わりに密かに美男子を集めているらしい。
不思議なこともあったものだな。
そろそろシリアスを書きたいので少しずつフラグを立てていっている今日この頃です。
読者の皆さんも要望があればどうぞ