三話 出会い
ベアンテに能力をもらうとすぐに周りの木々の意識が感じられるようになった。
おおざっぱな喜びや歓迎の意思を感じる。どうやらまだ若い樹らしく会話をする能力は無いが俺の言うことはだいたいわかるらしい。「水場はどっちにあるんだ?」
すると木の枝が一本落ちてきて、その切っ先を俺から見て左の方に向けた。
「ありがとう」
木は嬉しそうに葉っぱを震わせた。
木の指した方向に進むこと一時間、ようやく水の流れる音が聞こえてきた。
幅10メートルくらいの川が見えると、近くに寄り水を飲み始める。
ひとしきり飲み終わると近くに人の気配がした。
自分の気配を殺しながら藪に隠れると、向こう岸で女の人が水をくんでいた。
白金の鎧を身につけ長い金髪を肩下まで伸ばしたその姿は女神アテナを彷彿させる。
つり目が更に魅力を上げている。興奮で思わず前に身をだすと、ガサッと音がしてしまった。
「誰だ!?出て来い!」
ばれてしまったならしょうがないな。
「我が名はイツキ!東の果てよりこの地へきた。そなたはこの森に住む古い神か?」
「いや違う、何を言ってるんだ?」
そこは無視して「去れ」といって欲しかったが異世界だから仕方ないか。
「どうせお前もこの森の遺跡に残る財宝が目当てか?」
「えっ、うんそうそう。」よくわからないので適当にうなずいておこう。
「なら貴様はライバルというわけか。ピンチになったら助けてやってもいいぞ。」
馬鹿にしたように彼女は言う。
「じゃあそん時はよろしく。」
「き、貴様には男としてのプライドは無いのか?」
「そうは言われてもな。」
「貴様のような男は始めてだ。」
そういって彼女は呆れたような顔をする。
「名前を教えてくれないか?」
「これは申し遅れたな。我が名はユレイア・イーストフッド、武者修行の旅をしている。
先ほどの非礼を許して欲しい。昔から女だとなめてかかってくる輩が嫌いなのだ。」
「気にするな、俺は気にしてないし。」
「そうもいかん、なにか手伝えることはないか?」
「じゃあこの国の名前と、その遺跡について教えて欲しい。」
「なんだ、知ってきたんじゃないのか。」
「実は特に目的地もなくふらふらと旅をしてきたからここがどこか分からないんだ。」
もちろん嘘だ。
「ここはザルナ王国だ。そして遺跡とはザルナ王国の南部に位置するここシンの森にある大昔の魔法の遺跡だ。子供でも知ってるぞ」
「そんなに有名ならもう財宝はなくなっているんじゃないか?」
「本当に何も知らないんだな。歴史上その遺跡にたどり着き帰った人物は3人しかいないんだぞ。そして彼らが持ち帰った財宝は各国の国宝になっていて、ここシンの森にたどり着いた者はいても深部に一歩進めばそこから先は多種多様な魔獣や人を食べる植物もいるんだぞ。」
「だったら協力しないか」
「見た限り武器も持ってないし、私に利益があるとは思えんがな。」
「俺は人食い植物を避ける術をもっている。」
「きついようだが、お前が嘘をついても死ぬだけたぞ。」
「だったら俺が嘘つく必要は無いだろ。」
「わかった。これからよろしくな。」
そういってユレイアは手をさし伸ばした。
「ああ、よろしく。」
俺たちは手を握り合った。すごくやわらかったぞ☆