二十七話 女って大変そうだ
「ねぇ、ゼノア教って有名なのか?」
長めのスカートをはいて黒髪のロングにイバラの冠をつけた少女?が聞く。
「数年程前から勢力を強めてきた宗教でな。今では十数カ国が国教に定めていて、メイハ教の次ぐらいに有名なんだぞ。」
全身鎧姿で腰まで届く長い金髪の美人が答える。
「ユレイア様は博識ですな」
ローブを纏い茶髪のショートでなかなかの美女?がゴマをする。
・・・・そう、何を隠そう、俺、ユーリィ、ナーガだ。
「それにしても二人ともよく似合っているな。イツキはかわいいし、ナーガは美人だぞ。」
そう、俺も驚いたことにナーガはかなり女装が上手かった。さすがに体の筋肉を見ると男だとばれるので、それを隠すためにローブを着ると女にしか見えない。
なんだかくやしいな。
「それにイツキその冠良く似合っていてカッコイイぞ」
「あんがと」
「そこのお三方!あなたたちは雇われたんだからしっかり働いてもらわないと困ります!」
そういってくるのは貴族のお嬢様つきの家庭教師兼、侍女のサリアだ。メガネをかけていてクールな女と言う感じだ、そして美人だ。
「「「は~い」」」
「では馬車の外の護衛は頼みましたよ」
そういいながら貴族のお嬢様の乗っているきらびやかな馬車の中に入っていった。
「なぁユーリィ、なんで護衛は女だけなんだ?」
「サリアが言うには、貴族のお嬢様は幼い頃からそれはそれは大切に育てられたらしく父親以外の男は嫌悪しているそうだ」
「じゃあもしもばれたら大変なことになるんじゃあ・・・」
「ああたぶんな、だからこれからイツキとナーガは女言葉を使い、女の子らしさをアピールするんだ」
「わかった」「わかりましたユレイア様」
「違う女の子言葉でだ!」
「分かったわ」「分かりましたわユレイア様」
本当にこれで大丈夫なんだろうか?
それから俺達はしばらく街道を進んでいき、時折出るはぐれ狼や蝙蝠の魔獣はナーガとユレイアが全て対処することになっている。
俺は初めて着るスカートのせいで上手く動けないし、俺の能力は護衛にはピッタリの能力なので戦闘の間は馬車の近くで待機している。
「ねぇ、サリア私モンスターって見たこと無いから外覗いていい?」
「ダメです!!旦那様からお嬢様を危険な目にあわすなときつく言われてますので。」
「ケチ~」
「モンスターは本当に危険なんですよ!!」
「ちぇっ、分かったわよ」
馬車の中から二人の話し声が聞こえる。一人はサリアでもう一人がお嬢様ってことか。
会話を聞くになかなかのおてんばぶりでサリアも大変だろうな。
それにしてもすることが無いな~。あ~あ、何か面白いことが起きないかな~。
そんなイベント発生フラグをつぶやく俺の努力が報われたのか、近くの草むらから狼が飛び出しちょうどユーリィとナーガの間をすり抜けるようにして俺の待ちうける馬車に向かってきた。
距離は数メートル位でまっすぐ俺の方向に向かってくる。血走った目でこちらを見据え、その巨体には似合わないスピードで向かってくる狼だがレベルアップした今の俺なら余裕で仕留められるザコだ。
俺が狼を倒すべく槍を構えた瞬間守るべき馬車の中からいきなり少女が飛び出してきた。
「へっへ~、誰がモンスターを見るのをあきらめるもんですか!!」
「待ちなさいお嬢様っ!!」
その少女の後をサリアが追いかけてくるがすでに少女は馬車を飛び出た後なのでもう遅い。
そして当の少女は生の狼の恐ろしさを目にして今にも泣き出しそうな顔をしている。
「な、何なのよこの生き物は?」
最悪なことに狼はおびえる少女といういい獲物を見つけ標的を俺から少女に変えて勢いよく少女の方へ走り出した。
俺は全力で地面を蹴り数メートル先の狼の喉に槍を突き刺す。
「ご無事ですかお嬢様?」
「え、ええ」
その後少女の為に一度休憩をとることになった。
ユーリィは剣の素振りをしていて、ナーガは辺りの見張りを、そして俺はなんだか少女に懐かれてしまった。少女の名はクミと言い、髪をはポニーテールにしていてこっちに首を振り向くたびにいい匂いが・・・・はっ!?危ねぇー、危うくロリコンになるところだったぜ!!
「ねぇ、どうしてイツミは冒険者になったの?」
ちなみにイツミは女装することになった時決めた俺の偽名だ。
「ユーリィが誘ってくれてね」
女言葉は気持ち悪いな、しかし我慢だ俺っ!!
「ねぇそのイバラの冠をかぶらせて!」
「別にいいけどこれを私以外がかぶったら死ぬよ」
「ええっ!?」
「おいおいイツミ、嘘をついたらかわいそうだろ」
「ナロア」
ナロアはナーガの源氏名だ。
「そ、そうよね。イツミも冗談がすぎるわ、もう。」
「イツミ以外がかぶったら五感全てを失うんだろ?」
「えええっ!?」
純粋な反応をするクミで遊ぶのはとっても楽しい。その後もサリアの目を盗んで休憩の間はナーガと一緒にクミで遊んだ。
しかしユーリィがサリアにチクったらしく笑顔で近くの林に連れこまれ、首下にナイフを当てられた状態でお説教をくらった。
ちょっとふざけただけなのにな。いつの世も天才は理解されない
その日の旅程もクリアし、俺達は湖の近くに野宿することになった。
まるで海のように広くコバルトブルー色の湖はとてもきれいで途中でナーガが止めなかったらそのまま飛び込んでいたところだ。たしかに今俺は女という設定だったな。
手馴れた手つきで肉を捌く俺、高校の時は全く料理をしてなかったがこの世界に来てだいぶ慣れた。なにしろユーリィが作る料理はまさに男料理という感じで、下手をすると食材が生のまま入っている時もあるぐらいなので率先して俺がやるようになった。
「この肉料理美味いぞ!イツミこれはどんな料理なんだ?」
「故郷の民族料理の肉じゃがです」
「なぁ、サリアこの料理こんどシェフに作ってもらおう!」
「確かに美味しいですね。驚きました」
予想以上に人気であっという間に鍋は空っぽになった。特にユーリィは鍋の中身が無くなるともの凄く悲しそうな顔をしていたのでかなり気に入ったんだろう。
日はすっかり暮れたがウィスプ(月みたいなもの)は青く輝いており辺りの景色ははっきり見える。
こんな綺麗な景色は日本では決して見れないものだろうが……暑い。
日本の夏の暑苦しさのようでジメジメとしていて常に汗がにじみ出るような状態だ。
ああ~、カツラを脱ぎたい!!ものすごく蒸れるんだぞこれっ!!
「ナロアちゃんもう限界だ」
「私だって暑いんだ、我慢しろっ!」
「あらっ、じゃあそのローブを脱げばいいじゃない?」
かなりえげつないことを言うなクミは。『パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない』並みの暴言だぞ。恐るべきはその純粋さというわけか!
「ローブを脱いだ程度じゃこの暑さはしのげませんよお嬢様」
ナイス補助だサリア!!さすがに貴族のお嬢様付きの侍女だな。
「これから一緒に湖で水浴びをしませんか?」
そう誘うサリアは良く見れば出る所は出てへこむ所はへこんでいる体だ。
「喜んd「ダメだ!!」
「どうしてですかユレイアさん?皆で行った方が楽しいですよ」
「そうだよユーリィ」「そうですよユレイア様」
ナーガと俺は背中の後ろで結託の握手をする。だがユーリィがものすごい笑顔で俺達に近寄ると思いっきり俺達の足を踏む。
「や、やっぱり私達は寝床を作らなきゃいけないから後で入るわ」
「そ、そうですね。ユレイア様たちは気にしないで楽しんでください」
「そ、そうなの。気が変わったら来てね」
「イツミー、早く終わったら絶対来るのよ!」
サリア、クミの順番で俺達に声をかけ、湖の方へ走っていく。
最後に残ったユーリィが笑顔でこちらを向くので、俺とナーガは後ずさりする。
「くれぐれも来るんじゃないぞ!」
無言でコクコクする俺達。
その後は楽しそうに走っていきなさった。
次回の投稿は二~三日内にするつもりです。
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W杯で日本代表におくる声援の十万分の一をおらに分けてくれ!!