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第二話 新しい生活と新しい感覚

 私の朝の始まりは四時から始まる。最小限学校の荷物を黒色のブリーフケースに入れ六時には家を出る。ブリーフケースの中には前日に配られた教材等々。家のことは全て鈴谷さんがやってくれるから、任せっきりになっている。勿論自分の学校の用意くらいは自分でやらなければと思い、励んでいるが苦労のほうが多いと思う。そう考えると自分のことは少しは自分でやらなければなと思うよ。

 

 そういえば鈴谷さんの誕生日がもうじきだったと思うけど、学校帰りになにか買っておくか。バス停まで歩くと、やはりいつも通り内藤さんが座って待っていた。もうバスは行ってしまった直後なのに乗らなかったのだろう。

 

 内藤さんはこちらの方に振り向くと「おはよう」と清々しい声で行ってくれた。私の朝が始まった気がした。


 このときからだろうか、私の心が自然と人と通うようになったのは。

 

 バスに乗り込むと運転席の後ろに、九月でこのバスが廃線になってしまう予告がされていた。

 「これからは鈴谷さんに頼んで車で送ってもらうしかないのか。」とぼそっと溢した。

 

 「四十九院くんは廃線になったらどうやって通うの?私はお父さんに車で駅まで送ってもらうけど」

 

 「私もメイドの鈴谷さんに車で送ってもらえればなと考えてる。歩いて駅までは歩き疲れてしまうのでね。」

 

 「鈴谷さんって?」

 

 「私の家で働いてるメイドさん。家事のほとんどすべてをやってもらって、少し罪感が残るけど。」

 

 「そうなんだ。」そこで話は終わってしまった。

 

 「青人草」は淡々と物語が続いていく。

 {「青人草」の主人公だったら考えながらも真に迫っていけるのにな。}小説の主人公に憧れを抱きながらも電車は進んだ。

 

 話題もそこまで膨らまずに、授業のことや友人関係のことについて内藤さんに色々聞いてみた。教室についたところで内藤さんの何名かの友人を紹介してもらった。

 

 「あの席の子が水戸静香めちゃくちゃ頭いいよ〜。私の前の席は京谷舞衣さん吹奏楽部だよ。あの子が…」

 

 「すず〜。」教室の端から内藤さんを呼ぶ声が聞こえた。

 

 (まだ高校が始まって三ヶ月程度なのにもう学友をたくさん作ってる。社交的だな。)

 

 「その人は?」私の方に向きを変え聞いてきた。

 

 「彼は四十九院十二国くん。先週転入してきたばっかりなの」

 

 「四十九院です。」深々と頭を下げて自己紹介をする。(あまり慎みすぎても相手に失礼かな。)

 

 「四十九院くん。彼女は北原柚子。」

 

 「よろしく-お願いします。変わった名前ですね。」北原さんは先程との落差が激しく小さな声で挨拶を交わした。

 

 (私と初対面で話す人はみんなおどおどするのか。まぁ、珍しい名字にこんな名前だからな。殆ど数字で構成されてるし。なんでこんな名前になっちまったのかな。 )ちょうどチャイムが鳴った。

 

 「やべ戻らねえと。じゃあなすずと...四十九院くん//」

 

 「随分と元気な子ですね。」

 

 「あの子は隣の一組の子だよ。次の授業は体育か。更衣室と体育館の場所まで一緒に行こうか。//」

 

 「お願い、…します。」

 

 「今日は二人一組になってシュートパスの練習を行います。ではペアを組んでください。」

 

 「四十九院くんは転入したてでしょ。良かったら私と組もうよ。」内藤さんが昇降口の下駄箱で話す。

 

 「それもそうですね。お願いします。」(一人になって浮き出てしまうのだけは避けたいところだったんだ。)校庭に出て整列すると、内藤さんとペアを組んで早速パスの練習を始めたが、内藤さんはボールの扱いが上手なようだ。

 

 「随分パス回しが上手ですね。」

 

 「昔少しだけやってただけだよ。四十九院くんはなにかスポーツやってるの?」

 

 「私は何もしていないですね。興味がないのかな。」(昔から運動は苦手だからな。)

 

 「そういう事あるよね。でも四十九院くんは今まで自由に何かしたいとか、考えたことある?」私は少し迷った。今まで何一つ不自由なく暮らしていたから、自分が何かしたいとか欲しいとか親に話したことがなかった。それ以前に親との間の距離が大きく基本一人だった。

 

 「自分の自由...。私にはよくわからない。」(改めて考えてみると自由が常に隣りにあったのか。違う自由なんじゃない、相手にされたなかったのか。そう考えるとなんとも虚しい。)自由についてあまり気にしていない自分がいた。だけど本当に欲しかったのは自由じゃなかったのかもしれない。

 

 今はそう思うしかなかった。

 

 「じゃあさ、一緒に探しに行こうよ。自分が本当にやりたいこと、したいこと。」嬉しそうに奥まで聞いてくる。

 

 「内藤さんのやりたいことや楽しいことって何?」今の自分には何もわからない。なら内藤さんに聞いてみれば参考になるかもしれない。

 

 「すずでいいよ。私は友だちと話したり、体動かしたり。あと本を読むのも好き。」本を読むのが好きというのは同じだな。

 

 「あとは...」蟬が泣き止む。

 

 「君と一緒に学校に行くことかな。//試しに明日一緒に山の奥の方まで行ってみようよ。明日ちょうど休みだし。」私と一緒にいて気にならないのか。怖がられないのは初めてだ。でも山の奥に行くとは。まぁ、こんな明るい子なんだ。付き合ってやらねば、私のみさおに反する。

 

 「内藤さん。いやすずさんは本当に明るい子ですね。とても良い学友になれそうですよ。」

 

 「え、まだ友達じゃないの!」(こんなにも心を動かされたことはない。やはり私も内藤さんと一緒にいる時間がとても惜しく感じているのかな。)

 

 「今日も楽しかったね。」首を傾げながら甘い声で言った。疲れているのだろう。

 

 「そうですね」私も帰宅にこんなに疲労を要するとは、思いもしなかった。(明日か。)

 

 「じゃ、明日連絡するから見てね。またね」いつもハツラツとしていて楽しいんだろうな。

 

 「行ってしまわれた。……おっと忘れてた。」急いで帰ってきた道を戻り、商店街の中心にある本屋に入って鈴谷さんへの誕生日のプレゼントを買った。前から買おうと思っていた小説を買った。


 山にかかった夕日を見る。山側からの日光に顔が火照る。体が暖かいんじゃない、今は心が暖かいんだ。家に変えると鈴谷さんが玄関で待っていた。今の私は今までしてこなかったことをしてみたい。そう思うとドアを閉め、鈴谷さんに抱きついた。そして耳元で「ただいま」と囁いた。

 

 鈴谷さんは顔全体を赤くしたまま放心状態になってしまった。そしてそのままキッチンに戻っていったが、憔悴しているように見えた。夕食の時、私はいきなりしてしまったことを謝った。

 

 「あの先程はごめんなさい。今までしてこれなかったことをしたくって。それと今まで任せっきりにしてしまったお礼のつもりでした。」流石に思い切った行動に出過ぎた。

 

 「いいんですよ。私も嬉しかったですし。なんだか心が晴れた気持ちになりました。」照れ隠しをしながら言った。いつも笑みを浮かべたことがなかった鈴谷さんが、大きく口を開けて笑ってくれた。内心少し可愛らしいと思ってしまう私がいた。

 

 (でも仕事で笑ってくれているだけだよね。もう流石に他のことで礼をしなければ。)

 

 今日の夕食も終えた。

 「明日高校の友逹と一緒に山の奥に行くことになったんだ。その連絡だけ伝えておきますね。」

 

 「はい、わかりました。では帰る時に連絡をください。昼食はお弁当作ったほうが良いですか。」

 

 「大丈夫だよ。いつもありがとうね。」普段の礼のつもりで言ってしまった。鈴谷さんの顔を見てみると、また赤く染まっていた。

 

――――――翌日――――――

 

 昨日の夜は久しぶりによく寝れた。部屋で出かける用意をしていたら、インターフォンが鳴った。階段を降り直ぐに鈴谷さんが迎えてくれた。

 

 「こんにちは。四十九院くんいますか?」内藤さんはもう来てしまったか。

 

 鈴谷さんは誰ですかという顔で受け答えしていた。

 

 「はい。今行きます。」二階から大きな声で張り上げた。準備もできたし行ってくるか。

 

 「では鈴谷さん今日一日行ってきますので、帰るときには連絡しますね。」鈴谷さんは呆気にとられたような目と、羨ましそうな目で見てきた。まさか友達が女性だとは思っても見なかったのだろう。

 

 「鈴谷さん大丈夫ですよ。早めに帰ってきますから。数時間ほど待っていてください。」そう言うといつも笑わない鈴谷さんが、少し微笑えみながら手を振って見送ってくれた。

 

 「よし。じゃあ、行こうか。」

第三章はまだ未定であります

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