【ショートショート】夢罪
「またダメか」
最高傑作の新曲が、
誰にも見られてないことを確認し、
ホールへ戻る。
接客していると、
中学時代の同級生が来店してきた。
「おっ、久しぶり」
「まだ音楽やってる?」
「うん」
「こっちは子供の世話で大変だよ」
「好きなことやれて羨ましいよ」
「うん」
「最近はどう?恋愛してる?」
「誰かいい人いないの?」
「今はいいかな」
「そっか」
「期待してるから、頑張ってね」
そう言って、飲みの席へ戻っていった。
いちいち悪意のない言葉に
引っかかってしまう。
それもそうだ。
今年で二十七になる。
焦りは無いが、全女子からの
同調圧力に押しつぶされそうになる。
年齢が一つ増えるごとに、
時限爆弾のタイムリミットが
一つ減るような感覚。
私は間違ったことをしているのだろうか。
人生でやりたいことが見つかるのは、
良いことではないのか。
本当に面倒くさい生き物として
生まれてしまった。
生前の私を恨む。
確かに、まだ何も成し遂げていない。
私が望む世界は、実力主義だ。
結果が出なければ、
何の意味もない。
いつしか曲を作ることが、
苦痛へと変わっていった。
もう諦めるべきか。
マッチングアプリやらで
身を固めるべきか。
何故だろう。
その選択肢を選んだ私が
笑っていない気がする。
音楽が無くなれば、
生きてく理由も無くなる。
いっそのこと自決でもするか。
バイト帰り、そんなことを
考えながら、家に着いた。
無駄に長い延長コードが
あったことを思い出し、
繋がっている線を全て引き剥がす。
クタクタになった延長コードを
もやい結びにする。
簡易的な絞首台を前に
換気扇の音が鮮明に響く。
椅子に足を乗せたところで
通知が鳴る。
一件のコメントが来ていた。
「あなたの歌に救われました」
「次回の曲も楽しみにしています」
手にロープをかけ、
一瞬の沈黙が続く。
持っていたロープをギターに変え、
午前三時、四畳半の部屋に
静かなギターが声を奏でる。