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03 王子の苦悩(前)

 エドワードはとある王国の第一王子としてこの世に生を受けた。


 そして彼は、魔法が当たり前にあるこの世界で、この王国を創造したとされる初代国王と等しいとされるほどの桁外れの魔力を有していた。


 初めは我が子の誕生を喜んでいた両親である国王夫妻だったが、産まれて半年もすると自分の魔力量を軽く凌駕する王子の存在が恐ろしくなった。


 それもそうだ。

 乳飲み子が生まれて早々に魔力のコントロールなど出来るはずもない。

 夜泣きやぐずり泣きをする度、膨れ上がった魔力が暴走して部屋中の調度品を壊し、時には窓ガラスまで割れる。



「もう嫌だわっ、こんな化け物のような赤子なんて育てられない!」

「王妃様、王子殿下もわざとでは……」

「そんなに言うなら貴女が育ててちょうだい!わたくしはもう知らないわ!!」


 子どもを産んだばかりで精神的に不安定になっていたこともあり、王妃は王子を拒絶した。


 そうしてエドワードは乳母であった侍女と数人の使用人や騎士と共に王宮を出て、離宮に住まうことになった。



「まあ、あなたがエドワード殿下? ふうん、確かにすごい魔力ねぇ~」


 寂しい離宮で四歳になった時。エドワードの目の前に、長くて艶のある黒髪と濃い碧の瞳を持った妖艶な雰囲気を持つ女性が突然現れた。


「あなたはだれ?」

「アタシは、"深碧(しんぺき)の魔女"よ。名前は……そうねぇ、ここ数十年名乗ってないから名前がないのよねぇ」

「おなまえ、ないの?じゃあぼくがつけてあげる」

「あら嬉しいわ」

「えーと、じゃあエメロード。えほんでみたまじょのなまえだよ」


 普段来客などないこの離宮に来て、自分に笑顔を向けてくれる存在が嬉しくて、エドワードはすぐにこの魔女に懐いた。


 そうして彼女の手解きを受け、魔力をコントロールする術を知る。様々な魔法を教えてもらいながら、エドワードは人知れずすくすく成長し、十六歳になる頃には見た者の心を奪うほどの美丈夫となった。


 そしてその話は離宮に出入りするメイドや騎士を通じて王宮中の話題となった。


 ――そんなある日。

 王からの遣いがやってきて、エドワードは赤子の時に離れたきりの城に戻されることになった。


 幼い頃は頻繁に来ていた魔女は、エドワードが魔法の扱いを覚えるとあまり来なくなった。

 年に数度が年に一度になり、ここ二年程は全く姿を見せていない。

 そして、こうして城に戻ることになったからには、その魔女にはもう会わなくなるだろうことは容易に想像がついた。



 見目麗しく、魔力も膨大で聡明な第一王子。

 これまでの無関心から手の平を返したように傅く家臣たちや周囲の人々。

 病気のため地方で療養されていた王子の容態が回復したと発表されたことを知った時、とても虚しくなった。


 両親と会う機会はあったが、今さら息子として扱われても何も感じない。

 向こうも笑顔の下に畏怖と嫌悪を持っているのだろう。そう思うと、情も湧かなかった。

 それに、彼らには大切に育てられた第二王子がいる。

 魔力量こそエドワードに遠く及ばないが、弟は城の者に心から愛されているようだった。


(――僕が居なくとも、何も変わらない)



「エドワード殿下、出立の準備が整いました」


 そうエドワードに告げたのは、幼少の頃から共に育った騎士であり、側近でもあるライルだ。これから暫くの船旅となる。


 ライルのその言葉を聞き、エドワードは自身の腕にはめられた腕輪を見た。暫くの間、不安定な魔力を制御するため。そう言われて城に来てすぐに付けられたもの。これがあると魔法がうまく使えない。


 そしてこの腕輪は、エドワードの意志で外すことが出来ない代物だった。




 予想外の嵐に遭い、船が荒波に飲まれた。


「ライル……何があっても君だけは守るよ」


(君の両親が、赤子だった僕を見捨てずに大切に育ててくれた恩を返したい)


 自らを守るように立つライルと、その他の騎士や船員。

 エドワードは今できるありったけの魔力を放出し、彼らを安全な場所へ飛ばす。


「! 待て、エドっ!!!」


 ひとり海上に残ったエドワードは、ゆっくりと瞳を閉じる。

 頭の中には、必死の形相でこちらに手を伸ばそうとしたライルの姿が浮かぶ。

 不完全な魔力だったが、この船にいた人間は救うことが出来た。もう、それでいい。


(僕の魔法が、最後に誰かを救えたのなら……)


 そうしてエドワードは、意識を手放した。

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