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7、優しい弟

 午前の陽が、南側に嵌められた硝子から清々しく差し込んでいた。

 その窓に沿い置かれた机に向かう二脚の椅子に座り、侃爾と清那は二週間ぶりの会話を交わしていた。

「兄さんはお酒が強いからいつも世話係なんだね」


 目を細める弟。侃爾とは真逆の、柔らかく爽やかな雰囲気の二つ年下の青年。粗暴な兄によく懐いている彼は、己の膝を叩き「いいなあ」と窓のほうを見た。

「僕も足が自由だったら兄さんと遊びに行けたのに」

 清那が口角を上げながら眉を下げる。

 侃爾は首を傾けて彼の肩に手を置いた。


「清那も杖があれば歩けるだろ。行きたいなら俺がどこへでも連れて行ってやる。ただし酒はあと二年してからだぞ。女を誘いたいなら付き合うが」

 ニヤリと笑うと、清那は初心な少女のように顔を赤くして「おしゃれな女性は慣れてないから……」と声を小さくした。とまるで手練れのように言う侃爾も、その手の経験など片手の指で足りるほどしか無いのだが、弟には経験値の高い立派な兄と思われたいのが兄心というもの。


 しかしボロが出ないうちにと大仰に咳払いをして、侃爾は早々に話を逸らした。

「お前のほうはどうなんだ、清那。この間連れてきた女は真面目に通ってるか?」

「あの子ならもう来なくなったよ。やっぱりああいう少し変った子は勉学が不得手だから、あまり気が進まないんだろうね」

「今回は三週間と持たなかったか。金も取らずに勉学を学ばせてやっているというの不誠実な」


 眉を顰めて不機嫌そうに頬杖をつく兄を宥めるように、清那は頬を緩めた。

「ううん、いいんだ。きっと僕の教え方が悪いんだよ。僕ももっと上手く教えられるように勉強しないと」

「清那は人が良すぎるんだ。引きこもりの女の面倒を見るなんて……あんなキチ〇イじみた奴らなど放っておけばいいのに。まさか己の足を不自由にした奴のことを忘れたわけではないだろう?」


 吐き捨てるように侃爾が言うと、清那は寂しそうに瞼を伏せた。それでも口元の微笑みは崩さなかった。いつかの懐かしい記憶を目の前に映して見ているような、そんな表情を浮かべていた。


「シイちゃんのことはね……もう恨んでなんかいないよ」


 侃爾はその名を聞いただけで頭に血が上るのを感じた。

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