〜光の勇者〜
――俺と魔王の最終決戦の火蓋が、ついに切って落とされた。
戦場は、世界の果て《終焉の環》と呼ばれる場所だった。
空は裂け、紫黒の雷が走る。
瘴気に染まった大地からは、かつて命あったものの断末魔が風に混じる。
その中心で、人呼んで"光の勇者"と呼ばれる俺と世界を暗黒で覆い尽くす"闇の魔王"が対峙していた。
一陣の風。
魔王の腕が唸りを上げ、黒炎の剣が俺を襲う。
俺はそれを寸前で受け止めるが、衝撃だけで地面が陥没する。
爆風。岩が砕け、浮遊する大地の破片が空中を舞う。
再び斬撃。
魔王の翼が広がり、闇の斬撃を無数に放つ。
俺は無言でそれらを駆け抜け、空中の岩を蹴って跳躍。
刃がすれ違い、火花が天を焦がす。
戦場全体が、二人の死闘の熱量に耐えきれず歪み始めていた。
だが――俺は「光の勇者」と言われた男だ。
……負けられない!!
ただ、戦う。
その剣に託された“祈り”を背負って。
魔王が咆哮を上げ、全身から黒き瘴気を放出する。
地面が裂け、虚空から無数の魔獣が出現するが、光の勇者は怯まない。
ひと振りの剣から解き放たれた光が、闇を焼き尽くす。
しかし魔王は俺に暗黒の気を纏った闇の波動弾を放つ。
――いましかない!
俺は異世界転生の際、神から授かったスキル――“光の力”を剣に込める。
これで……終わらせる!
くらえ!!
――シャイニング・スラッシュ!!
振り下ろされた剣が、閃光とともに波動弾ごと魔王を切り裂いた。
「グアァァァッッ!!」
絶叫を上げ、魔王は光の中に消えていく。世界は、救われた。
瓦礫の中から、気を失った姫を抱き上げる。
一瞬、姫が薄く目を開けた気がしたが、恐怖のあまりすぐに気を失ってしまったのだろう。
――俺の長い旅は、これで終わった。
この世界を救うため、遥か外宇宙――E17星から転生してきたかいがあった。
やがて、姫が再び目を覚ます。
「……“シュルルルルギュルロロロ”。(姫、もう大丈夫です。魔王は私が倒しました)」
姫の顔が凍りつく。
「ぎゃーーーーーーーっ!!!」
彼女は、緑色に濡れた口の触手を蠢かせる俺の“微笑み”を見て、泡を吹いて気絶した。
かくして――異世界は、「光の勇者」こと異形のモノに、救われたのである。
――完