〜ジョブチェンジ〜
目を覚ましたら、そこは異世界だった。
広がる草原。見たこともない城。いかにもな王様。テンプレ三点セット完備。
「ようこそ、異世界人よ!」
王様が俺を迎える。
「やった!ついにニート歴7年の俺にも人生逆転チャンスが!!」
「まずは、君に最適な職を探そうではないか!」
――おぉ! これがいわゆる“ジョブチェンジ”ってやつか!
俺は意気揚々と“異世界神殿”へ連れていかれた。
「ではまず、前職の確認を」
「えーっと……ありません!ニート歴7年です!」
担当のエルフが一瞬、眉ひとつ動かさずペンを置いた。
「……他にスキルは?」
「あっ……深夜アニメ年間300本視聴!あと、ソシャゲはソロで500時間くらいやってました!」
エルフの面接官がまたペンを止める。
「ソロですか?他の方とやったりはされなかったんですか?」
「ギルドとかの話ですかね?いや、一人のが気楽なんでずっとソロでした」
「なるほど……。では希望職は?」
「あっ…その希望職種はナイトかウィザードでお願いします」
エルフの面接官が再びペンを止める。
「なぜ、ナイトかウィザードなのでしょうか?前衛職と後衛職で随分と違う職種かとおもうのですが…」
「あっ…その…カッコいいからです!」
「わかりました……最後に何かご質問ありますか?」
「はい、特にありません!」
「では後日、面接の結果を発表いたします。本日はありがとうございました」
数日後、届いた結果はこうだった。
――配属先:オーク牧場の清掃係(糞かき担当)。
「は??」
俺が送り込まれたのは、100体を超える巨大オークがうろつく“肥育施設”。
「はいこれ、糞かき用スコップと防臭マスク。朝5時から日没まで。昼飯は廃棄用のオークの肉を使ったまかないな」
「ブラック企業すぎるだろ!!」
オークはでかくて臭くて、うるさい。
毎日ドロまみれ。鼻がバグる。飯はすっぱい謎肉。つらい。マジでつらい。
数日後、隣町に新たな転生者が現れた。
元・警察官。特技・剣道、柔道。筋トレ歴15年。
――彼は“パラディン”に就任していた。
「なんで!?前世がまともだっただけでそんな差ぁつくの!?」
オーク牧場への配属が決まって、王様に意見した時の一言が容赦なく刺さる。
「異世界でも“前歴”は重視される。この世界は人手不足ではなく人材不足なのだ!我々も人を見る目はあるのだよ」
ぐぬぬぬぬ……!!
俺はオークの糞をかきながら、心に誓った。
――次こそは、ちゃんと働いてから死ぬ。
転生じゃなく就職活動をするべきだった。
世界を救う前に、自分の履歴書を整えるべきだった。
どの世界でも、資格と職歴は最強スキルなんだよ……!!
「――こんなことならせめて、面接対策くらいやっておけば……」
――完