〜晩餐会〜
ある日の夕飯時、俺は最初のオカズに箸を伸ばした瞬間、光に包まれた。
「うわっ!なんだこの光は!」
目を開けたら、俺は異世界だった。
よくある草原。よくある城。そして、よくある王様。
「ようこそ、勇者よ!」
「ようこそじゃねぇよ! 飯食ってる最中に転生させんなよ!!」
よくある王様が俺の話を無視して続ける。
「君にはこの世界を救ってもらう! その前にまずは歓迎の晩餐だ!」
そう言われて連れてこられた大広間には、豪華な料理がズラリ。
「飯を食おうとしたとこで連れてこられたからな、ちょうどいいや!腹ペコだったんだ」
ぱっと見、めっちゃ美味そう――だったが。
「……この肉、動いてるんですけど?」
「これは生きたまま熟成された“夢幻牛”だ! 新鮮さがウリ!」
「いやいや、“ムォォ…”って鳴いてるよ!? 目合ったよ!? 俺、食われる側じゃないよな!?」
隣の皿には謎の青いゼリー状の物体。
「こちらは“スライムの涙の煮凝り”。情緒がすごい。」
「情緒いらねぇ! 食い物に感情移入したくないのよ!」
ひと口食べた俺は即吐き出した。
「ッゲホッ!! 苦っ!! なんで“しょっぱい”とか“甘い”じゃなくて“苦い”が最初に来るの!? 胃が泣いてる!!」
極めつけは、緑色でキラキラしたスープ。
一口すすった瞬間、口の中で「ボンッ」と爆発した。
「アッッッッツ!? 飲み物で火傷て何事!? なんで爆発したの!? 爆弾汁かよッ!!」
王様は胸を張って言った。
「この世界では、これが最高のごちそうなのだ。というか……“モンスター系”食材しかない」
「いやいやいや! 他に選択肢ないの!? 野菜とか果物とか!? 芋とか!?」
「ない」
「芋すらない世界あんのかよ!! じゃがバター返せぇぇ!!」
俺の顔は“スライムの涙の煮凝り”のように、青くなった。心も冷えた。
「おい……誰か日本のコンビニ飯持ってきてくれ……。味噌汁……いや、おにぎりでいい……最悪カップ麺で……!」
結局その夜は“モコモコの羽虫の踊り焼き”で命をつなぎ、
翌日からは町中の草を食って生き延びた。
「これ……青々としてて意外とうまいな……ただの雑草だけど……」
そのうち“草をむさぼる謎の男”として町の子どもに石を投げられるようになった。
「帰りてぇ……せめてマヨネーズ欲しい……」
――そんなこんなで、俺は世界を救った。
俺の胃袋は、最後まで救われなかった。
――完