〜異世界人達〜
目が覚めると、見慣れない場所にいた。青空に広がる大草原、そして遠くには巨大な城のような建物が見える。
「これはまさか!?異世界転生か!?やったぜ!」
俺は自分の手を見て、うっすらと期待していた。だって、これから俺はチート能力を手に入れて、魔王を倒して、世界を救う英雄になれるはずだ。だろう?
でも、そんな期待を抱いていたのは数秒だけだった。目の前に現れたのは、まさに未知の生命体みたいな奴らだった。
筋肉隆々で、鋭い爪と牙を持ち、眼球の代わりに赤い光を放つような存在が、こちらをじっと見ている。その目の前で、何の前触れもなく吠えた。
「グルルル…」
俺は動けなかった。体は硬直し、手は震えている。どんな言葉も通じなければ、ただただその目が恐ろしいだけだった。
その未知の生命体みたいな奴は、口から何かを発し始めたが、もちろん俺には理解できるはずもない。目を見開き、次に俺の方へ飛びかかってきた。
「うわっ!」
反射的に後ろに飛び退いたが、そのスピードが速すぎて、俺は何もできなかった。彼らの世界では、俺なんかただの「存在」だ。
言葉が通じないのにどうやって生きていけばいいんだ?チート能力は?ヒーローとしての使命は?
――何もなかった。
唯一の特徴は、異常に強くて恐ろしい未知の生命体みたいな奴らがいるって事だけ。彼らは俺を見て、何度も何度も何かを叫んでいるが、意味がわからない。うろたえた俺は、必死に逃げるしかなかった。
しばらく逃げ回っていると、温厚そうな未知の生命体みたいな奴を見つけた。でも、そいつを俺を見るなり、驚きの表情を浮かべて固まった。
「ちょ、ちょっと待って…君、言葉通じる?」
「……?」
「いや、無理か…あ、あれ?」
そいつは完全に困惑していた。どうやら温厚そうな奴でも言葉がわからないし、意味も理解できなかった。むしろ、相手も俺が何者なのか理解していないようだ。
「もう…帰りたい…」
その一言が口をついて出てしまった。だって、こんな世界に転生したって、何一つ嬉しくもない。戦うべき相手も、手に入れるべき力も、ただ一つもない。唯一の特徴が「未知の生命体みたいな奴らに囲まれ、言葉が通じない」ってのが、もう自分でも笑えてくる。
「どうしてこんなところに…」
その人も無理に俺を助けるつもりはないのか、ただ困惑した顔をしながらも、ゆっくりと歩き去っていった。
俺はそのまま、またどこかに逃げようとした。けど、体力もなくなり、どうしてもその恐ろしい未知の生命体みたいな奴らから逃げることができない。
「マジで帰りたい…」
その時、ふと思った。異世界転生って、確かに良くある話だけど、俺の転生先は、こんな最悪な場所だったのかと。
そして、強力な能力を持つことなく、ただひたすらに怖い目に遭い続けるのが、俺の新たな運命なのだろう。
そのまま、未知の生命体みたいな奴らの元へと捕まったところで、俺の意識は途切れた。
そして気がつくと、また目の前にその「恐ろしい奴ら」がいた。
だが、その時ふと思った。
「…あれ、ここ…あれ…?」
その視界は、変わらない。「未知の生命体みたいな奴らが俺を追い詰める」という状況も、さっきと全く同じだ。まるで、最初に戻ってきたかのような感覚。
「……まさか…俺の転生能力って死に戻りなのか!?」
そして、またすぐに思う。
「……帰りたい…」
ーー完