六章 試験と祝祭は同日同時
こうして夕日の元の公認で私は水戸さんと交際することに。
「お兄ちゃんまだ起きてる。」ドアを半開きにし顔を出して話す。
「起きてるけど、どうしたんだい?」回転椅子を回して振り向き様に言う。
「お兄ちゃん最近良く話すようになってきたなと思って。」
「新しく学校も始まったからね。けどあんまり変わってないな。行っても殆ど話さないし。」
「そうなんだね。ごめん。今日だけ一緒に寝てくれない。」
「そうか。」
(絶対になにかあったな。)
結句同衾してしまった。
「明日から今学期最初の期末試験を行います。普段通りやっていれば問題はありません。」先生の声が終わり授業の用意を進めた。
「来週から期末か。」
「天野は全然気にしてないね。」
「大石さんは気にしているのかい。」
「当たり前じゃないですか。日本一頭の良い高校で留年は絶対避けたいですからね。」(慥かにそれもそうだな。)心のなかで笑った。ふと携帯を見ると連絡が来ていた。
「そうなんですね。おっとこんな時間かではまた明日。」
「水戸さんも随分焦ってますね。」頑張って勉強をしている人の横で悠々に生きていた。
「勿論です。天野くん並に天才じゃないですからね。」皮肉交じりに愚痴をこぼした。
落ち着いてからこう答える。「そういえば私達今付き合ってるってことでいいですかね。」水戸さんが自ら確認してくる。
「そうですね。」安静に応えた。
「天野くんは誕生日いつなの?」
「来週の二十二日ですね。」
「二人のテスト期間中ですか。」(そういつも私の誕生日の日はテスト期間中。)
「大丈夫だよ祝わなくても。今は自分に向かってきてる壁をどうにかしないとでしょ。無理に三兎も追わなくて良いんだよ。」
「そうですよね。でも折角ですから祝いたいです。」
勉強も終わり時間も過ぎていった。
では期末テストの結果を返しますよ。
「天野。なんでこんなに点数が取れるんだ。」全教科が一気に返された。全部満点だった。
「天野は何点だったの。」早々に大石が聞いてきた。
「こんな感じ。」
右端の点数を見た途端絶句していた。
帰り途中の廊下を見ると全員の順位が張り出されていた。
(私が一位か。)順位なんか気にせず通り過ぎると。
「天野くんですよね。」一回も話したことのない葛城さんが話しかけてきた。
「はい。私は天野ですけど。」
「なんであんな点数取れるんですか。」
「勉強ですかね。」見知らぬ人間に答える。
(そうとしか答えられないだろう)と思いながらその場を去った。
何か言いたげな顔をしていたが詰まっていた。
そんなことは気にせず水戸さんと一緒に帰っていた。
「期末テスト終わりましたね。」
「そうですね。」名残惜しさを感じているのかわからないが電車が揺れる以上に水戸さんが揺れている。
「これ。」リュックの衣囊から直方体の形をした少し柔らかいものを両手で渡してきた。
「なんですか。」受け取って聞いてみた。
「テスト期間中は持ってこれなかったけど、誕生日当日に渡せないでごめんね。」
「本ですね。」(大体の予想はついていたがやっぱり本が誕生日プレゼントか。)
「そうです。中を開けてみれば分かるのでここでは開けないでください。」
「わかりました。」
駅を降り、帰宅途中。
どうしても気になって開けてみた。中には辰田五郎の「明日見る夢」だった。
中々いい本を見つけてきたなと思いながら、家の本棚の辰田五郎の本の隣に差し込んだ。




