婚約破棄のリアルな理由
※ しいなここみ様主催『500文字小説企画』参加作品です
結納も済ませ、来月には挙式というある日、仕事中に彼女から予想外なメールが届いた。
『婚約を破棄させて下さい』
馬鹿な!? 先日の式場でのドレス選びで、あんなに嬉しそうにしてたのに!
その後の両家揃っての会食でも、そんな素振りは全くなかった。
まさか他に男が!? ──いや、それはないと信じたい。
電話では埒が明かないと思ったので、仕事後に急いで彼女の部屋へ向かう。
メールで訪問を告げていたからか、彼女はリビングで覚悟の決まった顔で正座していた。
「真希、どういうことだ? 俺に何か悪いところがあるなら言ってくれ!」
「そういうことじゃないの。私がイヤになったのは──あなたの名字なの!」
よく見ると、テーブルの上には色々な書類が散らばっている。
「会社に出す書類とか銀行の名義変更とか──色々書いてるうちに、この先一生あの名字を書き続けなきゃいけないのかと思ったら、ウンザリしちゃったのよ!」
あー、それはわかる。俺も『纐纈雅隆』なんていう画数の多い名前をどれほど恨んだことか。
おまけにレア過ぎて、電話や口頭ではまず伝わらないしなぁ。
結局、俺が真希の『三上』姓に変わることになった。俺も密かに喜んでいることは、両親には内緒だ。
『纐纈』姓は実在する姓で、岐阜がルーツだそうです。