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第三幕

 少し早く下に降りておく。人を待たせるのは好きじゃない。なのに。

「なんでもういるんですか」

 すでにまっていた。それもなんか少女漫画風に。

「いや。待たせるのはちがうかなって思って」

 意外そうな顔をする。そう顔があるのだ。あの時はちゃんと見てなかったけど、一般的にイケメンとされるであろう顔がそこにあって。スタイルもよくて。

 うわ。嫌だ。帰りたい。こんなのと歩くとか周りの目が痛い。

「ほらいくぞ」

 立ち止まっている私の手をつかんで引っ張られた。


 もう。嫌だよ。なんでこんな。中途半端にかっこいい感じでくるの。デートっぽく見えてくるじゃん。


 私の心の文句は届くわけでもなく、順調に始まりをむかえていた。まずは。

「このカフェのランチうまいらしいから」

 と駅の近くのカフェでお昼ご飯。

「大学は楽しいか」

 食事をしながら話題を振られた。

「ええ。教授も事務も聞けばいろいろ教えてくれるから」

 かみあっていない返事をしてしまった。

「お前それかみ合ってないぞ」

 ははっと笑われた。ちゃんと目も笑っていた。


 ああ。顔が見えるってこういうことなんだ。ふとそう思った。


 声や口である程度の表情は読み取っていたけど、ちゃんと顔全部で表情を見るとやっぱり違う。憶測が確信に。不安が安心にかわる。

「仕事はどうなの」

 私も話題をふる。

「ぼちぼちかな。俺は忙しくないけど上は相変らずって感じだな」

 ここでの上はきっと地区長さんのこと。やっぱり立場ある人は大変なのだ。それはどこの世界でもということかな。なんだかこの機構も人間の会社と変わりないのだと感じる。おかしな話だけど。

「このあと行きたいとこあるか」

ほとんど食べ終わったときに首をかしげながら。

「うーん。本屋かな」

 私にとって行きたい場所はそこぐらい。

「確か駅に書店あったな」

がたっと立ち上がり伝票を持っていかれた。

「あ」

「いいよ」

「ありがとうございます。ごちそうさまです……」

 あわててそういうと、おうと返された。そこからは私の歩くペースに合わせてくれた。ちゃんと横にならんで。男の子と並んで歩くのはいつぶりだろう。小学生……。中学生の集団行動くらいか。プライベートは絶対ない。

「何考えてんだ」

 正面に顔があった。驚いで後ずさりをしてしまい。

「あ」

 声がきれいに重なった。息をのんだ。たおれそうになる私をうましかさんが助けてくれた。そしてこの状態を客観的に表すと、男女が抱き合っている状態。

「大丈夫か」

 声が上から降ってくる。優しい声だ。やばいドキドキする。

「ああ。うん大丈夫。ありがとう」

 口と心臓は速く。動きはゆっくり。

「あぶなかったな。悪い。俺が急に正面にたったから」

 顔を上げられない。声は少し戸惑っているようだけど優しさは変わらない。

「私のほうこそごめん。少しぼーっとしてた」

 無理やり笑って見せた。気まずい空気を作ってしまったのは私だから。どうにかにごさないと。

「ありがと」

 ちゃんと顔をあげて。意識して。うましかさんも笑ってくれた。よし。大丈夫。そこからは少し意識して顔を見るようにした。気持ち距離をとりながら。

 てか少女漫画のヒロインみたいな心境になんなよ。なによこれ。

「なんかこんな風に男の人と並んで歩くのなんて中学校以来かも」

 苦笑いをする。うましかさんも同じ顔をしていた。

「そうだよな。集団行動とかじゃないかぎり友達以外とは歩くこともないもんな」

「最近ありましたか」

 話題提供を心がける。

「ないな」

 乾いた返事だった。仕事に生きてらっしゃるのだろうか。あったとしてもきっと人ではないものだろう。死神がつれていくモノ。

「休日だっていうのに俺なんかにつきあわされてるお前もなかなかだな」

 は? とは言わずに。

 ふふっと同時に笑っていた。


 ああ。楽しい。これはこれで。気を使わないってことはないけど。楽ではある。


 書店では私が振り回した。話題の作者や漫画、映画化するもの、流行。そういったものが書店にはあふれている。

「ね。書店ってその時の社会情勢とは人々の好みや文化っていうのが反映されやすいと思うの」

 私の後をついてくるうましかさんにそういいながら、好きな著者の最新刊を見つけてしまった。

「あ。でてる」

 思わず声が出る。

「このシリーズ、年に一巻でるかどうかで。このシリーズぐらいかな。小さいころからおってるんです」

 本を見せると。優しい顔だった。

「楽しそうだな」

 すっと耳に入ってきた。その言葉は言葉通りで、私は楽しい。それを認めただけなのに。すごくうれしくて、うれしくて。

「はい」

 元気に答えていた。久しぶりに来たのもあって、新しいのがたくさん出ていた。一つ一つにうれしくて、やっぱり書店は楽しい。


「付き合ってもらったお礼に全部買ったのに」

 その言葉にむっとした。

「だからってなんでもかんでも買ってもらうのは違います」

 少しきつい口調で反論する。それでも懲りていないようで。

「ほんとに楽しそうだったし、どれも読みたそうだったから。ほしいんだろ。買ったのに」

 買えばいいということではないのだ。

「あのですね。今ここであれだけの本を買ったら、重たいでしょ。それに、仕事なんでしょ」 

 やはり種族が違うとこういう感覚も違うのだろうか。この人はきっとなんでも買ってくれてしまう。気をつけないと。これは仕事の一環なんでしょ。

「荷物なら俺が持つし、俺も楽しいよ。いい顔見れたし」


 ……。これがいわゆる二次元のイケメンのセリフだ。なんで。なんで。わなわなと震える。


「なんで。そんなイケメンなセリフをさらっというの」

 恥ずかしい。見た目だって悪くない。お金だってあるみたいだし。

「怒るなって。結局俺は払ってないし、一冊しか買わなかったじゃないか」

 そうだ。軽く押し問答をして、結局一冊にした。ちゃんと自分で買った。

「そうだけど。そうだけど」

 納得できない自分がいる。うまく言えないけど。

「それに。欲しいと思うものなら、買ってやりたくなるもんだ」

 さも当然のように言ってくるのがイケメンで嫌だ。

 うましかさんのくせに。

「それは、お金のある人の話です。全世界すべての人がそういうことではないんです」

 そうだ。ほしいと思ったものをなんでも買って、与えるなんてできるのはほとんどいない。

 ましてや、私は学生。うましかさんは働いているとはいえ、まず人間じゃないし。お給料事情とか知らないし。

「そうなのか。せっかくなら嬉しいものお礼にしたかったから」

 なんなんだこいつは。

「残念感が緩和されてるんですけど」

 私の思っていたことを告げると。

「お前も少し口調違うぞ」

 向かい合って顔を改めてちゃんと見る。本日二度目のカフェ。お互いケーキセットを頼んで。少しずつつまんでいる。

「せっかくなんだ、こういうものいいかなって」

「なんでですか」

 コーヒーを口に運ぶ。あおいしい。

「だろ」

 顔に出ていたのだろう。自信ありげな顔がむかつく。

「コーヒーにこだわりもってるだろ。だからそういうのがうまいところを探したんだ」

 私の好みに合わせてくれた。ほんと。こういうのは二次元のイケメン彼氏の行動だ。

 おいしいコーヒーに甘いケーキに目を向ける。今度あの子とこよう。このケーキは好きな味だ。

「意識してほしかったから」

 どき。

 呆然としてしまった。不覚にもかっこいいと思った。こんなにもイケメンだったっけ。

「俺は視界にも入らないか」

 黙る私に追い打ちをかけるように。カップに伸ばす手が震える。目をそらしてしまう。目が泳いているのがわかる。挙動がおかしい。

「これは仕事でしょう?」

 どうにか絞りだした。

「悪い、困る言い方をしたな」

 寂しそうに笑う顔になった。顔を上げると目があった。

「意識っていうのは、ちゃんと考えろってことだ」

 わかるよな。


 ……ああ。そういうことか。


「立場をってこと?」

 確認をする。うなづいた。カップを持ちあげる。今度は震えていない。これは念おしだ。距離を考え直すタイミングをくれたんだ。そして。

「大丈夫。ちゃんとわかってる」

 そう。わかっている。決して相いれないことは。笑って答えた。大丈夫だよ。そんなことわかりきっていたことだ。種族が違うんだもん。

「でも。いまそれ言うと」

 口をとがらせて。

「まるで、私がいれあげて舞い上がってるかわいそうな子みたい」

 批判する。会話だけ聞くとそうだろ。ちゃんと俺をみて考えろ。立場を考えろ。そこだけとると釣り合っていない。まわりから批判されるような関係に思えてしまう。

「考えすぎだ」

 と笑うけど。


 たぶんそうじゃないことは私でもわかる。恋愛偏差値最低ラインの私でも。私のことを特別視してくれている。それが恋愛なのか、心配に見えるからなのかはあいまいだったけど。私の戸惑いから、濁してくれたんだ。


「あなたは、優しい人」

 にっこり笑って返した。本当にそう思ったから。この人は優しい。

 だから私はきっとあなたを選ばない。


 そのあとはお店をぶらぶら。特に買うわけでもなく。ふとうましかさんの表情が曇った。

「どうしました?」

 見上げると、少し嫌な顔をしている。視線が後ろ。振り返ろうとすると、なんでもないというように笑って止められた。

「いや。夕飯はごちそうになる」

 気になることがあっても、私には言わない。そういうときの笑いかた。だから私も。

「はい。帰りますか」

 にっこり笑った。前もって家にあるものは確認しているし、特別買わなくてはいけないものもない。頭のなかで献立を確認する。

 特に会話はなく。なのに手をつないでいる。今回はちゃんと握られている。よくわかんないけどいいや。

 しかし。ちゃんと体温を感じる。抱きしめられた時もちゃんと鼓動があったし。死神の状態でそういうことないから比べられないけど。ああこれをあの子に見られたら、絶対デートだって言われるやつだ。彼氏疑惑出るやつだ。

「また考え事か」

 黙っている私にうましかさんが呆れ気味に言っている。

「俺といるときは俺の事だけ考えろ」

「ヴゥ」

 音にならない音を出してしまった。ものすごい決め顔で、俺様系彼氏の定番セリフが飛んできた。

「どうした。吐血か」

 心配から意味が分からないというような顔に変わった。ああ。この顔のほうがいい。個人的にはこっちのほうが似合うと思う。

「いや。ごめんなさい。あんまりにも定番だったから」

 変な声を出してしまったからむせた。背中をさすってくれた。ふぅ。落ち着いてきた。危なかった。なんでこんなイケメンなことが言えるの。

「彼氏感を出したかったんだけど」

 ぼそっと聞こえてきたものにさらにむせてしまった。やっぱり残念だ。こういうことをいわなきゃいいのに。正直なんだから。

「ちゃんと楽しかったですし。まだご飯あるじゃないですか」

 私の手料理で締めくくる。そういうプランになっている。久しぶりに人にご飯ふるまうかも。前にあの子が泊りに来た時にしたくらいで。あとは自分用だし。あ。はじめましての地区長さんには軽く朝食作ったけど。あれって作った部類にはいらないか。


 ってあれ。道が違う。


「悪い。先に入っててくれ」

 差し出された手に鍵があった。いつのまに。

「どうしたの?」

 顔を上げると、目線が上に向かっていた。その先をおうと。

「え」


 ……鏡に人影。あの人だ。


「買うものあったの忘れてた。そこのコンビニ行ってくるから先上がってて」

 少しはやくちで。必死に頭をまわした。

 たぶん。うましかさんはここが私の家だとわからないようにするためにこういっているのだ。そう理解する。よしちゃんと乗っかる。

「うん。じゃあお邪魔しておくね」

 知らないマンションでエントランスのところで別れて、中に入るふりをして外でまった。念のためにリバーシブルの上着をかえて。

 はあはあ。息が荒い。まさかつけられてたの。もしかして。

「あの時から……」

うましかさんが変な顔をしていた。あの時にはもういたのかも。そこからずっと……。ぞっと。背中が寒くなった。

「どうした。大丈夫か」

 うましかさんの声で我に返った。

 あの後しばらくしてうましかさんが来てくれて、ただただついて帰って、ソファに座り込んでいた。

「あ。あの」

 死神の姿だ。その姿が目に入った瞬間安堵した。驚くくらいほっとする自分がいた。

「大丈夫です」

 はっきりとした声が出せた。震えていない声だ。

「お前の彼氏かって聞かれたけど、意味わからんって返した」

 そういって追い返して私の腕をつかんで帰ってくれたんだ。

「あれ。お前のストーカーだろ」

「確かに告白されたけど断った。ストーカーになるタイプだとは思うよ。でもなんで」

 そうだ。どうしてあとをつけたんだろう。家までつけられてないはず。

「ネットはしてないからそういう情報はだしてない」

声にだしていた。

「あんまり危ないみたいならちゃんと相談しろよ」

 無意識に体をさすっていた。その手にうましかさんの手が重なる。目があったと思う。心配してくれているのがわかる声色。

「はい」

 笑って返事をした。優しい。でもこの相談は人間に相談しろということだ。死神さんたちが手だしすることはいけないことなんだと思う。それぐらい私もわかる。関わりすぎはいけない。こんなことを優しい彼らに相談なんてしたくない。これぐらい自分でどうにかできないとこれから生きていくことなんてできないし。だてに今までやってきたわけじゃない。

「ごはんすぐ作りますね」

 気持ちを切り替えてキッチンに立つ。

「悪い。ありがと」

 ちゃんとうましかさんはいい人だ。たぶんいいとこの出身。死神に出身とはあるのかわかんないけど。

「手際がいいな」

 目の前に立たれていた。

「慣れですよこんなの」

 顔はあげない。包丁を使うときは手元から目を離すな。おばあちゃんの教え。お父さんもお母さんも仕事だったから簡単なご飯はできるように教えられていた。

「一人分も二人分もさして変わらないから」

 野菜炒めに味噌汁。

「はい」

 お皿にもりつけ机に運ぶ。簡単な定食の出来上がり。はしとコップを出して、

「飲み物どうする」

「いやなくていい。そのかわり、食後のコーヒーお願いしてもいいか」

 うましかさんはコーヒーをよく飲んでいる。勝手にお湯沸かしてインスタント飲んでたりもする。自分で粉用意してくるし。結構勝手にしている。

「リクエストにお応えしますね」

 今回はリクエスト。確かと。家にある豆は三種類。どれにしようかな。すでに頭の中はコーヒーにシフトチェンジ。

「うまいな」

 いただきますと手を合わせてから一口。開口一番の言葉に顔がほころぶ。

「ありがとう」

 特別何かをしているわけではないから、おいしいと言われるとうれしい。

「いい嫁になるな」

「それおじさんみたい」

 ふふっ。おかしなことを言う死神さんだ。種族を超えてそんなことをいうなんて。テレビのリモコンを手探りで探しながら、会話を続ける。

「でもよかった。お口にあって。何がいいかなんてわからないから」

 食べ進めていく。

「地区長さんから私たち人間と同じで衣食住はあるっていってたけど、食文化って異なると価値観も違うし、食べられなかったりするから」

 よかった。

 そういうとじっと見られていることに気づいた。んと不思議に思って顔を上げると。

「同じではあるな。それぞれ担当地区で今日みたいにまぎれることあるし。基本なんでも食べれるようになるよ」

 雑食だと続けた。その言葉がどこか寂しそうに聞こえた。なんでだろう。言ってることは特におかしいことなんてないのに。


 聞きたい。ではってなに。この違和感をぬぐいたい。


 でも。それは許されていない。ちらっとうましかさんを見る。今日一日一緒にいたけど。一か月以上、話したり過ごしたりしてるけど。同じ釜の飯を食べているけど。それでも。それでも埋まることのない距離があって。埋めることは許されていなくて。なんでだろう。興味なかったのに。情でもうつったかな。正しい距離が必要だよね。それを間違えたらだめだ。私を守るっていう名目のもと、死神が距離を作ってくれているのだから。私がそれを壊そうとするのは間違いだ。

「俺の顔になにかついてるか」

 うましかさんの質問に、なんでもないと笑って答えた。お皿はほとんど空になっていた。

「コーヒー淹れますね」

 私も食べ終わっていたから立ち上がり、逃げるように動いた。危なかった。

 息をゆっくりとはく。


 気づかれてはいけない。私の持っている死神への疑問、興味は。面倒なことになるのは目に見えているから。頭のなかではそんなことを考えていても、手はちゃんと動いている。もう無意識にできるほどに慣れ親しんだ手順。小気味いい音に温かいお湯の香り。そこにコーヒーの豆の香りが少しずつ強くなっていく。鼻いっぱいに香りを取り入れ、口からはき出す。うん。とってもいい。


「相変らず慣れた手つきだ」

 いつの間にかうましかさんがキッチンに来ていた。

「忘れるようなことでもないからね」

 コーヒーを淹れないからといって忘れることではない。少しおいしくはなくなるけど手順は覚えている。

「よし」

 カップをはいと手渡す。んと受け取りソファに戻った。私もソファに戻り、隣に腰掛けた。

「ふう」

 一口、口に含みゆっくり飲み込む。そのまま無意識に二人とも息を吐いていた。

「ふふ」

「ははっ」

 きれいにハモり笑った。

 うましかさんは感情が豊かだ。地区長さんはあんまり表にださないからわかりにくいけど、うましかさんはなんでもつつぬけっていった感じで。とても一緒にいて過ごしやすい。気をつかわなくていいというか、察しなきゃっていうのがない。種族が違うのだから、あれこれ考えないといけないのかと思うけど、そんなこともなく。まあ動物じゃないからちゃんと言葉があるし。……。言葉か。そういえばある学者様が、意思疎通を図ることができるのは、相当する知能がなければならないとかなんとか言ってた気がする。でも動物同士もちゃんと意思疎通しているから、使っている方法が言葉かどうかってだけの話で、それぞれにちゃんと知能というものはあるって理科科目の先生は言ってたし。


 ……ってことは死神は人に近い、もしくはそれよりも上の知能だったり能力っていうものがあるのかな。だから壁を通り抜けたり、姿を消したり、よくわかんないものも扱えたりってこと? 頭のなかがグルグルしてきた。二次元だったらちゃんと設定があって、条件とかからカテゴリーわけされるんだけど。現実じゃあ説明を勝手にみることもできない。これは聞くしかないってことだ。ほんと面倒。なんでもかんでもわかることは怖いことだけど、すべてがすべて本人に聞くことが一番早いっていうことも怖い気がする。これみたいに聞いていいことばっかりじゃないし。ううん。よし。聞かないだ。知りたい気もするけど、知らなくても問題ないし、むしろ知らない方が何かとよさそうだし。あんまり首を突っ込むこともよくないだろうし。うん。とかってに自問自答チックなことをしてコーヒーを飲む。ああ。よかった。頭の中見られるとかないから。あれこれ勝手に想像することはいい。それを現実に起こすかどうかは法に触れるけど。


「そういえば」

 法で思い出した。どうしたとうましかさんが顔だけ向けた。

「地区長さんが、死神の世界にも法律があって人間にも適応されるものがあるって言ってただけど、それってどんなこと」

 表情が変わったと思う。

「あ。いえる範囲でいいの。今の私の状態で保障されていることっていうのかな、そういうこととかで」

 あわてて付け加えた。危ない。ちゃんとそういう制限を互いにつけておかないと。

「ああ。そうだな。あるとすればプライバシーか」

 うましかさんの様子も戻ったしこの制限は正解みたい。

「個人情報とその人の生活に関与しないってことだな。俺たちはお前の名前も今在籍している大学も、貯金残高とかも知らない。俺たちが知っていることは、いと、コーヒーってぐらいだ。あと」

 腰に手をまわされ、鼻がぶつかりそうな距離まで近づいていた。

「目がいいことだ」

 ここでのいいとは視力のことではなく、視えすぎているということ。ゆっくりと瞬きをして返した。

「ええ。とっても視えてますよ」

 さらっと返した。

 満足げに笑ったから、正解だったらしい。

 そのあとは軽い談笑。といっても今日あったことを差しさわりのない程度の会話だけ。単純に楽しかった。よく笑ったし、うましかさんも笑ってくれた。気にするところはいろいろあったかもしれないけど、ご飯も、コーヒーもおいしかったし。

「明日は朝から仕事だから今日は帰るな」

夜も遅くなってからうましかさんがそういった。めずらしい。驚いて声に出てしまった。仕事だからという理由で帰ることは今までにはなかった。

「そうなんだ。気をつけて帰ってね」

「おまえも夜道や鍵は気をつけろ」

 声だけ残して姿はすでに消えていた。

「帰るのはや。食い逃げみたい」

 ふふっと笑いをこぼしてしまった。笑い声がひびいた。


「きいたよ。結構見られていたみたいだね」

 開口一番がそれである。なんのことやら。首をかしげるとふふっと笑った。

「学科の子が駅で結構なイケメンと歩いてるの目撃したんだって」

 何のことかと思えば土曜のことか。みんなひまかよ。

「あれは世間ではイケメンにはいるかもね」

 イメージぶりっ子のように首をかしげて見せる。

「まあ。それは私もそうだからなんとも言えないけど。さすがに二次元レベルのイケメンはそうそういないし。てかいたらこの世界終わるよ。」

「たしかに」

 ふふっと笑いあう。うましかさんと歩いているところを見られるのは別に大丈夫。あの人の方が怖いからそこに誰も触れてないことを願っておこう。

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