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バルザスが去った、アステリアの居城。
「どうなるかなバルザスは」
アステリアが、言葉をこぼす。
「何、すぐに音をあげるであろう、配下を揃えるのは簡単なものではない、特にあの魔石に登録されるにはな、我とて登録できてない配下の魔物もいるのだから」
ジルコニアが答える。
「そうだな、しかし、バルザスならと思ってしまう私もいる、お主もそう思わんかジルコニアよ」
「おもわぬな、あいつは確かに強い、圧倒的だ、それは認める尊敬すらしてる、しかし配下をまとめると言うのは並大抵の事ではないのだ、力だけでなせるものではない、バルザスあやつは甘くみておる」
万魔の王と呼ばれる自負心からか、ジルコニアには、そう言い切った。
「そうだな、王としとの難しさ私も知っている、お主ほどではないがな、しかし、思い出さないか、まだ無名のドラゴンであったバルザスが我らに牙を向いてきた時の事を、あの時も、同じ様な事を思っただろう、世間知らずの力自慢だと」
「くっ、それとこれとは別よ、バルザスが戦うわけではないのだ」
「まあ、そうだな、しかしどうしたジルコニアよ髪が、逆立っておるぞ」
「くどいぞアステリア、無理だといってお
る、俺ももう帰る」
そう言うとジルコニアは窓から飛び降りた。
ジルコニアまで、いつもならしっかり門から帰るというのに。
少しからかいすぎたか、いや、やはりバルザスに会って血が湧いたのか。
案外帰って軍団の強化をするやもしれぬな、あの様子だと。
アステリアは一人残された部屋でほくそ笑む。
バリと音がする。
アステリアが手を添えていた椅子がひび割れる。
おっと、私とした事が魔力が漏れてしまっていた。
血が湧いたの私も同じか。
ふー、久かたぶりの高揚を感じる。
少し風に当たるか。
アステリアは指を日本絡ませ立てると、転移の呪文を唱える。
アステリアは殺風景な谷に降り立つ。
ここはザハル峡谷、何もない場所だが、ここには目には見えないアステリアの魔法陣が無数に設置してある。
転移の魔法陣も、その一つだ。
いかに魔法に長けたアステリアといえど、何もない場所に転移する事はできない。
この場所はアステリアが敵をそうバルザスを誘い込み倒すために用意した、場所である。
この場所なら、たとえジルコニアが全軍を率いてやってきても、苦も無く倒す事ができよう。
しかしだ、バルザスあやつに勝つイメージは全く沸かない。
結局、作ったはいいが使わずに放置してあるのだ。
もう、アステリア自身、興味をなくす魔法陣を解除しようかとすら最近は思っていた。
けれど、今日バルザスに会い久しぶりにきてみたのだ。
「バルザス、あやつまた強くなっておった、一体どこまで」
久しぶりにみたバルザス、態度こそ以前と比べればおだやかになったか、身の内に溢れる力は増しているのが見てとれた。
勝てぬな、私とて、王として働くかたわら自らの鍛錬を怠ってなどいないというのに。
彼我の差は縮まるばかりか増しておる。
アステリアは右手に見える丘に手を向ける。
アステリアの手から千を超える魔法の矢が飛ぶ。
爆音とともに丘がけし飛ぶ、丘があったであろう場所は何も無い平地となった。
「傷一つつけれぬであろうな、バルザスには」
誰もない峡谷でアステリアは一人、言葉を零す。
その後、しばらくアステリアは峡谷の風にひとり身を吹かせていた。
場所は移り変わる、ジルコニアの領地にあるゴタル平原。
ジルコニアは一人帰路についていた。
「親父ぃ、今日こそぶちのめしてやるぜ」
馬鹿みたいにうるさい声が聞こえた。
ジルコニアの息子、ジルアの声だ。
ジルコニアが視線を向ければ巨大な大猿が地響きを立てながら、凄まじい速度で向かってきている。
ジルコニアの本性は巨大な大猿、その息子も同じだった。
戦いを知らぬ世代の息子だ、喧嘩ばかりしておる、戦いたくてしかたかないのだろう。
俺も昔はそうだった、ジルアは俺の事を腰抜けだと思ってる。
思わせとけばよいと思っていた。
いつも戦いを挑まれても、あしらう程度にすませていた。
しかし今日は。
丁度よいと思った。
バルザスに会ってから、気が立っていたのだ、昔の自分を少し思い出していた。
「よかろう、ジルア、戦いというものを教えてやる」
迫るジルアが拳を振りかぶる。
それをくぐり抜け、ジルアの腹に拳を突きこんだ。
本性に変身するまでもない。
ジルコニアの拳を腹に受けたジルアは、うめき声を上げながら吹き飛んでいった。
手加減した攻撃だ、すぐに立てはせぬが、大丈夫であろう。
まがりなりにも俺の息子だ、国でもジルアに勝てるものは少ないだろう、調子にのるだけの力はある。
が、しかし
「この程度、バルザスなら小揺るぎもせぬぞ」
ジルコニアは一人呟く。
いや、変身して全力で殴ったとしても、バルザスには効かぬだろうな。
ああ、だめだ全然気が収まる気がしない。
ジルコニアは大猿へと変身する。
そして、国中に日々渡るかの様な咆哮をあげた。