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アステリアに言葉に信じられぬ思いを抱き放心してしまう。
「何を言っているのだ、アステリアよ、そうか、我を油断させる為の策だな、騙されたりはせぬぞ」
そう言う我を、アステリアは、まるで聞き分けの悪い子供を見るかの様な目で見ている。
そ、そんな目で我を見るな。
たまらずジルコニアの方に目を向ける。
「策などではないよ、バルザス、お主に策など効かぬ事は、嫌と言うほどわかっておる。
主はまさに魔界史上最強の魔王よ、純粋なる力と闘争心のみで、魔界を平定しおった。
主が魔界の平和を実現したのだよ、我やアステリアが魔界の帝王として君臨してもこうはならなかったろうよ」
そう語るジルコニアの目は、穏やかな水面の様に澄んでいる。
馬鹿なこれが「数こそ力よ、力こそ全てだ、我は魔界の全てを手に入れる」
と、ギラついた目で豪語していた、ジルコニアだと言うのか。
何てことだ、これが我の力のせいだと言うのか、我はなんのために今まで。
あの日々はいったい。
こんな事になるとは、我はいったいどうしたらよいのだ。
「力は、強さをもういらぬと申すのか」
我は項垂れて、そう言葉をこぼした。
「要らぬとは違うぞ、バルザス、主の強さが秩序となり、今の魔界を作っているのだ、我等は主の強さを信頼してるのだ、誰にも何にも負けぬとな」
アステリアが話す。
「まあ、しかし、バルザスお主もそのような顔をするのだな、そうだな、一緒にカードゲームをするのも、一興だな」
ジルコニアはそう言って懐から、カードの束を取り出した。
「まずはこのデッキを使えばよい」
「デッキ?」
聞き慣れぬ言葉に我は疑問符浮かべる。
「デッキってのは、主に分かりやすく言うなら軍団だな、このデッキもとい、軍団を使って戦うのだ」
ジルコニアの説明になるほどと我は頷く。
「さあ席に着け、まずはやり方を教えてやろう」
促され我はジルコニアの対面の席に座る。
それから、ジルコニアの説明を聞きながら、カードゲームをすすめていった。
なかなかに面白かった、見知った魔物や武器、地形、魔術、それらが一つ一つカードとして存在し、それを組み合わせて戦ってゆくのだ、我なら全て一人で終わらせれるが、使えるカードにそこまで差がない、強いカードは場に出すのに制限が多くなったり、バランスがとれている。
「くそ、また負けた」
存外にはまってしまい、ジルコニアとアステリアとかわるがわる戦っている。
今のところ全敗だ、だが少しずつたが、勝機も見えてきた。
「ぬう、バルザス、お主、カードゲームもなかなかやるな」
渋い顔をしてジルコニアが言う。
アステリアにはまだ勝てぬがジルコニアにはもう少しで勝てると思えた。
それから、数度繰り返すうちに、ついに我はジルコニアに勝つことができた。
「やったぞ、どうだ、我が力だけでない事がわかったであろう」
「ぬう、一度勝っただけで、はしゃぐではない、何度もやれば、運もあれば勝つこともあるだろう」
ジルコニアは、そう言うが、その顔には悔しさがみてとれた。
「運もあるだろうな、しかし、一日でここまで、やるとは、バルザス、お主を見くびっておったよ」
アステリアが我を認める。
「分かればよいのだ」
「まあ、確かにはじめてにしてはよくやっとるの」
ジルコニアが渋々と認める。
「が今日は、もう遅い、お開きにしよう」
「待てアステリア、最後にバルザスに魔王専用の特別ルールの戦いを見せてやろう」
「む、あれはまだバルザスには早いと思うのだが」
「まあ、見せるだけだ、バルザスもきっと気に入る」
そう言って、ジルコニアは我に視線を向けた。
魔王専用の特別ルール、凄まじく気になる。
「うむ、我も気になる、是非見せてくれ」
「まあ、よいか、バルザスに見せてもなとは思うが、ジルコニアも悔しいのだな」
「く、悔しくとかではないわ」
ジルコニアが焦る様を見せる。
「我に見せてもなとは、どうゆう意味だ、アステリアよ」
アステリアの言葉が少し癪に障った。
「他意はないよ、バルザスよ、見ればわかる、後でタダをこねるなよ」
アステリアがニヤリと笑みを浮かべた。
「タダなど、こねぬわ」
「ならよい、さあジルコニアよはじめるか」
ジルコニアとアステリアが席に座る。
そして、何やら小箱を取り出した、上部に丸い魔石が取り付けられている。
箱の側面を動かしている、箱が開き、中に空洞が空いている。
そこに二人は、今まで使っていた、デッキとは違うものを入れる。
箱を閉じる。
魔石が光る。
「これを着けろ」
アステリアが、ゴーグルが付いた帽子を我に渡す。
二人も同じものを被る。
我も二人と同じ様に被ってみる。
「戦場はゴタル平原にするぞ、初めに見せるには、見晴らしのいい戦場の方が良いだろう
」
「そうだな、しかしゴタル平原では我の軍の圧勝に終わりそうだかな、アステリアよ」
「ぬかせ、ジルコニアよ、平原でも使える策略もあるわ、私をなめるなよ」
「ほう、言ったなアステリアよ、後で言い訳を並べるなよ、さあ、始めるぞ」
二人の小箱の魔石が、魔力を帯びる。
瞬間、視界が変わる。
「うぉ、何だ一体」
気づけば空中に浮かんでいる。
「落ち着け、バルザス、ただの映像だ、場所は変わっていない、試しに外してみろ」
アステリアにそう言われ、帽子を外してみると、確かに底は、先程と同じ場所であった。
もう一度帽子を被ると、また、同じ景色が見える。
視界の下に、ゴタル平原が広がっている。
そして、魔物の軍勢が、平原の両端に陣を広げ向かいあっている。
それは見覚えのある軍勢だった。
我が昔戦った、アステリアとジルコニアの軍勢だ。
「どうだ、バルザス、これが魔王だけにしかできない、魔王戦争だ、自分の実際の配下を特別なカードにして、この帽子、幻影帽子で映像を見ながら、実戦さながら、戦争をするのだ」
ジルコニアが説明する。
「バルザスよ幻影帽子の横にボタンがあるだろう、観戦者はそれで、見る位置を変えれるからな」
アステリアに言われ、ボタンを操作すると確かに見る位置を変えれ事ができた、アステリア軍の後方に位置を変えれば、アステリアが、ジルコニア軍の後方に変えればジルコニアがいるのも分かった。
「よし、では戦をはじめるぞ」
「魔王戦争、開始!」
二人が声をそろえる。
戦が始まった、両軍が進軍する。
なるほどと、我は先程に会話を理解した、ジルコニアはアステリア程の策略はない、しかし、万魔の王と呼ばれるだけあって、単純な配下の戦力は魔王随一だ、そして、複雑な策は練れないが、軍団の指揮能力は高い、ゴタル平原の様な平地での戦なら、ジルコニアに分があるであろうと。
二人の軍がぶつかる、やはりというか、ジルコニアの軍が押している。
押されたアステリアの軍の一部が消える。
幻影魔法だ。
そして、火の手があがる。
さすがだ、アステリア、幻影魔法でジルコニアの軍を誘い込み、火炎魔法の罠を張っておったのか。
しかし、ジルコニア軍も負けては圧倒的な物量と力で押し通ろうとする。
同時に、水魔法で火炎に鎮火もしている。
戦況は一進一退する。
そして、ついには、ジルコニア軍の牙がアステリアを捉えた。
ジルコニアの勝利だ。
戦が終わると、視界が普通の部屋に戻る。
二人が幻影帽子を外した。
我も続いて幻影帽子を外す。
「くそ、手こずらせおって、小癪な事ばかりしよってからに」
勝ったはずのジルコニアが悔しげな表情を浮かべている。
「小癪とは非道い言い様だな、策略というのだよ、しかし、流石はジルコニアよ、終始勝ち筋が見えなかった」
「く、ゴタル平原で、この様じゃ、素直に喜べぬが、まあよい、バルザス、これが魔王戦争よ、面白いものだろう」
ジルコニアが我に問う。
「ああ、非常に興味深い、実際の戦場にいるかの様だった、しかし、一つ気になる、アステリアよ、お主が何故、ああも簡単に倒されたのだ、それほど強くもなかっただろう、最後の魔物の攻撃は」
深謀のアステリアと呼ばれ知略に特化しているアステリアだが、アステリア自身も、それなりに強い、ジルコニア等同格の魔王にこそ遅れをとるが、普通の魔物とは比較にならぬはずなのだ。
「そうだな、説明してなかったが魔王戦争では魔王自身には戦闘力はないのだ、あくまで配下を指揮するゲームなのだよ、そしてこれが、主に見せてもしかたないと言った理由でもある」
魔王自身には戦闘力がないか。
なるほど理解した。
「そうか、我には……」
「配下がいないであろう」
アステリアが決定的な真実を告げる。
「ジルコニアも酷な事をする、バルザスにとっては、絵に描いた餅よ、見せるだけ辛いだけかと思ったのだがな」
そう言って、アステリアはやれやれとばかりに首を横にふる。
「何を言うか、我はバルザスなら気に入ると思って見せたまでよ、見るだけならいつでも見に来てよいぞ、それか、主も配下を集めて見るか?」
そう言ってジルコニアは嫌味な笑みを浮かべた。
お前には配下を従わせる事などできぬであろう。
そう言われている気がした。
く、ジルコニアめ、馬鹿にしよって、配下をもてないわけでないぞ、我には必要なかっただけだ。
「なるほどな軍団を作ってこればよいのだな、見ておれよ、最強の軍団を作ってきてやるからな」
我は二人に宣戦布告をする。
「ほう、吠えたなバルザスよ、よう言うた、楽しみにしておるぞ」
アステリアが余裕の笑みを浮かべる。
「おうおう、のんびり待っているから頑張れよ」
ジルコニアが小馬鹿にした様に言う。
「見ておれよ、吠え面をかかせてやるからな」
ではさらばと、我は帰ろうと窓に向かう。
「待てバルザスこれを持っていけ」
アステリアが呼び止められ、小箱を渡される。
これは先程使っていた物と同じものか。
「それについてる魔石お主の魔力をこめろ」
アステリアに言われ魔力をこめる。
魔石が光り輝く。
光がおさまると、魔石の色が少し変わっていた。
「よし、これで、この魔石は主を魔王として登録した、後はお主を主と認めたものの魔力を込める事によって、そのものの情報がカードかされるのだ」
「なるほど、わかったぞ」
「バルザスよ、主を主と認たものの魔力を込めねばならぬからな、そこを忘れるなよ」
ジルコニアが我に告げる。
主と認めたものか、曖昧な表現ではある、まあよい、何とかしてみせるわ。
我は配下を捜しにアステリアの居城を後にした。
戦いを挑んできてもらいに来たはずが我が挑む事になってしまった。
まあよい、これでこそと思う、待ち構えるなど元より我らしくもなかった、戦いはやはり挑んでこそだな。
破壊の化身と言われた我の力、見せてやるぞ。