緑に溺れる(水着回)
「二人とも、俺を環境破壊おじさんだと思っているかもしれないけど、スキルを取得しながらミッションを探している普通のおじさんだぞ」
「違いますよ」
「だったら、こんなに視聴者来るわけないじゃないですか」
「このジャングルのどこを探すんです?」
一応、6階層は部屋割りがあるようだが、草木で見えない。
色鮮やかな花や毒々しいモンスターなどが多いように見える。
「レッコは採取しなくていいの?」
「何も決まってないなら、しますけど……」
「じゃあ、ついていっていい?」
「見る限り、毒が多いジャングルに見えるんだけど、毒消し草とか持ってこなくていいの?」
「大丈夫ですよ。3階層の沼地で採取したのが毒消し薬を作る素材ですから、有り余ってます」
「そうか」
レッコの発言で、6階層でやることがなんとなく決まってしまった。
ジャングルは思っている以上に広く、罠を仕掛けるとなると大変だ。二人の視聴者も増えてきたと考えると、全ての木を切り倒してミッションを探すのもありかもしれない。
ただ、せっかく毒のある階層なら、やることはやっておきたい。毒を放つモンスターはカチワリくんがあっさり討伐してくれるし、毒のある植物モンスターは草刈りのスキルで一撃だ。毒草もレッコが採取して、すぐに毒薬に変えていた。
「この毒って、体力を減らす普通のゲームにあるような毒でいいの?」
「そうですね。麻痺とか眠り効果のある毒は、10階層以降です。50階層を越えると、目隠しとか混乱効果のあるモンスターが増えたりしますけど、そっちに行きますか?」
「いや、まだいいよ。そこまで到達してからにしよう」
「じゃあ、何をするんです? もう、目の前がボス部屋ですよ」
ボス部屋以外すべて探索して、スキル獲得のために動き出す。
「じゃあ、水着回でもやるか」
「なんですか、それ?」
「なんかアニメでストーリーに意味がないところで、なぜか女性キャラが水着を着る回。レッコはローブのままでいいから、俺たちは腰蓑でも巻いてラフレシアでも投げ合おう」
「何の意味があるんですか!?」
カチワリくんは頭が固いらしい。
「毒耐性のスキルを取るためだよ」
「ああ、そうか。1万回ですか?」
「そう。もっと早く取得できそうだけど、1万回毒状態になったらどうなるのか、誰かやった?」
「そんなこと誰もやりませんよ。え~、私もやっていいですか。確か、商店街に良い水着装備があったはずなんですよ」
「やりたければやろう! じゃ、準備しようか」
「「了解」」
一旦、外に出て、商店街で買い物。
腰蓑は、1階層で取れる長めの草から作れるようだ。
「買ってきましたー!」
ローブ姿のレッコが水着を買ってきたらしい。
「いいの見つかった?」
「ええ、リアルでは絶対着れないようなのにしました」
「俺も貝殻とか、眼帯とかでビキニ作ろうかな」
「垢バン喰らわないでくださいね。そこまでスキル育てるの大変なんですから」
「確かに」
「じゃあ、行きますか?」
カチワリくんはビキニアーマーを着ていた。
学生らしい選択だ。
「視聴者にアンケートを取った結果です」
「そうか」
とりあえず、思い思いの装備を整えて、ダンジョンへ向かう。
カチワリくんもレッコもほとんどモンスターの攻撃してくる前に倒してしまい、特に問題もなく6階層へ到達。
少し狭い部屋の通路付近に罠を仕掛け、通行止めをしておく。毒花のモンスターであるラフレシアを採取して、そのままカチワリくんにぶん投げた。
「うわぁ! 視界が粘液だらけですよ!」
「じゃ、このまま『第一回ドクドク! どこまで毒にまみれられるんだい! 毒を食らわば部屋までよ大会!』開催しまーす!」
バサッ!
レッコが掛け声をかけながら、ローブを脱いだ。
胸元がざっくりと空いている「プランジング水着」というのを着ていた。
「ここぞとばかりに投げ銭を投げるな!」
レッコは視聴者に怒っていた。
「やっぱり大人はやる時はやるんだなぁ」
ビキニアーマーのカチワリくんは尊敬の視線で見ていた。
バシャン!
そんなカチワリくんにラフレシアが投げつけられる。
「ちょっと勘弁してください。猛毒になってますよ!」
「ほら、すぐに回復しないと次から次に毒の花が飛んでくるよ!」
腰蓑の俺も逃げ出す。
「クサカさんは邪魔な草を刈っておいてくださいね! モンスターが出ちゃうんで!」
「はいー!」
身体を張っている女の人の言うことって断れない。
草を刈り取らないと確かにアルラウネという人型の植物モンスターが出てきてしまう。
すぐにカチワリくんが対処してくれるが、俺も草刈りスキルで戦ってみた。
ズシャン!
一撃でバラバラになってしまった。
「やっぱり、草刈りスキルは植物系のモンスターに有効なんじゃないですか、ね!」
そう言いながら、レッコが毒の花を丸めて投げつけてくる。
「そうみたいだ、ね!」
俺も毒と粘液が交じり合った緑と紫色の塊を投げつける。
「はぁ、回復したぁ!」
身体から毒を消したカチワリくんには、二人でどんどん毒の花を投げつけていく。
「俺の方、多くないですか」
そういうカチワリくんは、毒の花を俺に投げつけてくる。
3人とも毒状態で体力が減るが、すぐに毒消し薬のアンチドーテを飲んで回復。しばらくやっていると3人とも疲れてくる。
「重みがないから、投げてもなかなか飛んでいかないんですよ」
「じゃあ、籠の中に入れて投げ合うか」
籠の中に毒花を入れて、それをラグビーボールのように投げ渡していく。これでも網目から毒が飛び出すからか、しっかり毒状態にはなるようだ。
そもそも無駄な作業なのに、妙に効率的になってしまった。
「あ、もう毒耐性を取れましたよ」
「私も取れました。カウントしますか?」
「いや、3時間くらいでいいでしょ。スキルのレベルが上がればいいし」
「たぶん視聴者もカウントしてくれていると思うんで、大丈夫です」
「そうなの? なんか悪いね」
視聴者と繋がっていると思うと、いろんな人を巻き込んでいて悪い気がした。
「あ、この間は植林に付き合わせちゃって悪かったね」
「いえいえ、こっちこそ、配信者が実際にああいう活動するって、なかなかないっていうか……」
「配信業界も結構、厳しくなってきていて、大手も株式を全部売ったりとか、企業とコラボしないとお金にならなくなってるんですよ」
「そう言えば、数年前にそんなニュース見たな」
「Vtuberも一時期はよかったんですけど、結局、プレイするゲームによっても人気が偏ったりして、声だけだと大変だからライブをたくさんやってるんですけど、運営への批判も多くて……」
コロナ禍に一気に配信というのが広まったが、海外でも配信者のゲリライベントが暴動になったニュースを見たことがある。
「その点、私たちは植林ですからね。全然、人に迷惑かけないし、むしろ地球に良いことをしてる上に、ゲームでわけわからないことをやってるんで……」
「そうなんですよ。選んだゲームもよかったですし、ルッキズムとかLGBTへの配慮とか、そういうのとは関係なくやっているところがいいんだと思います」
「まぁ、俺たちは小さくやろう」
レッコが失業保険に頼らずに生活できれば、それが一番だ。
「あと、クサカさんが動いてないと、パワハラっぽいですけど、一番動いてますからね」
「だって、なにしてもいいんだよ。で、回数に応じて、制作者側がちゃんと用意してくれてるのがね。でも、あんまりいいイメージとか付けたくないな。基本的にどこの国もそうだけど、掌返しがあるからさ。もうちょっとバカなことをやらないとなぁ」
「だから、水着回なんですよ!」
「ああ、そういうことか!」
どうしてレッコがわざわざ水着まで選んで、仕切っていたのかようやくわかった。
そんな会話をしていたら1時間ほどで、毒耐性のスキルが100まで上がってしまい、毒が無効化されてしまった。
「皆、毒無効になった?」
「なりました!」
「でも、全然、1万回までいってませんよ」
「じゃあ、食べる?」
「食べるんですか!?」
「いや、毒だからね。皮膚にかかって爛れる毒もあれば、食中毒もあるさ」
「確かに、ラフレシア以外の毒もありますけど……、やるんですか?」
「うん、この辺で痛い目を見ておかないとダメだ。聖人君子よりもバラエティを目指した方が、結局、面倒くさいことを言われないから」
ジャングルを回り、毒の実を料理して片っ端から食べた。もちろん、毒は無効だが、料理をしているレッコに『毒使い』というスキルが発生した。
せっかく着ていた水着やビキニアーマーも、すっかり緑色に染まっている。俺の全身も緑色になっていた。
耐性が付き、無効化されることがわかった段階で、俺は、おそらくこのゲームのミッションを理解した。それは、自分が他人と違うことをしようとしながらミッションを探していたからかもしれないし、ゲームの攻略というよりも共感してくれる二人に出会ったからかもしれない。
俺とカチワリくんも、料理と錬金術のスキルが発生し、さらに3人とも『毒マイスター』という称号を手に入れたので、とりあえずボスを倒すことにした。
ボスは毒を撒き散らすアルラウネの軍団だったが、俺たちは誰も毒を食らわないので、草刈りで全員倒した。ようやくこの日、少しは貢献できたような気がする。
7階層の火山地帯の前で解散し、後日集まることに。3人が集まる曜日も決まってきた。
レッコたちの配信終了時間を見計らって、2人に連絡した。
「たぶん、ミッションがわかった」
「え? まだ10階層も行ってないのにですか!?」
「ミッションを探すダンジョンなんじゃないんですか?」
「それはそうなんだけど……。まぁ、確定しているわけじゃないけど、おそらく最速でスキルを取れば、次の章に移れるんじゃないかと思う」
「それって100階層以上行けるってことですか?」
レッコが聞いてきた。
「たぶんね。足りないアイテムがあるってことでしょ?」
「そうです」
「じゃあ、まぁ、当たってると思うんだけど……」
その後、俺は20分ほどかけて2人に自分の説を話した。
「え~、それはあり得ますけど。じゃあ、意味のない水着回じゃなかったってことですか?」
「そうだね」
「その説は、海外の掲示板にも載ってませんね」
「うん。まぁ、でも、ミッションがわかったところで、俺はこの先のダンジョンを知らないからさ」
「そんなの検索すれば出てきますから。じゃあ、あの冒険者ギルドの創設者の絵はやっぱりスキルだったってことですか?」
「そうだと思う。たぶんこの『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』はどこまでもスキルゲーなんだと思うよ」
「じゃあ、もう普通の装備をしていいってことですか?」
カチワリくんが聞いてきた。
「そうだね。だから、視聴者がいる君たちに今後のスケジュールを決めてもらいたいんだ。ちなみに何人くらい見てるの?」
「生配信は300人くらいですかね。今日は1000人くらい、いきましたけど」
「俺も500人いかないくらいです。でも登録者は、レッコさんが3万人くらいいますよね?」
「うん。今日、かなり増えたからね。でも、カチワリくんも、似たようなもんでしょ」
「いや、俺は1万ちょいですから」
「ちょっと待て。二人とも、そんなにいるの!? 食べていけるんじゃないの?」
「いやぁ、無理ですよ。一応、収益化の申請はしてありますけど……」
この調子でいけば、いけそうだ。
「もし、なにかダンジョンでやりたいことがあったら教えて」
「ああ、そうか。私たちってダンジョンの攻略が目的じゃなくて、ミッションを探しながら、人がやらないことをしてスキルを取得していただけですもんね。それで視聴者を呼んでいたのに、ミッションを見つけてしまったから……」
「ああ! じゃあ、1万回チャレンジとかも狙ってやればいいのか……」
レッコもカチワリくんも気づいたようだ。
「じゃあ、今までの意味わからないことをしなくていいってことになっちゃうから、人も呼べなくなっちゃうんじゃ……」
「そこなんだよ。どうする?」
結局、3人での会議は深夜まで及んだ。