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骨粉の使い方


 1階層のボスを突破してから10日ほど経った。


 2階層のボスは、フィンリルという大きな狼で、レッコが作った毒で眠らされ、カチワリくんが覚えた『獣斬り』で一刀両断していた。

 相変わらず、訓練用の剣なのに。


「括り罠で捕まえた獣系のモンスターを切りまくって、剣術のスキルが上がったんですよ」

「私の錬金術は、火炎草のお陰で70くらいまで上がりました」

 伸び悩んでいたスキルが上がったらしい。


 3階層の沼地では痺れ罠と呼ばれる電気を使った罠まで仕掛けられるようになっていた。

 痺れ罠の素材は沼地にいたデンキナマズから取れる素材で、もんどりという魚の罠で捕まえる。

 痺れ罠さえしかけられれば、ボスのナマズは難なく討伐。


 4階層は、古い水辺の神殿跡のような階層でも、痺れ罠が活躍。ほとんど罠だけで、10階層まで辿り着けるという二人の意見は正しいことを確信した。


 今日は、5階層の大墓地まで行く。

 霊廟の中に通路があり、天然の罠が大量に仕掛けられていた。


「すげぇ。このガスの罠はガスだけ採取ってできるの?」

「水用の袋があればできますよ。採取しますか?」

「お願いします」


 レッコに頼んで、罠用のガスをたくさん採取してもらった。


「本来、盾が必要なんですけど……」

「いや、だってせっかく罠の素材が落ちてるんだから、もったいないよ」


 罠を解除して素材を貰う。罠設置のスキルが成長しているからか、どこに罠があるのか見分けがつくようになってしまった。


「でも、今日の目的は罠じゃない」


 う……うう……。


 ドラウグルと呼ばれる乾いた死体のモンスターが襲ってきた。

 俺は逃げ出し、レッコは聖水を投げつけ、カチワリくんがとどめを刺すという連携をする。つまり俺は囮役だ。


「本当にこれでわかるんですか?」

 あっさり倒したカチワリくんは疑わしそうに聞いてきた。

「わからないけど、実証してみることよ」

「冒険者ギルドの職員が言っていた、創設者4人についての考察だからね」

「戦士、魔法使い、錬金術師、奴隷という例のあれですね」

「そう。あれって本当に職業を言っていたのかどうか確かめよう。戦士はカチワリくんで、レッコは錬金術師、俺は奴隷」

「魔法使いがいないじゃないですか?」

「あの魔法使いの絵が、本当に魔法を使っているのかどうか問題がある。なんか光る物を握っているだけなんじゃないか?」

「確かに、そう見ようと思えば見えますけど……。戦士だけは見た目通りでいいんですよね?」

「それが剣を持っているだけだから、戦士というか剣士なのよ。奴隷に関しては、本当に逃げ回るだけの仕事って意味あるのかどうか。結構な人数のプレイヤーが試してるんだけど、101階層への扉は開いていないから……」

 レッコは前にプレイしたときに、奴隷役をやらされて、死霊術師に生贄にされたり、踏んだり蹴ったりだったらしい。


「これ、手を後ろにしているから奴隷だと思われているけど、荷運び役なんじゃないの? ほらリュックを背負う時に荷物が落ちないようにしている姿とかさ」

「でも、荷運びのスキルなんて結構みんな持ってるんじゃないですか?」

「100まで上げた人はいる?」

「それは……、見たことはないですけど」

「たぶん、途中から上がらなくなるんじゃないですかね?」

「誰もやってないならやってみようか」

「重い荷物を背負って逃げるんですか!?」

「そう」


 俺はとりあえず、その辺に落ちているものをリュックに詰め込んだ。

 二人とも首を傾げているが、それでこそミッションの探索と言える。


「付き合いきれなくなったら、やめていいからね」

 二人の時間は有限だ。

「やりますよ!」

「こっちだって暇なんですから! また内定取り消しですよ!」

 カチワリくんは素行が悪いのかな。


 なんだか知らないが、二人もリュックにドラウグルが落としたメイスや大剣なんかを詰め込んでいた。

 当然動きは鈍くなるし、全然、逃げられる気がしない。


「元いた部屋に戻りましょう!」

「うわぁ、視聴者が減ってるぅ!」

「いいんだ! 視聴者のためじゃない! ミッションのため!」

 

 ドラウグルの攻撃を躱しながら、とにかく元いた道を逃げる。


「そこ、罠ありますよ! ドラウグルに毒矢を当てましょう!」

「ないよ!」

「しまった! 解除してしまった!」


 ボゴッ! ボゴッ!



「道間違えました! 通った部屋じゃないです!」

「あれ? なんでだ!?」

「おかしい!」


 めちゃくちゃ遅い3人が、ドラウグルから逃げるが、行く先々で次から次へとドラウグルや骸骨剣士が壁から出てきてしまう。


 通路にはたくさん仕掛けられている。


「二人とも上だ!」

「上は行けませんよ」

「違う! 丸太の振り子罠が仕掛けられてる。すり足で身をかがめて進むんだ!」


 二人とも言われた通りに進んでいき、身をかがめていると、後方でカチというスイッチを踏む音が鳴った。


 ブォオオオン!!


 天井にあった丸太が、振り子の原理で飛んでくる。耳元を風が駆け抜けていく。

 俺たちは辛うじて身をかがめていたから助かったが、後ろから迫っていたドラウグルの群れがまとめて吹っ飛ばされた。


 振り返ると、動かなくなったドラウグルが積み重なっている。


「気持ちいい!」

 カチワリくんは笑っていた。

「確かにスカッとする」

「よし、これでこの階層のドラウグルとか骸骨をできるだけ減らそう」


 ただ、丸太の振り子罠は劣化するし、ドラウグルたちは減ることなくダンジョンから生み出されていく。


「やばい! 丸太罠は5回しか保たないぞ!」

「また落とし穴でも掘りますか?」

「落とし穴を掘っても埋まるよ」

「堀はどうです? 落とし穴を繋げたら、結構入るんじゃなかったかな」

「そうなの?」


 5階層の床はほとんど石畳だが、墓が並んでいる部屋は地面が土だった。

 地面を掘っても棺桶が出てくるわけではない。部屋の入り口から、真っすぐ掘を作って、再び重いリュックを背負いながら、不死者の群れをかき集めてきた。


 墓地の部屋まで連れてきたら、横で鎌を構えて待つだけ。ドラウグルが一歩踏み出したすねを狙って、鎌を振る。


 ガコンッ!


 つんのめったドラウグルが、掘りの中に落下。立ち上がったところを、カチワリくんが訓練用の剣で頭蓋骨を砕いていた。


「この骨粉、肥料にしてもいいですか?」

 レッコはボロ小屋の外にあるプランターで毒草や薬草を育て始めていた。「園芸家」というスキルがあるらしい。


「どうぞ」

 

 外で使うのかと思ったら、墓地の土で沼地にあった毒草を育てていた。臨機応変な人だ。

 

「これ、もしかして1万回コースですか?」

「荷運びスキルに、不死者キラー、園芸家、今のうちに取っておきましょうか」

 レッコの一言で、決まった。



「これ、とにかく荷運びが大変だね」

「全然、溜まらないですね」

「スタミナ減ったら、魚のスープあるんで飲んでください」

 料理と錬金術に関しては、レッコの信頼度は高い。


「ありがとう」

「いえ。それより、創設者の絵なんですけど……」

「そうだった。なにか気づいた?」

「剣士もわかりやすいんですけど、錬金術師も薬研を持っているので、錬金術師か薬師で間違いないんですよね。ただ、スキルがどれだけやっても70以上上げた人がいないらしくて、見つかってないアイテムがあるんじゃないかって言われてます」

「そうなんだ」

「たぶん、今続けてるほとんどのプレイヤーは、その見つかっていないアイテムにミッションのヒントがあると思ってダンジョン中を探しているんですよ」

「世界中の人が探して見つからないんですよね?」

「そうだね」


 どうして極東の暇人たちが見つけられると思っているのか、と自己批判してもゲームをプレイしてしまっている。


「大勢のプレイヤーが俺たちみたいにトライ&エラーを繰り返したわけで……」

「そう考えると、本当に人がやらないようなことをやっていくしかないんだよなぁ」

「つまり、無駄とも思えるようなことをひたすらやっていくってことですか?」

「そうじゃない? 1万回の法則みたいに、まだ知られていない法則があるかもしれないよ」

「ちなみに、この堀を使った不死者殺しは、結構やられてます。というか、この階層の正攻法です」

「えー、じゃあ、なんか別のことをやらないとな」


 ドラウグルの足を刈りながら、骨粉を撒いて草を成長させるレッコを見た。骨粉を撒くだけで、毒草の成長速度が一気に上がり、レッコはそれを摘み取っている。


「このドラウグルとか骸骨たちって、回復薬を投げたら溶けたりするの?」

「聖水は嫌がるはずですけど……。ちょっと、やってみていいですか?」

 

 レッコは堀の中で蠢く骸骨たちに向かって回復薬の瓶を投げつけた。


「ダメージは受けているみたいですけど……、死にはしないって感じですかね?」

 死体のモンスターだけどね、というツッコミは控えた。


「薬草ってあのアロエみたいなやつだよね? ここでも育つ?」

「土があれば育ちますよ……」

「レッコさん、嫌な予感がします!」

 カチワリくんも気がついたらしい。


「この階層を薬草畑にしたいんだけど、できるかな?」

「土を運ぶってことですか?」

「そう。土なんて、モンスターを落とし穴に埋めれば、いくらでも手に入るだろ? やった人っている?」

「いませんよ」

「クサカさんは、どうしてそういう発想ができるんですか!?」

「できっこないをやらなくちゃっていう思想で育っているからな」


 この時、俺の頭の中にはサンボマスターの曲が流れていた。

 

 その後、全ての作業を中断。1階層で、薬草を採取してきて種を回収し、5階層に戻った。


 墓地の土で薬草を育ててみると、一瞬で伸びた。石畳の通路の先にある石造りの霊廟に土を撒いて、種を植え水と骨粉を与えれば、一瞬で薬草が育つ。


 ボゴッ。


 棺から出てきたドラウグルが薬草をかき分けて、こちらに近づいてくる。


 アウ、アウッ、アウッ。


 ダメージを食らいながら俺のところまで辿り着いたドラウグルは瀕死の重傷を負って動けなくなっていた。


「実験は成功した。では、これより、『大墓地緑化計画』を開始します。異論は?」

 いったん3人とも外に出て、商店街の広場で会議をする。

「なんのスキルが獲得できるかわからないのに、意味があるのでしょうか?」

 レッコが手を上げて聞いてきた。

「ミッションに繋がる可能性の実証実験になるかと思います」

「すでに5階層のボスを倒せるスキルを獲得しましたが、それよりも緑化計画を優先するということでしょうか?」

 カチワリくんが聞いてきた。

「はい、その通りです。我々の目的は、あくまでもミッションの探索であり、ダンジョンの攻略ではありません」

「視聴者から放送禁止用語が飛び交っていますが……?」

「視聴者に向けてプレイはしておりません。悪しからず。他に異論は……? ないということで、金物屋で如雨露を買おう」

「これ、荷物重くなっちゃうんじゃないですか?」

「大丈夫。鍛えたじゃないか」


 俺たちはしっかり荷運びスキルも上昇していた。


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