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最強くん

 

 ほぼ毎日のようにレッコと一緒に、ダンジョンでスキルの実験するようになっていた。

 やはり1万回の法則は合っていたようで、レッコは採取ではなく採集というコレクター的なスキルを手にしていた。


「見えているものなら一気に集められるんで便利なんですけどね」


 ダンジョンでおかしなことをやっていると注目されるらしく、荒らしていた外国のプレイヤーたちから配信してくれというメッセージが届いた。過疎化しているゲームだが、コアなファンがいるようだ。


 俺もレッコも視聴者側で配信サイトのアカウントは持っているので、勝手に配信している。9時間とか10時間とか、ずっと草刈ったり罠を仕掛けたりしているので「クレイジー」という意味のスラングが多数。面白がってくれているならいいか。


 スキルばっかり上げていて、そろそろミッションの謎を解かないといけないと思っていたら、俺たちはある問題に直面した。


「二人ともボスと戦えないんじゃ……?」

「え? なんで?」

「だって、落とし穴に嵌るほどボスは小さくないし、毒も体力を削るようなのはもっと深い階層じゃないと出てこないですから」

「俺たちに攻撃力ってないのかい?」

「ありません! 攻撃スキルもないし、魔法スキルもなく、装備だって……」

「鎌じゃダメかぁ。誰か、外国のプレイヤーに頼んでみますか」


 一応、冒険者ギルドの掲示板に、募集をかけてみたが反応はない。


「さすがに1階層ではやることもなくなってきたからね」


 広々とした大草原にも限界がある。落とし穴は24時間経つと元に戻ってしまうが、ほぼすべての草原を刈りつくした。意外に、まだ知られていなかった石碑なんかも見つけたが、解読できなかった。もしかしたら、ただの重い石かもしれない。


 スキルは、罠関係がレベル100に到達。草刈りも30くらいまで上がった。レベルは上がっているものの、ステータスを上げていない。


「攻撃力とかにステータスは割り振れないの?」

「それが出来ていたら、もっとこのゲームは簡単です」


 体力、スタミナ、魔力にしか振れないらしい。なかなかシビアだ。


「スキルゲーですから、スキルを駆使して戦うしかないんです」

「じゃあ、この武器を使ってみる?」


 ボロ小屋の外にあるアイテムボックスに余った物を入れておいたら、他のプレイヤーがごっそり持っていき、優しいプレイヤーが深い階層にしか出ないような魔剣や呪いの鎧なんかを入れくれた。悪魔を召喚する杖まであるそうだ。そんなものをアイテムボックスに入れておいても大丈夫なのか。


「そんなの使ったら死にますよ」

「死んじゃ意味ないか。誰かいないかなぁ」


 ボロ小屋近くの森で草刈りをしていたら、トラが出てきた。

 出てくるとは聞いていたが、本当に出てくるとびっくりする。普通に逃げていたら、誰かが駆け寄ってくるのが見える。しっかりと鎧を着た男だ。


「大丈夫ですか!」

 普通にヴォイスチャットで話しかけてくる。

「いや、大丈夫です。そこに落とし穴を仕掛けてあるんで……」


 ドサッ!


 鎧の男が普通に落とし穴に嵌っていた。鎧のせいで身動きは出来ないようだ。


 ゴォイ! ゴアォイ!


 後ろからトラが迫っているので、跳び越えた。

 

 目の前にはレッコが毒薬の瓶を構えて待っていた。咄嗟に俺は前に転がる。


 カシャン!


 レッコの投げた眠り薬がトラにぶつかり弾ける。

 途端にトラの足がおぼつかなくなり、その場に眠ってしまった。


 とりあえず、トラは落とし穴に落として埋めておいた。

 鎧の男こと、イケメン姿の戦士は泥だらけになりながら、這うようにして落とし穴から出てきた。手を掴んで引っ張り上げたが、いろいろとボロボロだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫っす! ちょっと落とし穴にびっくりしちゃいましたけど……。あの日本の方ですよね?」

「そうです」

 確かに、日本のサーバーなのに、外国人が多い。


「よかった。あの、このゲームってどうやったら最強になれるんですか?」

 若い声なので、もしかしたら高校生とかなのかな。名前はカチワリというらしい。

「最強ってあるの?」

 俺は思わず、レッコに聞いてみた。


「一応、冒険者ギルドの掲示板に、ダンジョンでどこまで行ったかっていう階層でランキングは表示されますけど、そう言うことじゃなくて?」

 レッコも聞いていた。


「ああ、わからないですけど、最強になって配信して有名になれればいいかと思ったんですけど、そんな簡単じゃなくて」

「だろうね」

 世の中を甘く見ている典型的な若者だ。そんな純粋な夢を持つ若者がいるのか。もしかしたら、どこに行っても日本人が少なかったから話したいだけかもしれない。


「20階層までソロでいったんですけど、限界を感じてどうすればいいですかね?」

「たぶん、その方法を考えるのを楽しむゲームなんだよ」

「どういうことですか?」

「誰でもスキルを組み合わせれば最強にはなれてソロでも100階層までいけるけど、それはこのゲームのクリアじゃないし、別に目立たないんじゃないかな。動画配信サイトで探せばたぶんそんな人たくさん出てくるよ」

「え~、そうなんですかぁ~……」


 演技かと思うほど、かなり落ち込んでいる。


「最強の剣と最強の防具を作ったから余裕だって外国の人に言われて……」

「すごいな! 外国の人の話を信じちゃうのかい!?」

「英語で書かれてたら、なんとなく信じちゃって……、ダメですかぁ」

「ダメだろうね」

「ま、頑張ってね」

 レッコは割とドライにカチワリを突き放した。

 カチワリも普通に去ろうとしている。今どき、ゲームの人間関係なんてそんなものか。


「すみません! 嘘を申しておりました!」

 やはり嘘か。そう言えば、レッコもはじめ嘘をついていたな。そういうコミュニケーションが重要なのか。


「実は、大学でVRゲームの配信について論文を書かないといけない上に、就職活動も上手くいかず、どうすればいいのか路頭に迷っている状態でして、取材というか、お話だけでもさせてもらえませんか?」

 笑ってしまった。


「ああ、いいよ」

 学術関係の協力なら喜んでやる。そもそも作業しているだけだし、夏になって就職が決まってないと不安だろう。


「いいんですか!? 謝礼は出せませんよ」

「別にいいって。聞きたいことは聞けないかもしれないけどね」

「いいです、いいです! ここのところ外国人に絡まれまくって、疲れてて……」

 レッコも笑ってしまっているので、「作業していてもいいならいいよ」と言っていた。


「で、何が聞きたいんだい?」

「いや、このゲームって一時期、流行ったのに、なぜか今はコアなファンしかやっていない謎のゲームじゃないですか。でも、今でも配信すれば、少ない人数だけど、視聴者は見に来てくれるんですよ。個人製作のゲームだと考えると、公開当初のマーケティングはとても上手くいっているのに、内容が面白くないとか配信向きじゃないとかの理由で廃れていってしまうゲームもある中で、これは廃れ切っていないというか、コンスタントに新規プレイヤーを獲得しているんですよね」

「俺も新規プレイヤーだよ」

「魅力ってどこにあると思います?」

「わからないから面白いんじゃないか? そんな回答じゃ、論文にならないか……。えーっと……」


 とりあえず、罠を仕掛けながら考える。


「とりあえず、その鎧脱げば? 鎧で固めた人が、禿げたどん底おじさんにインタビューしているのが場違いというか、すごいシュールだよ」


 レッコが笑っている。


「ああ、すみません!」


 カチワリくんは鎧を脱いで、正座のポーズをしている。正座もできるのか。膝に石を積んだりできるのかな。


「レッコさんは?」

「このゲームの魅力?」

「はい」

「私は二周目なんだけど、クリアできなかった悔しさで、最初からやり始めて、クサカさんが変なことをしているなぁ、と思って遠くから見てたんだけど、いよいよおかしいことを言い始めてやめられなくなったというか……」

「俺、おかしなことを言ってる?」

「言ってますね」

 レッコは半笑いで頷いていた。


「なんですか、おかしなことって?」

「このゲームってダンジョンゲームだと思われてるだろ? 実際、タイトルにもダンジョンって入っているし」

「そうですね」

「内容としてはスキルをたくさん獲得して、どんどんダンジョンの階層を進んでいくゲームだよね?」

「それがゲームデザインです」

「でも、考えないといけないのは、このゲームのミッションじゃない? 皆、第1章から進められてないんだよ」

「ああ、そうかもしれないです」

「ゲームの目的は、スキルを獲得しながらミッションを探索してクリアすることで、強くなることじゃないんだよね。このゲーム作ったやつってめちゃくちゃ偏屈じゃない?」

「確かに……」

「ま、それが面白いのと、1万回やってるとスキルが発生するのって知られてなかったらしいんだ。だから知られていないスキルによって探索できる範囲も変わるから、新規のプレイヤーも楽しめるんじゃないかな」

「1万回やると、スキルが発生するんですか!?」

 カチワリくんは驚いていた。


「そう。知らなかったよね!? だいたい、知ってもやらないし!」

 レッコが横から口を出した。


「ゲームの遊び方が根本から変わってきちゃうんじゃないですか?」

「どうかな。でも、制作者からすれば、きっとこれが正攻法なのかもよ。冒険者ギルドの職員の言っていることの方があやしい。そもそもルールを決めている人たちがおかしいというのは、世界的に見れば普通にあることじゃない?」

「日本人って技術を高めるのは得意でも、問いを作るのは苦手って言われますもんね」

 言われるのかは知らんけど。


「でも、確かに、そういうところに違和感はあるのかも……」

 レッコが頷いている。

「それが引っかかってしまっているってことですか?」

「だって、そんなスキルの獲得の仕方、知らなかったでしょ? でも、現実ではスキルって、何度も繰り返して獲得するものだから、合っているんだよね。っていうか、カチワリくんもやってみたくない?」

 いつの間にかレッコが誘っていた。

「やってみたいです!」

「でも、結構、レベル上げちゃってるでしょ?」

「そうですね。武器も防具も強くなっちゃいました」

「強くなるとスキルの伸び率に関係してしまうかもしれないよ」

「え~!? じゃあ、もう一回初めからやりますから、パーティーメンバーにしてくれますか?」

「いいよ」


 そう言って、カチワリくんは一度ゲームから出ていき、ものの数分でガリガリになって戻ってきた。


「よろしくお願いします!」


 カチワリくんはぼろ布を纏っただけの、どん底から始めたらしい。

 彼がこのゲームで最強になるのは、もう少し先の話だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] VRゲームがもし出たらやってみたい事は喰う事に特化したビルドにしたいね 勿論、武器防具、モンスター、自然物などを食べるって意味でね… あ、魔法もいけそうだね 人が余りやらない系が大好物だから…
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