101階層からのルール変更
会社を作ったレッコだったが、当然都合よく仕事が入ってくるわけもなく、「応援しています」というメールに返信する毎日が続いていた。会社を設立するのにも20万円以上はかかる。
配信ですでに稼いでいるとはいえ、どうやって維持していくかが問題だ。
「戦略が大事なんじゃないですか?」
カチワリくんは、あっけらかんと言った。
「それが難しいんじゃない」
「コンテンツ産業ですよね。しかも、すでに差別化はされているし、固定のファンもいて、売るものも決まっているなら、どういう層にリーチさせるかだから、クサカさんに外注してブログを書いてもらったり、メルマガにして配信したりすれば……」
「いや、今だってクサカさんに企画立案してもらってるのよ」
「ああ、いいよ。やるよ。売上が出て、お金貰えるなら」
「じゃあ、決まりじゃないですか」
カチワリくんは、勢いだけの大学生じゃなかったのか。
「カチワリくんは、よくわかるね」
「一応、これでも商科大なんで。それにバイト先でコンテンツ作りの手伝いしてるんですよ。レッコさん、スタートアップならどんどん公的な補助金とか申請していった方がいいですよ」
「あ……、うん。一応資料は見てるんだけどね」
「俺、やりましょうか。企業のバランスシートとか見まくってたんで」
「カチワリくん、レッコの会社入れば?」
「え? でも、こんなの調べれば誰だってできるんじゃ……」
「できないのよ。入って」
「あー……、わかりました!」
カチワリくんの就職先が決まった。
「就職ってこんなんでいいんですか?」
「安定するまで大変だと思うよ」
「めちゃめちゃ働かせるからね」
「そうですよね。別のゲームでも『初めの村で強くなってみた』シリーズをやりませんか。あと、ゲームで倒したモンスターの肉しか食べれないシリーズとか」
「俺は、『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』以外は、最近のゲームを知らないよ」
「じゃあ、クサカさんはこれから先はなるべくゲームの情報は入れないようにお願いします!」
新鮮なリアクションをするため、俺には制限がかかった。外注のライターのはずなんだけどな……。
とりあえず、リアルではそんな感じで、二人とも配信を始めた。
今日は魔法屋で水魔法の魔法書を買い、雨を降らせる魔法を習得。ダンジョンの100階層までワープしてから、101階層まで行った。
「あれ? サソリの死体が残ってる」
「本当だ。消えないんですかね?」
倒したはずのサソリのモンスターが砂に埋もれていた。種と骨粉を撒いたところには、午前0時になっても時間経過で消えたりせず残っている。100階層を超えて、ルールが変わったのか。
「これは本当に実験場なんですね」
「ダンジョンの実験場か」
「このまま雨を降らせて水やりをしますか? 鉄砲水になるかもしれないですけど……」
「調節しながらやってみよう」
3人それぞれで、やってみたが雨粒を砂が弾いてしまい、流されて行く。集まった雨水はそのまま鉄砲水へと変化していった。
「その鉄砲水がポットボトムに流れるということかぁ」
「中心の門に流れていきますね」
「ダンジョンに排水されていくんですね。あれ!?」
カチワリくんが、サソリの死体を指さした。
死体から、マメ科の蔓が伸びている。
「腐肉ですか……」
ドラゴンゾンビから腐肉は取れるが、用は保水力があればいいということだろう。
「保水力のある土を持ってきて苗木を植えたほうがいいみたいだね」
「水草でも撒きましょうか。沼地にたくさんありましたよ」
「地底湖にあったカイメンとかどうです?」
「全部やってみよう。第二章は『未知への挑戦』だから」
結局、やってみなくちゃわからないということがある。
101階層まで来ないと出来ないことをやらないと意味がない。
俺たちは、通った階層の腐ったものや水草、地底湖に生えていたカイメンを採ってきて、砂漠にばら撒いた。風が吹けば砂に埋もれてしまうが、種も一緒に蒔いておく。
さらに、苗木を土ごと植えた。苗木と言ってもほとんど風に吹かれて飛んでくる植物系のモンスターやダメージを食らう棘の付いた罠のようなものばかり。砂漠にある植物を検索すると、そう言う植物が多かったからだ。
どうなるかなんてわからないが、植えておくだけ植えておく。
翌日、もう一度、101階層の砂漠に行って見ると、植えたところだけ緑に覆われ、小型犬くらいの羽虫が飛んでいた。
毒にやられたのか、サソリのモンスターも大量に死んでいた。それを食べる大型のトカゲのモンスターもやってきていた。しかも……。
「あ! モンスターの糞です!」
「臭いの機能がなくてよかった!」
砂漠のあちこちにモンスターの糞という素材が落ちている。フンコロガシのモンスターもいて、糞タワーまで作り上げている。種を蒔き、ウォーターボールという水魔法を当てておいた。
現実でも緑化がこのくらいのペースで見れると、文化財や美術品を汚すような団体も減るだろう。
「あ、ドラゴンもいるみたいです」
レッコが空を見た。
ドラゴンの糞というのを見つけたらしい。
「あくまでここはダンジョンか」
「ボスがちゃんといるようですね」
「101階層からボス発生にも条件がありそうですね」
つくづく思うが、よくこんな大変なゲームを作る人がいるもんだ。
その後、緑を広げるように、苗木を植え水草やカイメンをばら撒いて、種を蒔いていった。やればいいことがわかると作業はかなり進むもので、一気にポットボトム周辺まで広げてから、雨を降らせて、その日は終了。
ただ、次の配信で行ってみると予想外のことが起こっていた。
「燃えてますよ!」
広がっていた草や木が燃えて、モンスターたちが逃げ惑っていた。黒い煙が立ち上っている。
「とりあえず消そう!」
「はい!」
3人で雨の魔法を使って火を消していった。
残ったのは焦げて炭化した残骸だけ。
「乾燥して直射日光が当たり、枯れた葉が擦られると、自然と山火事は起こるか……」
現実でも世界中のいろんなところで山火事が発生している。日本は急峻な地形があり水が豊かなだけで、山火事自体は年に何度も発生しているらしい。
「クサカさん!」
レッコが空を指さした。
黒かった煙が白くなり、空に雲ができていた。101階層では初めて見る。
「これ、もしかして何度も繰り返すと雲が残り続けるんじゃないかい?」
「おそらく、そうです」
「ヤバくないですか、それ」
「夜中に降った雪が陽の光も浴びずに残り続けると、大気も冷やされて寒冷期に入るっていう……、もしかしてそれが外の世界?」
俺たちは顔を見合わせた。
ボフンッ!!
突如、砂の中からドラゴンが飛び出してきた。
ボフンッ! ボフンッ! ボフンッ!
しかも大量に出てくる。
ギャアアアア!!
雄たけびを上げて、トリケラトプスのような角を向けて走ってくる。
「ボスじゃないんですか!?」
「わからん!」
ギギギギギギ……!
刀で角を受け止めると、火花が散った。
「どういう角!?」
鉱石でできているのか。
それぞれがドラゴンキラーのスキルを持っているので、対処はできるものの普通の刀では皮膚に切れ目すら入れられない。
「一旦、退こう!」
俺たちは叫び声をあげるドラゴンの群れを置いて、逃げるように101階層から出た。
「わぁ……。刀がボロボロだ。ダメになっちゃいました」
「私も。これ鍛冶屋で一番高かった刀なんですけど……」
「つまり、それって今ダンジョンで取れる素材で作っても傷はつけられないよってことでしょ」
外で素材を集めるしかない。しかもダンジョンの実験の結果、外の氷河期にも対応しないといけない。どうやって雲を晴らすのか。
「改めて、とんでもないゲームだな。やることが多すぎる」




