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偽りの伝説


『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』を開始して、5日ほど経った。

 リアルで山の方の村で草刈りの手伝いをしてきたあと、VR世界でも草刈りをするという、草刈り漬けの日々を送っていた。


 それでなのか、草刈りレベルが2まで上がっている。リアルでは、結構手慣れた自分もついにゲームでも「草刈りおじさん」としてダンジョンデビューできるかもしれない。


 ひたすら、町で生活していたお陰で『荷運びレベル:1』『罠製作レベル:1』『罠設置レベル:1』も取得。珍しいのは『寒冷耐性レベル:1』というのだ。暇なときにアイテムとしてではなく、切り出した氷を背負子に乗せて、ひたすら売り歩いたのがよかったらしい。

 おそらく予測した通り1万回でスキルが発生するというのは、たぶん正しい。本当にいい暇つぶしを見つけた。


 一人暮らしで暇だと、本当に無意味に時間が過ぎて行ってしまい、自暴自棄になったりするが、ゲームとはいえ成長を実感できるというのがいい。しかも、まだミッションを解明されていないゲームなので、望みはある。


 草刈りを手伝った田舎の爺さんにもらった梨を食べながら、今日もヘッドセットをつける。


 ボロ小屋の前には、以前見たレッコという魔女がいた。


「こんにちは」

『こんにちは。すみません、フレンド申請に気づかなくって』

「いや、別に構いませんけど、何か用ですか?」

『あの……、ダンジョンへは行きましたか?』

「行ってませんよ。今のところ、町でスキルを溜めているところで」

 そこまで、行ったところで、ボイスチャットの音声が流れてきた。


「町でスキルって取れるんですか!?」

 魔女のレッコはちゃんと女性のようだ。

 俺もボイスチャットに切り替える。


「ええ、たぶん1万回やり続けることでスキルが発生すると思います。自分はそれで罠作成と罠設置のスキルを取りましたから」


 やはり意外に知られていないことなのかもしれない。


「やっぱり罠師になるんですか?」

「いや、どうなんでしょう。今のところ、それしかスキルを取れていないというだけです」

「よかったら一緒にダンジョンに入りませんか?」

「いいんですか? 足手まといになると思いますよ」

「いいんです。どうせ、一度すべてのスキルをリセットしているんで、強さは変わりませんよ。えと、「クサカ」さんと……。そんな名前でしたっけ?」

「草刈りをし過ぎて、こんな名前にしました」


 スタートして5日の間に、名前は何度も変えた。草刈りをしているのに、利がないので、「クサカ」という名前にしたが……。


「本当に町の中だけでお金を貯めてるんですか?」

「貯めているというか、貯まっているというか……」


 実はすでに10000cくらい貯まっている。

 町では大した使い道はないので、そろそろダンジョンに入るのはいいのかもしれない時期だった。


 レッコと一緒に町の中心部に行き、冒険者ギルドに入った。

 冒険者ギルドには、ほとんど来ていないので2回目だ。普通はダンジョンゲームなので依頼が達成する度に来ることになる。


 冒険者ギルドのカウンターで、1000cを支払い、あっさり冒険者になった。


「職業はいかがされますか?」

「職業ってどんなのがあるんですか?」

 ゲームのキャラクターとはいえ、敬語になってしまう。

「初めは戦士や魔法使い、シーフなんかがいいと思います。こちらが創設者たちの職業です」

 冒険者の手引書という冊子の裏に、創設者たち4人の職業が絵が描かれている。

 ギルド職員が言うには戦士、魔法使い、錬金術師、奴隷の4人だという。奴隷も創設者にいるのかと疑問に思う。ただ、手を後ろに組んでいるだけで、武道家なんじゃないかという説が出回っているらしい。


「そもそも、創設者って、冒険者ギルドの創設者なのか、それともダンジョンの創設者なのか、どっちですか?」

「……冒険者ギルドと思っていますけど……」

 このキャラクターは人工知能だろうか。会話にタイムラグがある。予想外の質問をしてしまったか。とりあえず、シーフの中に罠抜けのスキルを取得しやすくなるというのがあったので、シーフとして登録した。

 レッコとパーティー登録をして、これで、晴れて冒険者になれたらしい。。


 服装も変わらず、荷物と言えるのは氷運びの時に使ったトートバッグと背負子だけだ。


「とくに実感はないな」


 レッコが薬草採取の依頼を請けていてくれた。

 

「終わりました?」

「はい」

「では、行きましょう」

「こんな装備でいいんですかね?」

「レベルが低いうちはモンスターが出たら、どちらにせよ逃げるんで、荷物は軽い方がいいんですよ。戦うのはスキルを取ってからでも十分です」


 二周目の人は頼もしい。


「大事なものとかは持ってきました?」

「そんなものはありません。だいたい拾い物ですから」


 ゲームプレイを配信する人もいるので、下着類がなくなるということはない。持ってきた資産も大した額ではないはずだ。どん底の強みを活かす。


「おおっ!」


 適当な会話をしながら、大きな扉の向こうへ一歩踏み出すと、だだっ広い草原に出た。


 遠くにいくつか固まった森があるようだが、道の両脇には腰まで伸びた雑草が生い茂っている。


 風が吹いていて、太陽も見える。町の空は、いつも曇っていて、夕方近くになると真っ暗だ。氷河期だからと言われればそれまでだが、こうして明るい草原がダンジョンの1階層にあるなら、気分も晴れる。


「道から外れなければ、ほとんどモンスターは追ってきません」

「そうですか」


 俺は思わず刈りたくなってしまったが、帰りにしよう。そもそも鎌もない。


「薬草は道をまっすぐ行って、二つ目の森の中にあります。この依頼を請けておくと、採取レベルが発生するので、便利なんですよ」

「なるほど……!」


 採取のスキルを取っておくと、雑草と薬草の区別がつくようになるし、スキルのレベルが上がっていけば毒草や食べられる植物などもわかってくるのだとか。つまり草原にある草も雑草ではないということか。


「これってもしかして食べたりすると、毒かどうかわかるとかはないんですか?」

 レッコに聞いてみた。

「食べても毒耐性が付くだけじゃなかったかな。やってみた人はいたはずですけどね。あまり意味はないのかも。料理に使えても、それほどステータスに影響しない食材は多いので、研究は進んでないんですよ」

「誰もやってないってことですか?」

「たぶん……」

「狙い目ですね」

「え?」

「いや、誰もクリアしていないのなら、試してみる価値はある」

「でも、強くなれたりするわけじゃないんですよ。体力やスタミナが回復したりもしないし……」

「だから、いいんじゃないですか? このダンジョンって強くなることがミッションなんですかね?」

「いやぁ……、100階層まで行くと、魔王が出てきて倒すことができますけど、裏のボスに関しては誰も倒してませんね。あとダンジョンのスキルをすべて取得したプレイヤーには『浅瀬のスキルマスター』という称号をくれます」

「浅瀬があるなら深海もあるんじゃ……?」

「そうですよねぇ……。誰もやっていないことをやることに意味があるんですか?」

「意味というか、今までのプレイヤーがやったことがあることをやっていてもこのゲームは進まないってことでは?」

「ああ、そういう考え方があるのか……」


 俺は、他の考え方に至らなかっただけだが、レッコは「なるほど」と考えながら、森の中に入っていった。薬草は、大きな木に囲まれた場所にあり、葉肉が厚めの葉っぱだった。アロエよりは薄いが、見れば薬草だとわかる。


「これですね」

「採取すれば、依頼達成なんですか?」

「一応、持って帰るまでが依頼なんで、死なずに出ればいいだけです。採取のスキルは発生しました?」


 薬草を採ってみると、採取レベル1の文字が現れ、されに大きく目の前に文字が映し出された。


『第一章【偽りの伝説】』


「第一章が出て来たんですけど……」

「ああ、そうですよね。偽りの伝説でしたっけ?」

「ええ。これは……」

「たぶん、誰も第二章に辿り着いていません」

「なるほど。偽りと言うくらいだから、創設者の伝説に嘘があるってことですか?」

「海外の考察班は、UIとギルド職員の言っている説が違うんじゃないか、とは言われています。創設者の中に奴隷が入っていること自体変だろうと……」

 ユーザーインタフェイスか。最近も青い鳥がxに変わって愛着を失ってしまったユーザーがいる。


「いろいろ無駄とも思えることをたくさんやるしかなさそうですね」


 1万回でスキルが発生する件もそうだが、やはりゲームを作った者は偏屈だ。それだけ、ミッションの謎解きも面白い。俺もまさか、ダンジョンのミッション自体が謎になっているとは思わなかった。

 俺は冒険者の手引書の裏に書かれた抽象的な絵を見つめた。


「さて、帰りますか」

「あ、あのぅ、探索してもいいですかね?」

「ああ、大したものはありませんよ」

「ええ、でも、初めてなので……」

「わかりました。私が周りにモンスターがいないか注意して見てますので、ゆっくり探してみてください」


 レッコの許可を得て、森の中を探索すると、近所の森と似たようなものが落ちていた。壊れた壺や板などがあり、錆びた剣もちゃんと落ちている。棒がないかと探してみたら、手ごろな乾いた枝が落ちている。

 

 枝葉を払って、持ってきた紐で錆びた剣を結び、草刈り鎌にした。

 できてしまったら、試すしかない。


「あのぅ……、もしかしたら時間がかなりかかるかもしれないんで、飽きたら帰っちゃっていいですから」

 一応、レッコにもう一度断りを入れておいた。

「はい?」

「いや、もう少しこの草原で試したいことがあるので……」

「付き合いますよ。どうせ帰るだけですし……」

「じゃあ、限界までやってみますので」


 俺は草刈りスキルを最大限生かし、森から出て草原で鎌を振った。



 ザンッ!


 一気に切れるし、草が長いので紐を作るのに向いている。

 刈り取って紐を作り、再び刈る。ここ5日間、ほとんど同じことをやっていたので、もう慣れていた。ダンジョンで草刈りのスキルを使うと、どんどんスキルの経験値が溜まっていく感覚がある。


 しかも撚って紐を作ると、外で作った紐よりも丈夫だ。もしかして、落とし穴も大きいものを作れるのか。

 森で拾った石と落ちていた枝でスコップを作り、罠設置スキルを使ってみた。


『落とし穴の設置完了』


 小さな落とし穴ではなく、普通の落とし穴ができたことにちょっと感動する。

 あとはひたすらこれを繰り返すだけ。


 手当たり次第に刈っていくと、後ろからレッコが声をかけてきた。


「この草原を全部刈り取るつもりですか!?」

「いや、鎌が壊れるまでやっておこうかと……。本当、意味がない可能性が高いので、先に帰ってもらって結構ですよー!」

「いえ、もうちょっと見てます!」


リアルの手を伸ばすと、いつの間にか、皿にあったはずの梨が無くなっている。コーヒーも空だ。

 ヘッドセットを置き、コーヒーを淹れて、すぐに戻る。


「クサカさん! 大丈夫ですか?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと飲み物を取ってきてました……」

「それはいいんですけど、猪が……!」

「え!? どこですか!?」

「落とし穴に!」


 見れば、作ったばかりの落とし穴に猪が嵌っている。

 鎌でとどめを刺しておいた。


「私も皮を剥いでいいですか?」

 パーティーメンバーなのだから、いいに決まっているが、倒した者に権利があるのだろうか。

「どうぞ、どうぞ」


 とりあえず猪の皮と肉が手に入った。


 さらに草を刈っていくと、長い草に紛れて白い花や黄色い花が出てきた。レッコに採取してもらうと、眠り状態を覚ます薬草や麻痺効果のある毒草なのだとか。


 森の周りの草原を一通り狩り終えると、ゴブリンという小鬼のモンスターが現れた。


「クサカさん! モンスターです! 逃げましょう!」

「はい!」


 レッコの声で一目散に道へ向かったが、途中で足音が止んだ。

 振り返るとどうやら落とし穴に嵌っているらしい。


 鎌を突き刺したが、ゴブリンの表皮は固くなかなか攻撃が通らない。錆びた剣なのだから当たり前だ。

 それでもレッコが麻痺効果のある黄色い花を投げつけると、身体が痺れたらしく動かなくなってしまった。とりあえず人型なので、急所と思われる箇所を突き刺していく。


 鎖骨の上から、心臓に向けて一突き刺したところで、ゴブリンは絶命。経験値が入った。

 レベルが上がっても特に大きく肉体の強度が上がるというわけではなく、体力、スタミナ、魔力のうちどれか少しだけ上げることができるらしい。

 選べるならスタミナだろうか。


「鍛冶スキルってあるんですかね?」

「もちろん、ありますよ。ただ、採掘の依頼をしてからでないと取れないはずです」


 商店街の周りには、未だに残っているプレイヤーたちの家がある。そこで、よく煙が立ち上っているのを目にしていた。


「クサカさんは、生産職になるんですか?」

「いや、今のところまだわからないです。なんでもやってみようかと……」


 ゴブリンを倒して、鎌が壊れてしまったので、今日のところはダンジョンから出ることにした。



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