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沸騰列島


 

 異常気象により沸騰列島と化した炎天下のなか、さすがに草刈りは無理そうだと、田舎の世話になっている爺さんに電話すると「あほか。俺でさえ道の駅に逃げて来てるんだから、来なくていい」と言われてしまった。


 俺にはもう一つ、連絡しないといけない相手がいた。

『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』の制作者だ。

 このゲームを調べると、大手の会社から出ているわけではないし、ほとんど個人製作で後半に近しい人たちが協力したという。

 彼には、俺たちがイベントを開催する許可を取りたい。


 拙い英語ながら、俺は素敵なゲームをありがとうと感謝をしてから、現状のレッコとカチワリくんが視聴者を集めていることを伝え、地方都市でそれほど集客は多くないがこんなイベントを考えていることを伝えた。古い映画館を再生する意味もあるなどと、大げさに言っておく。

 もし、許可を頂けるなら大変うれしい。なにか便宜を払ってくれとか、そういうことではなくて、よかったらあなたのゲームが広まり、多くの人がこのゲームの楽しむ一助になれればいい、と。


 また、一万回チャレンジのシステムを見つけたこと、冒険者ギルドで貰う手引書の絵についての予想。これの答えについては自分たちで出したいということまで、長文を送った。


 正直、返信が来るとは期待していなかった。

 ただ、ライターの仕事でも、こういう事前の手紙やどういうことを伝えたいのかを丁寧に説明すると、先方にわかっていただけることが多い。もちろん、断られるのが普通だし、その技術や商品は伝えられるべきものだということを本人に伝えられるだけでいい。


 もちろん相手の事情もわからないし、近しい間柄でもないこちらにわざわざ伝える必要なんてない。「no」と断られれば、それだけ。別のゲームを探す。



 そんな気持ちを抱えたまま、ゲームに入り込むと、めちゃくちゃ集中できる。


「なんなのこの素材は?」

「沼地にいた大ミミズの腸管です」

 背丈よりも大きく太い腸がパンパンに膨らんでいるが、レッコは気持ち悪いとは思わないらしい。


「どうすんの?」

「空気を送るのに膨らまして奥まで届くようにしようと思って」

「無茶するなぁ」

「クサカさんが言いますか?」

「まぁ、俺の計画したことではあるけれど……」

「カチワリくんもやってますよ」

 カチワリくんは取っ手を回して動かす扇風機を作っていた。


「動力源をどう作ればいいのかわからなくて、とりあえず勢いで作ってみました」

「そういう勢いは大事だ」

「あと、発破しても掘れるんじゃないかと思って用意はしておきました」

 黒光りしている丸い爆弾も用意していた。

 この爆弾はゲームの中でしか見たことがないけど、花火の八尺玉に似ている。


「仕掛けるなら結構掘らないとな」

「掘りますよ!」


 大荷物だが、俺たちの荷運びスキルなら持ち運べる。

 ダンジョンに入ると、各層で1万回チャレンジをしていたので、なんの攻撃も受けることなく7階層の火山地帯まで走った。


 7階層もほぼ走り抜けて、モンスターをやり過ごし、ボス部屋の手前の部屋から床を掘り進めていく。すぐに酸欠にはならないが、ある程度掘ると徐々にスタミナの減りが早くなる。

 そこで通路を広げ、拠点を作る。


 大ミミズの腸管の入り口を穴の外に出し、手回し式の扇風機をセット。ぐるぐると扇風機を回すと、穴の中に空気が入っていったはず……。


「どうだい?」

 穴の中にいるレッコに声をかけた。


「酸欠解消です!」

 元気のいい返事が返ってきた。

 拠点にランタンをぶら下げて、さらに掘り進める。

 掘っていけばスキルは上昇し、掘れる量も変わってくるのは当然だ。いつの間にか酸欠状態になっていないのに、身体の動きが鈍くなっていた。


「重量オーバーですか?」

「そうみたいだね。マグマに埋めておく?」

「二つの企画を同時並行でやってしまうのは、さすがに……、やりましょうか!」

 カチワリくんもだんだん何かに染まってきた。誰もやっていないことは、やっておくとアーカイブに残って、再生回数が回ることに気づいたのかもしれない。


 掘り出した岩は、鉄鉱石などの鉱物以外ほとんどマグマを堰き止めることに使った。


「あれ? 薬の効果が切れてるのに、暑さがなくなってる……」

 レッコが身体を冷やす薬を飲もうとして手を止めた。

 現実には、そうはならんだろうと思うが、マグマを堰き止めると熱さが和らぐらしい。


「ひんやり空気を送りまーす!」

 カチワリくんは扇風機の前に氷を置いて、回していた。


「なんか気持ちいい!」

 実際には感じないはずなのに、涼しい気持ちになるから不思議だ。風鈴みたいなものか。


「カチワリくん、そろそろ爆弾仕掛けてみて」

「わかりました。えーっと距離が……」


 爆発する範囲を計算して、カチワリくんがセット。

 すぐに走ってきて、一瞬、間がある。


 ボカーン!!


 気持ちのいい爆発音とともに、通路に大きな穴が空いた。鉄鉱石も大量にとれた。


「いいねぇ」

「やばい、奥の方は酸欠です!」

「扇風機回してきます!」


 徐々に伸縮性が高い巨大な腸管が伸びてくる。空気が入ってくるから、爆発で舞っている粉塵が消えていく。細かいところまで作りこんでいて、またしても演出に感動してしまう。

 物を作っている人たちの心意気は、こういうところに出てしまうような気がしている。


「天井は抜けてないですよね?」

「そうだな。もうボス部屋の下までは位置的に入ってるよね?」

「十分入ってます。じゃ、真っすぐ掘って、爆弾を順番に仕掛けていきますんで」


 カチワリくんは一気に広げるつもりらしい。


「了解。人間一人が通れるくらいの穴でいいんだよね?」

「そうです」


 つるはしの耐久値がなくなるまで掘り、次のつるはしでさらに掘る。

 体感では100メートルくらい掘ったつもりでも、それほど掘れていなかった。何より、酸欠でスタミナと体力がヤバかった。


 急いで拠点に戻り、空気を吸って回復する。


「酸欠の限界まで掘ったよ」

「水中呼吸の薬を飲んで行きまーす!」

 カチワリくんは爆弾を抱えて、俺が開けた通路へ走った。

「あ、ずりー!」

「水中じゃないのに効くんですかね?」

「効きそうなところがこのゲームだよ」

 裏技の許容範囲が広い。制作者がプレイヤーのバカさ加減に合わせてくれているのか、想定できることはだいたいできるようになっている。自由度が高いと言われる所以だ。

 

「行ってきました!」

「よし、逃げよう!」


 俺たちは穴から飛び出した。


 ズンズンズンズンズン……!


 地下で爆弾が爆発する音が聞こえた。


 皆で扇風機を回して風を送り込み、粉塵を晴らしてから地下へと向かう。

 どうなってるのか。期待が膨らむ。


「すげっ!」


 真っ暗な巨大な空間が広がっていた。幸い、マグマには当たらなかったし、鉱物も宝石の原石も大量に落ちている。

 カチワリくんの採掘スキルも、『発破技師』という特殊スキルを獲得したらしい。


「これ、柱がなくなっちゃいましたね」

「どうします?」

「天井に貼り付けられないかな」

 

 レッコがジャングルで採取した粘着液を天井に投げた。


 ベチョ!


「いけるんじゃないですかね……」

「とりあえず、導火線を繋いでやってみる?」

「いいですね」


 爆弾を導火線で繋ぎ、さらに粘着液を塗りたくる。

 爆弾をあるだけ、とりあえず天井に投げると、きれいに引っ付いた。


「時間経過で取れるかもしれないから、レッコはボス部屋を開けて!」

「了解です! 皆、レック押しといて!」

 どうなるのか視聴者も楽しみにしてるのかもしれない。


 ボス部屋の扉を開くと、大きく丸々と太った竜が現れた。

 寝ていた竜が、薄目を開けてこちらを見た。目をこすりながら、欠伸をしたその瞬間、レッコは俺に合図を送っていた。俺はカチワリくんに合図を送る。別にボイスチャットがあるから、音声を出してもいいはずなのに、俺たちはなぜか無言で連絡を取り合っていた。


 カチワリくんが灯した火は導火線に伝い、地下の爆弾へと向かう。

 レッコは指を、3、2、1と折っていく。


「ゼロ!」



 ドッカーン!


 地響きが鳴り、ボス部屋の床が崩れ落ちていく。一緒にボスの太った竜も目を丸くして落ちていった。


 ドッシーン!


 ボス部屋から土埃が舞う地下をのぞき込むと、太った竜が目を回して気絶している。



「戦わずして勝ったな」

「これ8階層までどうやって行きます?」


 8階層までの道は崩壊している。


「二人とも、クライミングのスキルとらなかったの?」

「ああ、壁伝いに行けばいいのか」

「うわぁ、スキルとっておいてよかったぁ」


 8階層まで進んで、その日の配信は終了。


「お疲れさまでした!」

「お疲れさまでしたぁ」

「いや、本当にお疲れさん。次の日曜日に映画館の掃除するから、駅に着いたら連絡して」

「了解です」

「お願いします。持ち物とか動きやすい格好と軍手でいいですか?」

「いいよ。食事も行きつけのところがあるから大丈夫……」


 そんな会話をしていたら、このゲームを紹介してくれた友達から連絡が来ていた。

 開いてみると、SNSの画像が貼られている。

 

「君たちは最高にクレイジーだな。もちろん、イベントはやって構わないよ。楽しんでくれ」

 『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』の制作者が、俺のメールの画像と配信のURL共にSNSで返信が来ていた。


「マジでいい奴だな!」


 俺はすぐに二人と共有した。


「うわぁ! やったー!」

「公認取ってたんですね!? すごい!」


 イベントへのやる気が一気に沸騰した瞬間だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんなゲームつくったクレイジーな奴にクレイジーと言われるw
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