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試行錯誤を狙って見せる!


 床を掘りながら、気づいたことがある。岩は結構固い。特に、通常の落とし穴以上に掘ろうとすると時間がかかる。ただ採掘スキルはちゃんと上昇していた。

 まぁ、いけるだろうと、ボス部屋の近くに穴を掘り、方向を考えながら掘っていく。当たり前だが、ボスまで到達しないといけないし、ボスの大きさ以上には掘らないといけない。


 1万回チャレンジをやりすぎているせいで麻痺しているが、過去に誰もやっていないそうだ。


「考えてもやらないんですよ」

「出来るならやってみたくないか」


 すでに、採掘は落とし穴を掘るので慣れていたし、露天掘りやブランチマイニングなどゲームの世界ではなぜか有名だ。早々に、作業しながら雑談が始まる。


「あ、そんなクサカさんに、視聴者から質問が来てます」

 カチワリくんが配信しながら聞いてきた。

「なんでしょうか」

「おっさんはなんで禿げなの? これ、わざわざ投げ銭までして質問することか!?」

「カッコよさとかかわいさの競争をしたくないからかな。それよりもコミュニケーションをしたいっていうか……」

「でも、クサカさんは私たち以外とあんまり関わってないじゃないですか。配信もしないし」

「ああ、そうか。俺としてはゲームの制作者とのコミュニケーションだから、別に他人からどう見えてもいいんだよ。ゲームを作った人の意図を考えた方が、純粋に楽しめるんじゃないかと思ってるからかな」

「普段はどうしてるんですか?」

「リアルは威圧的にならない格好で、それなりに清潔感があればいいんじゃないかくらいにしか思ってないよ」

「ブランド物が欲しいとか、好きなアイドルが持っているものが欲しいとかも……?」

「服のブランドは、それぞれの思想があるでしょ? 人種差別をしないとかジェンダー問題とか、そう言うのに共感できれば身につけたいと思うけど、好きなアイドルは特別いるわけじゃないんだよね」

「がんばっているから応援したいとか思わないですか?」

「身近な人には思うよ。だから、レッコとカチワリくんは頑張ってほしいと思ってる」

「え? じゃあ、この前の私の水着、着ます?」

「全然着るけど、それはレッコが嫌じゃない? この前着た水着をおっさんが着るって思ったらどう?」

「最悪です。やめてください」

「セクハラってコメントが来てますよ」

「それは俺のセクハラなのか……」


 相変わらず、くだらない話をしていたら、急激にスタミナと体力が減ってきた。


「ちょっと待って。毒でも出た?」

「俺たち毒は無効ですよ!」

「これ、溺れてます! 酸欠ですよ!」

「一旦出よう!」


 穴から出ると、体力もスタミナも戻っていった。


「炭鉱じゃないんだから!」

「穴を掘っていて酸欠になるゲームって! やっぱり制作者側がボス部屋の対策してるんじゃないですか?」

「俺たちみたいなプレイヤーを想定してるんですか?」

「露天掘りするしかないのか。でも、それだと他のプレイヤーに迷惑だしな」

 散々、迷惑しているだろうけど、視聴者が増えてきてしまっているから犯人が俺たちだとバレる。


「まさか火山で酸欠になるとは思いませんでしたよ」

「ちょっと町まで戻って何か考えますか」

「そうだね。町に帰ってちょっと休憩しよう」


 町に戻り、二人とも配信が切れたタイミングで、メッセージを送っておいた。

 ちょうどいい機会なので、俺の住んでいる地方で小さなイベントをする会場があるから、もしイベントをするなら、ここらへんでゲームの進め方を調節した方がいいかもしれない、という趣旨だ。日程もおおよそ夏の終わりくらいにできたらと書いておいた。


 二人とも、すぐに「やりましょう」という返事が来た。スケジュールを考えておいて、とは言っていたし、どこかで小さくてもいいからイベントをやりたいと言っていたが、即答が返ってくるとは思わなかった。


 ゲームに戻って商店街を散策し、火山地帯で何か使えないか探した。


「結局のところ、送風機があればいいってことですよね?」

「小型の地熱発電機を作るしかないのかな」

「二人とも、諦めるっていう選択肢はないんですか?」

 カチワリくんは、この企画をやめたいのか。


「ないよ。火山の床に穴を掘りすぎると酸欠になるなんて誰も知らなかったんだから」

「むしろ俺たちがやらないと……」

「あ、そうですよね」


 カチワリくんは、7階層の企画がそれなりに長くなることを視聴者に説明したのか。頭いい。


「魔法陣とかで風は送れないのかな?」

「お札があるはずなんで試してみましょう」

「水中呼吸用の薬は使えないんですかね?」

「それも試そう。金ならある」

「どちらにせよ、ある程度工作系のスキルを取っておいた方がいいかもしれませんよ」

「そうだね。罠で毒が噴き出すのがあるんだけど、それで空気も送れないかな?」

「俺たち、毒なら無効化できるから掘った穴の中に毒を入れてもいいかもしれませんね」


 地熱発電機や街灯などを直すエンジニアが商店街から離れたところにいて、仲良くなると街灯を貰えたり、電気ストーブや扇風機を買えたりできると視聴者から教えてもらった。


「扇風機もあるの!? じゃあ、それじゃない?」

「奥まで風を送れないとかあるんじゃないですかね?」

「それはありそう。このゲームの制作者ならやりかねない」


 他にも空気袋という水中遺跡を探索するときに使うアイテムや、火を噴く草の中には酸素が溜まっているなどと、視聴者から教えてもらった。


「だったら、海藻を育てます?」

 レッコがまたわけのわからないことを言い始めた。


「穴を掘って水を入れて、海藻を植えれば空気は出ますよ」

「普通に草を生やすじゃダメなのかな」

「緑の草が育てばいけそうですけどね」


 火山の植生から考えると厳しそうだが、実験はすることにした。

『園芸家』のスキルは上がっているので、すぐに試せる。


一気に7階層まで走る。

ジャングルや沼地で採取した草に骨粉を撒いてみたが、育ちはするもののすぐに枯れてしまうことがわかった。やはり海藻しかなかなか育たないようだ。


「地熱かぁ」

「冷やせばいいなら……」

「氷がありますよね」


 俺たちは町の端にある氷柱から氷を削りだして、ダンジョンに持って行った。

 確かに氷の下で海藻を育てると長持ちするが、今度は採掘に手が回らない。

 

「これは、今日は無理じゃないですか?」

「0時回ると、全部リセットされる?」

「そうです」

「じゃあ、やっぱり送風機を作るしかないか……」

「これまでよりも相当ハードな案件ですね」

「じゃあ、また明日にしようか。ちょっと俺も調べておくわ」

「はーい、じゃまたー」

「お疲れさまでした!」



 配信終了後、レッコとカチワリくんから同時に連絡が来た。


「イベントできるんですか?」

「出来ると思う。前に言っていた昔映画館だったところなんだけど、掃除さえすればいけるみたいだよ。だから、後日、掃除しに行く。小屋代もかなり負けてもらえるよ」

「だったら、私も掃除しに行きますよ」

「俺も行きたいです! 電車で行けますよね?」

「都心から1時間半くらいはかかるよ」

「いけますいけます」

「二人とも就活は大丈夫なのか」

「いや、もうこんな機会はないかもしれないんで」

 期待しているようだが、都心から時間もかかるところにお客さんなんて来るのか。


「そんな、何百人もこないよ。そもそも150人くらいしか入らない映画館だから」

「全然、いいですよ」

「お客さんが5人とかでもやりましょうよ」

「そうそう。アーカイブを残しておけば、いいんです。行きたかったぁって思わせられれば勝ちですから」

 イベントが盛り上がっていればいいらしい。


「だったらいいけど。商店街のお祭りもあるみたいなんだよ。9月の2、3日あたりかな」

「私はいつでも暇です」

「自分もまだ学校が始まってないです」

「一応、カチワリくんと決めていたスケジュールなんですけど……」

 ゲームのスケジュール管理はレッコに任せてある。


「はい。何をするの?」

「10階層のボスがドラゴンなんですよ。その階層にいろんなドラゴンの卵があるんで、そこから孵ったドラゴンの子を討伐していこうかっていう話をしているんですけど、どうですか?」

「いいと思うよ」

「イベントだし、もっと変なことをしないといけないのかとも思うんですけど……」

「やっぱり1万回チャレンジがしたくて、なにかできないですかね?」

「ドラゴンの卵を炒めるとか?」

「食べるんですか?」

「食べれないのかな? ドラゴンの子には種類があるの?」

「何種類かいます。水竜系とか飛竜系とかが」

「珍しいドラゴンの子を育てちゃうのは?」

「育てるんですか? 討伐じゃなくて!?」

 これはリアクションがよさそうだ。


「それいいんじゃない。ドラゴンの卵から孵ったドラゴンを全員大きくしてボスに届けるっていうのは? ボス部屋に入った瞬間に、すごい引き連れていて、どれがボスなのかわからないみたいなのは面白いんじゃないかな?」

「面白いですけど……、1日でそんなに大量に飼育できるんですかね?」

「肉を大量に用意しないといけないんじゃないですか?」

「肉は外にもいるし、ジャングルにも草原にもいるし、どこにでもあるから……」

「ドラゴンの子を殺さずに、ボスだけ殺すってことですか」

「そうなるね。本当言うと、一度現場が見たいんだけど、それじゃあ視聴者が面白くないかな」

「大丈夫じゃないですか。前日辺りに、一度見てから、決めても」

「きっと試行錯誤が面白いんですよ」

「だったら、いろんな失敗も見せた方がいいよなぁ」

「そっか。8階層は遺跡で、9階層は雪山なんで、火山地帯で時間をかけてる場合ではないかもしれません」

「もしかして結構、先の話かと思ったら、時間が詰まってきてるの?」

「はい」

「一応、視聴者には時間がかかるとは言っておきましたけど、大丈夫ですかね?」

「がんばるしかないね」


 ミッションのためのスキルはどこに行ったんだと思うが、意外と順調だ。


「鉄鉱石は鉄のインゴットにしていいんですよね?」

「いいよ。採れる鉄は採っておこう」


 次の配信日を決めて、その日の会議は終了。

 

「暑い」


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