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-7-「シューレン・シンカー。」

少年は名乗る。



「ボクは、アノマロカリスだよ。だよね。ちょっとわかんないけど、たぶんね。」



改めて見ても、完全に頭蓋と癒着している巨大な触角。角のようにも見て取れるが、角とは違いある程度自由に動かせるようである。


あぁ、訳がわからない。急に何者だ。



アンプ

「とにかく、その学名は長い。貴様の固有名を今すぐ見繕いたまえ。」



「えっ、と、こゆーめ?あのね、わかんないけど。」



アンプ

「貴様の名前を今つけろと言っている。」



「なまえ。アノマロカリスじゃなくて?


キミがつけて、いいよ。ボクにはよくわかんない。」



なぜ私が……。


名をつけるとはその者の将来を案じる責任が生じる。私にその責を負えというのは、些か図々しいではあるまいか。


しかし、会話をしてみると……少々、言葉を話すのが得意ではなさそうだ。自分で名前を決めさせると、恐ろしく時間がかかりそうに感じた。


こんなところで時間はかけない。聞きたいことがあるだろう。なので、スパッと、ある程度簡易に。



アンプ

「では、仮に『アノム』とする。」



彼はそれが自分の名前として与えられたことを理解した。満面の笑みで頷いてみせる。



アノム

「ゆゆゆぅ、ボクはアノマロカリスのアノム!」



アンプ

「仮にだぞ、かっこ仮。


貴様は一体何者だ。」



アノム

「アノマロカリス……。」



アノムは戸惑う。私の質問に対して上手く答える術が無いようだった。


彼から出てくるワードは多くない。とにかく自分のことをアノマロカリスだと信じていることだけは理解できるが……。


……いや、おかしいだろう。なんで古生物がヒトガタになって江戸川河川敷にいるのだ。



白川

「収斂進化っすかね。」



アンプ

「小童……帰ったはずでは!?」



白川

「忘れ物したっす。ほら、家の鍵。やー、Apple Tagってこういう時に便利っすな。


で、収斂進化っすよね。古生物にはわからない?」



アンプ

「どっち見て言っておる。」



白川は平易に説明する。


普通、進化は一つの種族から二つ以上に分岐していくものである。まるで幹から枝が分かれていくように。


しかし、さまざまな環境要因によって、一度は袂を分かった別種族同士が、お互いに似通った身体の特徴を持つように進化していくことがあるという。


例えばスズメとコウモリ。スズメは鳥類、コウモリは哺乳類だが……互いに空を飛ばんと進化した結果、どちらも翼を持つあの姿へと収斂した。



白川

「ヒトとアノマロカリスも遥か昔に分岐した別種族っす。


でも、なんだかんだ、アノマロカリスも現代環境への適応のためにヒトの形に進化したのかもね。」



アンプ

「……白川。貴様、無茶苦茶言ってるのは承知の上か。」



白川

「承知っす。それに、そんな無茶苦茶でもないなって思うんすよ。


もしアノマロカリスが今この時代までひっそりと生き延びていたんなら……栄華を誇った時代から約5.4億年。どんな姿を目指したにしろ、まぁ十分な時間があったんじゃないんかなって。」



アンプ

「いやその、最初の前提が一番の無茶苦茶だろうが!


ひっそりと生き延びてたって、んなら彼を報道機関に引き渡せば一躍有名になれるとでも!?」



…………。


……な、なんだこの静けさ。



白川

「そっすね。そうだ。その通りだ。


ヒトガタに進化した、生きた化石。こりゃ金のなるエビだ。」



白川

「よし。」



白川

「監禁して換金だ。」



白川の目が狩人のソレと化した。アノムは命の危機を感じて後退りするが、後ろは川岸。もはや逃げ場がない。



アンプ

「あ、あー、白川。怖がってるぞ。貴様と同い年くらいの子どもがな。


であるならば私は、由緒正しき大人として加害者を止めるだろう……。」



白川

「はっはっはァ。私の切り札を知っといて敵対するってんで?


アンプ、なかなか粋っすね。」



暗闇より、白川を囲うように出でるは……デモリ。



白川

「まぁ……私は、止めないっすけど。」



デモリが応じ、行動を開始する。


日が落ち、闇に溶け、今や地に這う全てが一となった。デモリの姿はもはや追うことができない。


だが、ヤツの終着点はただ一つ……この奇妙な子どもの足元。



ならば、為すべきは一つ。



アンプ

「くっ。アノム、私が囮になる。そのうちに!」



アノムを背にして構える。さぁ、私を退かさねば届かぬぞ!爬虫類ごときがヒト様を舐めるんじゃあない!



アノム

「わ……わぁ。守って、もらえてる。


守ってもらえてる!ボクのこと大事だから!?」



アンプ

「騒ぐんじゃない、気を引き締めろ!」



アノム

「ゆゆゆ、ゆゆゆゆぅ!」



なんだか奇妙な音頭を取りながら、私の背に擦り寄る。



アノム

「でも、大丈夫!


アンプ……それがキミの名前。良い名前!また、必ずまた会えるよ!」



とんっ、と。軽く背を押された。


直後、ザバンと水面が飛沫を上げる音が響く。



驚いて振り向いた、その先にはもう誰もいなかった。


か、川に!?飛び込んだのか!?



白川

「あーあ。水中生物だし、やっぱ基本は水の中で生きてんすかね。


逃した。」



白川が振り返る。


私は足に衝撃を受けて跪いた。……どうやらデモリの腹いせか、尻尾払いで足を打たれたらしい。爬虫類はすでに白川へ軽く擦り寄ったあと、草むらへと姿を消していった。



白川

「アンプ、のんのんのん。価値あるものを泳がすのはもったいないっす。


ヤツが何者であれ……然るべきところに渡した方が、ゆくゆくは彼のためになるんじゃない?」



なんて言葉で私を諭す。


その一方で、こんなことも残していった。



白川

「……あるいは、私たちのために?」

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