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-3-「ヤモリと張り合うな、少年。」

金曜日の夕方は清々しい。道ゆく人々は、これより始まる休日前の宴に心を躍らせている。さすが、華の金曜日と揶揄されるだけはある。


私は別に宴の用事はないが、それとて金曜の日暮れはワクワクするというものだ。さぁて、今夜はなにをしてくれようか。



白川

「ねぇねぇアンプ、デモリが芸を覚えたっすよ。


デモリ、伏せ!」



デモリ

「ヤモッ。」



白川

「回れ!」



デモリ

「ヤモモ。」



白川

「イモリ!」



デモリ

「イモッ。」



んなバカな。


現在、デモリは千葉県市川市の有名な曰くつきスポット、八幡の藪知らずに身を潜めている。定刻になるとヤモリ特有の隠密で人目につかず街を移動する。こんな図体なのに今までバレずに生きてきたのがステルス性能の高さを証明している。


そして、白川と乙葉がいつも降りる駅へ出迎えて、そのまま共に江戸川河川敷へと向かってくるのだった。


律儀なヤモリだ。絶対遺伝子操作とかされてると思うのだけど。



白川

「はーあ、かわいー。


それに比べてジロちゃんは……はぁ。情けないっす。勉強と女装しか取り柄ないじゃないっすか。」



乙葉

「じょ、女装は取り柄じゃないよっ!僕、男の子だからっ……女装なんてっ!」



しかし、容易に想像できる。ユニセックスな面構えが故、どんな服でも着こなせような。



白川

「じゃあ芸できんの?


はい、ちんちん。」



乙葉

「えっ。


えっ。」



白川

「はいスケベ。」



乙葉

「やっ、ち、違っ!だってその、急でビックリして!ほらっ、こ、こうでしょ!?芸のちんちッ……ほ、ほらっ!」



乙葉はしゃがんで手を招き猫のように構え、腹部を無防備に晒して服従の姿勢を取る。


おい。こんな姿勢を小学生にさせたら、その最寄りの大人に向かう目線はもちろん……ゾワワ!



アンプ

「や、やめんか、わ、私に疑惑がかかってしまうではないか!」



白川

「おや、人の目なんか気にするんすか?


ねーデモリ。いまさらっすよねぇ?」



デモリはペロリと舌なめずりした。おい貴様、貴様はどう考えてもこっち側だからな!疑惑かかったら困る側!



乙葉

「み、見た?僕だってやればできるからっ……。」



白川

「おすわり。」



乙葉

「すわっ!」



白川

「ヤモリ。」



乙葉

「や、ヤモッ!?」



白川

「タモリ。」



乙葉

「えー誰が言ったか知らないが、言われてみればたーしーかーにー聞こえる空耳アワーの時間がやってまいりました……。」



諸君は勘違いしているやもしれない。その風貌から、乙葉はお上品な高嶺の花のイメージが強いかもしれないが……わりと泥を被る度胸のある男である。おそらく白川に無茶振りされ続けて十数年、否が応でも鍛えられたのだろうな。気の毒に。


しかも頑張って似せようとしてるあたりが涙ぐましい。貴様、偉いな。



白川

「まぁまぁやるっすね。でもまだまだ。」



乙葉

「むっ……じゃあっ、じゃあさぁっ、白川ちゃんはどうなのっ。デモリよりスゴいんだね!?」



白川

「はっはー、そりゃあそのデモリが認めた主人っすから。スゴいに決まっとろーっす。」



乙葉

「じゃあやってみせてよね!お手!」



白川

「いえーい。」



乙葉

「いえーい!じゃあ、ヤモリ!」



白川

「ヤモ?」



デモリ

「ヤモ。」



デモリは頷いた。白川のそれはヤモリ度が高かったようだ。なんだよヤモリ度って。



乙葉

「じゃあっ、キモリ!」



白川

「キッモ。」



なんか悪意あるだろ、その言い方。


乙葉も乙葉で、自分で言わせておいて傷ついていた。しょぼくれてため息ついている。



白川

「へっ。私を試そうってのが甘いんすよ。


さーてデモリ、負けたヤツは好きに仕留めていいっすよ。」



アンプ

「ま、待てぇ!モータルコンバットじゃあるまいし!


というかいい加減さっさと去れ、私の金曜日をこれ以上奪うでない。」



白川

「えぇ。せっかく楽しい金曜日を届けにきたのに。


どうせ家帰ってもやることないんでしょ?せいぜい酒飲んでつまみ食べて寝るって感じ。そんな面白きこともなき世を面白くしてあげようと思ったのになー。」



アンプ

「んんん余計なお世話だ。たったそれだけのことがどれだけ楽しいか、子どもには分かるまい!」



白川

「大人ってつまんないっすね。何もしないのが楽しいって。そんなのよりプリプリな小学生と話してる方が楽しいでしょー。」



どこがプリプリだ。ストレスフルフルだ。


それに私は、そもそも人と話すことにも多少なりと精神力を使う類の人間だ。疲れるのだ、人と話すのは!



アンプ

「放っといてくれ。」



白川

「ふーん。


デモリの一切、放っといていいみたいっす、私。」



デモリ

「ヤモ。」



アンプ

「やめろそいつは放っとくなバカ。」



白川

「あ、バカ?


デモリ、尻尾ビンタ。」



1.5m級ニホンヤモリの遠心力を活用した尻尾ビンタの味はいかがなものか。


この世に知る者は、私だけだ。貴重な経験だった。



教えてやろう。


めちゃくちゃ、痛い。ビンタじゃない、太い木でぶん殴られたみたいな。


骨に。骨が。おっおっお。

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