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-16-「ニュルブルクリンクモードも用意してたらしい。」

盆の時期。実家に帰るつもりはない。


盆休みという長期休暇ではあるが、やることは変わらない。引き続き、河川敷に居座らんとしていた。


我が愛車で旅行というのも考えたが……今年の夏は暑すぎる。正直、河川敷にいるのもまぁまぁキツい。だが、家で何もせずいるよりかは。



ということで、早朝5時半。暑くなる前に来た。盆休みのメリットは1日を自由に使えるという点にある。夕方に行くと小童どもとエンカウントしてしまうからこその朝である。



が。



白川

「やっぱね。言った通りでしょ、ジロちゃん。」



乙葉

「本当だぁ……むにゃむにゃ。」



アンプ

「き、貴様ら……さては諜報機関の所属か。」



白川

「いーや。ただの推理ごっこっす。小学生のごっこ遊び。


なのにまぁ、すっかり当てられちゃって。」



アンプ

「その言い方、悪意があるなァ。」



白川

「はっはっは。


まぁ、せっかくだしこっちおいで。たまにはアンプのお望み通り、景色を眺めるのも一興っす。ほら、朝日が綺麗っすよ。」



……不本意だが、たしかに朝日は美しかった。


その光をもって、朝露が一斉に照らされ、河川敷に生命が息吹く。香り輝く瑞々しさが朝の訪れを知らせるのである。



アンプ

「……美麗だ。清々しい。」



白川

「うん。綺麗っすね。」



乙葉

「すや……。」



しばらく眺めていた。雄大なる自然を前に、人はようやく知り得るのだ。我々の生きていた世界は、こんなにも広大であることを。


しかし。



神戸

「眩しいですねぇー。」



アンプ

「……出たな、暴力詐欺師めが。朝早くから人を騙くらかそうとしてるのか?」



神戸

「勘違いしないでくださいよ。僕からは絶対に手は出さないポリシーなんですよぉ。


暴力はサステナブルじゃないですからねぇ。相手に良い思いをさせた方が、継続的にお借りできますでしょ?」



アンプ

「良い思いなんか一つもしてないがァ?」



神戸

「あはは。あれはね、ちょっとイジワルしたくなっちゃいましてぇ。


だからね、今日はお詫びに来ましたよ。ね、白川さん。」



白川

「コウベ、おはよっす。」



アンプ

「面識あったのか、やはり……顔が広い限りだ。


……ん?コウベ?カンベじゃなく?」



白川

「気にしないことっす。この人、相手によって読みを変えてるんすよ。ジロちゃんにはカミドって名乗ってるっす。」



やっぱり詐欺師じゃないか。何一つ信用ならない男である。



白川

「で、アンプを弄んだお詫びってのは?」



神戸

「はいー。


流しそ〜めん!用意したんでいかがですかぁ?」



神戸が指差したその先。竹組みの流しそうめん会場ができあがっていた。まったく気づかなかったわ。



白川

「朝からそうめんっすか。へー、面白いっすね!ジロちゃんほら起きて、朝ごはんっすよ!」



乙葉

「んむ……ごはん?」



神戸

「アンプさんもこちらおいでくださいよ。はい、これめんつゆと箸。」



言われるがままにコースの横に連れて行かれる。別に腹が減ってるわけではないのだが。


詐欺師の流しそうめんというのもまた恐ろしい。そこの川の水使ってるんじゃなかろうな。



神戸

「安心してくださいよぉ。そんなにじっと見なくても、ちゃーんと綺麗な水ですよ。


さ、流しますよー。準備はいいですかぁ?」



白川

「おー。」



乙葉

「はーい!」



エドガー

「うむ。」



なんか余分に一人増えている。サバイバル生活にて食事は命に関わる問題なのであろうな。天から降り注ぐそうめんは、腹を満たすための千載一遇の機会なのである。



神戸

「じゃあまずは普通にそうめんから。」



しゃっと流されてくる。


流しそうめんは上流に立つ者が圧倒的アドバンテージを取ることになる。そして、そこには食事が死活問題のエドガーが陣取る。


だが、彼には問題があった。まだ箸を上手く使えないのだ。特にそうめんはトゥルトゥルな部類であり、初心者には掴むのが難しい。



エドガー

「くっ!お、俺としたことが獲物を逃しただと……!?


ジント!フォークは無いのか!?」



神戸

「それは反則ですよぉ。郷に従ってくださいねぇ。」



続いて白川。的確にそうめんの大半を掬い取り、ちゅるっといただく。美味そうな顔しおって。


そして、おこぼれの数本を侘しく取るのは乙葉。



アンプ

「流しそうめんでも白川の食い残しにありついていくしかないのだな。」



乙葉

「あ、悪意がありますよ、その言い方ッ……!


どんどんください、神戸さん!」



神戸

「はいはい、じゃんじゃんバリバリ。」



そうめんが次から次へと流れてくる。


序盤は白川がどんどん取っていたが、そのうち腹一杯になって箸を止めた。代わりにエドガーが不器用ながら箸を使いこなし始め、どんどんと回収していく。


やはり乙葉は残り物しか流れてこない。しんみりと涙を流す盆休みは楽しいか?



無論、最下流の私の元には何も流れてこないッ。



アンプ

「何も来ないがッ。」



神戸

「そんな下の方にいらっしゃるから。


仕方ない、変わり種も流していきますよー。それなら取れるかも。はいー。」



何かが流れてくる。エドガーはそれは取ることをせず。乙葉は目をまん丸くして身を引いた。


イヤな予感がするがキャッチしてみると……。



「ゲェコ。」



アンプ

「カエル!食えるか!」



神戸

「え、新鮮ですよぉ?」



エドガー

「貴重なタンパク源だ。だが、調理が要るな。生食ができる強靭な胃があるなら別だが。」



アンプ

「あるわけないだろ!」



カエルは自ずと箸から逃れ、勝手に私の頭上に陣取った。展望台代わりにしおって。



神戸

「はい次ー。」



次に流れてきたのは、巨峰。おぉ、これはまともなチョイス。


だが。



エドガー

「ぐっ、と、取れん!」



乙葉

「は、速いです!」



アンプ

「丸物は……難しいぞ!ザルに落ちたのを取っても構わんよな?」



神戸

「だーめー。ルール守ってくださいねー?


ザルに落ちたのは開催者の僕が責任取って食べまーす。もぐもぐ、うん!おいしい!瑞々しい!」



アンプ

「グギギ……早く次を流さんか!」



神戸

「はーあーい。


次はお刺身。わー見て、刺身が泳いでるー!」



サイコパスか。流れてきたのはマグロにサーモン、白身魚に光り物。おぉ、これは良い!魚は好きな部類だ!


だが、これはエドガーが見逃さない。



エドガー

「新鮮だ、実に美味だ!あぁ、海水魚など久しぶりだ……ここに来てからは江戸川の魚ばかりだったからな。美味い!」



乙葉

「あ、あぁ、あぁぁ。ツマしか流れてこなかったです……。しゃむしゃむ……お、おいしくなぁい。」



アンプ

「もうちょっと下層民に施せ!暴動が起きるぞ!」



エドガー

「生まれの不幸を呪うがいい。」



神戸

「仲良くしてくださーい。


じゃあそろそろ最後ですよー。変形!」



神戸がなにやら怪しいスイッチを押した。


すると、流しそうめんコースはがしゃんがしゃんと姿を変えて……!



神戸

「じゃじゃーん。その名も『いろは坂流し』!幾重にも及ぶヘアピンカーブがそうめんを襲う!」



アンプ

「はぁ、面倒なことを……!」



そうめんが流される。


しかし、一直線とはわけが違う!急なカーブはそうめんの軌道を大きく変え、エドガーが予測して箸を置いていた地点をすり抜けていく!



エドガー

「なっ……なんだとォーーーーッ!?」



乙葉

「来たっ、チャンス!初めての!」



だが、乙葉はチャンスを逃す。そうめんは水流に則り、自動的にいろは坂の最適解ルートをなぞる。乙葉にはその理解がなく、直線路を妙にS字に曲がっていくそうめんにあえなくデビルバットゴーストされていた。



乙葉

「あぁえ……!?」



アンプ

「チャンスを逃す男だな。」



乙葉

「だから言い方がいじわるですよぉ!


じゃあアンプさん取れるんですか!?」



アンプ

「ふっ、ナメるでない、乙葉少年。


私は趣味がなく、無論ゲームなど滅多にやらないのだが……唯一!RIDE4はそこそこやってきてるのだ!」



バイクレースゲームである。二輪車を扱うゲームが故に、加減速やコーナーリングのシビアさはカーレースゲームの比ではない。


その中で私は体得した!どの程度のカーブでどの程度の軌道を通る必要があるか、その最適速度はおおよそどの程度になるのか!


……ここだッ!!!



アンプ

「ツパァ!!!


取ったァ!!!」



ようやく!ようやくだ!


ついに私はそうめんを……手に入れたのだァ!!!


高く掲げたそうめん。朝の光を伴い、なんと瑞々しく輝いていることだろう!これは格別の味わいであるに違いない……ッ!



「ロッ。」



…………。



あれ?そうめん、無くなった。


無意識に頭上のカエルをわしづかむ。



…………。



アンプ

「き……貴様ァ!!!人のそうめんを横取りしおったなァ!!!ボケガエル!!!」



「ケ、ケェーーーーローーーー!!!」



乙葉

「高く掲げてらっしゃるから……。」



エドガー

「仕留めた獲物は即座に喰らうのは常識だ。他の連中に横取りされる前に。まだまだ、貴様は自然というものをナメているな。」



白川

「はっはっは。げろげろり。」



結果、白川とエドガーの圧勝。質素な欠片を乙葉が受け止め、私は何一つ成果が得られなかった。


盆休みの朝から何やってんだ、私は……。

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