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-14-「夏季休業だと……!?」

白川

「復活〜。寂しかったー?」



デモリ

「ヤモモモモ!!!ヤモモモモ!!!」



白川

「はっはっは、そうかいそうかい。」



乙葉

「で、デモリ〜、久しぶり。久しぶりだから、な、なでてもいいかなぁ……ッビ!!!いだぁ!!!やっぱりダメなの!!!」



こんな表情豊かなヤモリがいるものなのか。再三言うが、絶対ニホンヤモリじゃない。



また喧しい河川敷に戻ってしまう。誰をも拒む事なく包むこむのが河川敷の素晴らしいところではあるのだが、それが必ずしも私の好きな河川敷の姿かと問われれば別の話である。


特に、河川敷で花火をやったり、大声で宴会をしたり、デカいヤモリをバイク代わりに使うような輩とは相容れない。



アンプ

「はぁ。なんて喧騒。


ヤノハ、環境維持ロボならこういう手合いを処理してもいいのではないか!?」



土手を降りた先10mほどのところでゴミを拾うヤノハに叫ぶ。ヤノハは反応し、金属ランドセルから有線マイクを伸ばして喋り始めた。それ拡声器にもなるのか。



ヤノハ

「ヤノハは環境整美と河川敷の安全を維持するのであり、環境変化を抑止するロボットではありません。」



正しく使われているのであれば、河川敷の使われ方にまでは突っ込まない方針だそうだ。



アンプ

「ヤモリで爆走するのは安全義務違反じゃないか。」



ヤノハ

「ヤノハは法令に従うようプログラムされています。ヤモリ搭乗時の交通法規については法令がありませんので、ヤノハは対応ができません。」



んな法令あるか。


前例のない事案への自己決定はそもそもしないと決めているようであった。そこまでして機械っぽく振る舞いたいのだろうか。恐れ入る。



アンプ

「じゃあなぜピザ食べた。」



ヤノハ

「交通費分を現品徴収しました。」



なら普通に交通費出した方が安上がりだったわ。今日は財布が軽い。なのに気持ちは重い。残酷なるプラマイゼロである。



白川

「あ、そういや昨日の会議で話しそびれたっす。


あのロボ、すごぇー頭いいらしいっすよ。あの金属ランドセルとその中身の装備、全部自作なんだって。」



アンプ

「はぁ。ただの変人ではないのか。」



白川

「廃材置き場とかから拾ってきたものだけで作ってるんだって。素直に憧れたっす、私もそういうのやってみたい。」



あの白川が憧れるって。


それだけで見る目が変わる。やはり変人は変人を呼ぶのかもしれん。



そして、白川はすいーっとヤノハに接近した。ランドセルの中身を見たがり、ヤノハは少々読み込みに時間をかけながら、どれなら見せていいか精査しつつランドセルを漁っていた。



乙葉

「……アンプさん。」



こちらに残されたままの少年、乙葉。体育座りで、私の目を覗き込んでいる。



アンプ

「なんだね。」



乙葉

「え。えへ、え、ええーと、あ、暑いですねぇって。」



特に何も考えずに話しかけてみただけのようであった。実に子どもらしい。


大抵の場合、目的もなく話し始めをする者は退屈をしている。なので、こちらから話題を提供してやれば勝手に話を広げてくれる。あとはほどほどにリアクションしていればいい。


こういうのを面倒と思わないことだ。むしろ会話の種類の中では楽な方だ。相手に話させていれば機嫌は損ねない。



アンプ

「暑いな。なんか怖い話でもして体感温度を下げたまえ。」



乙葉

「こ、怖い話?


しょ、しょうがないですねぇ、じゃあとびきりの話を聞かせてあげますねっ。」



ほうら食いついた。鰹一本釣りといったところである。



乙葉

「こわあーい話……。


この河川敷には、幽霊が出るって噂です……夜の12時に土手へ降りてみると、びしょぬれの子どもが……。泡のような音を立てて……。」



それ、アノムだ。彼は昼には滅多に出てこない。一応、人目を憚っているのだろう。


小童どもが帰った後、さらに30分ほど土手で寝転がってくると高確率でエンカウントする。最近は週3ペースで遭遇していた。


本人は知的好奇心旺盛であり、出会う度に濡れた本を持ってきて、読み方や意味の解説をねだってきていた。習得速度はやや緩慢だが、覚えたことは忘れない。確実に力を付けている。



乙葉

「怖かったですか?」



アンプ

「星、5つ中の1つだな。ありきたりだ。貴様らに催眠放置された時でさえ幽霊には遭っていない。」



乙葉

「あ、あの折はごめんなさい……あ、あの、あの、僕は起こしてあげようって言ったんですよ!?でも、白川ちゃんが……。」



アンプ

「つまり、貴様は意思薄弱が故に、人を野晒しで放置する選択をしてしまうような人間なのだな。白川サードアームと名付けようかね。」



乙葉

「し、白川サードアーム……。」



そう言われて、落ち込んでるんだか喜んでるんだか微妙なリアクションをする乙葉。いや、なんでこの蔑称に喜びが混同するのだよ。



さてと。そろそろ帰るかな。最近はヤノハロボに白川のヘイトが向いていて逃げやすい。



乙葉

「あ、帰るんですか?もう?」



アンプ

「うむ。今晩は何を食べようかな。」



乙葉

「今日は……そうめんがいいと思います!ゆでてからの一手間、氷でキュッと冷やしたそうめんは格別ですよぉ。夏が走ってやってきます!」



唐突にメニューを提案してくる乙葉。おまけに、やたら腹の減りを促す文句まで付けてくる。


そうめん食べたくなってきた。キンキンに冷やしたヤツだ。今日は贅沢に揖保乃糸とかキメてしまうか?


薬味はどうする?生姜にネギ、ゴマや海苔もアリだ。ミョウガなんかあったら最高だ。つけ汁はどうする?王道のめんつゆか、塩味のキレを求めて醤油か、さっぱり締まるポン酢か。これらを調合するというのも手段である。



アンプ

「やられた。今日はそうめんだ。」



乙葉

「えへへぇ……宣伝、大成功ですっ。


じゃあまた明日です!また明日!僕たち夏休みだから、毎日会えますね!」



アンプ

「あぁ……あ?


ハァ。」



夏休み。


完全に忘れていた。小童どもとの遭遇率急上昇イベントがすでに始まっていたのだ。



私の、私の優雅なるひと時は……しばらくお預けであるようだった。トホホ……。

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