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-13-「忠家守。」

3日ぶりの河川敷。ここは変わりなく私を迎えてくれた。それだけでどれほど有難いものだろうか。


満足した面持ちで、土手の斜面に寝転がる。ここで見る景色はいつも夕暮れだ。冬になれば退勤時間的に夕陽さえ拝めなくなってくる。今を十分に楽しまねばな。



とはいえ、夜は夜で趣があるのだぞ。暗闇に都会の星のような瞬きが水面に照らされるもいとおかし。冬は冬で、寒い川辺で息を白くして嗜む暖かいコーヒーはたまらない。


あぁ、そうだ。夏場のラムネや冬場のホットコーヒーは、単なる飲み物ではない。自然と情景として浮かぶのだ、それを飲みながら季節を楽しんでいる自らの姿が。


季節に合った飲み物は、いつも私に季節を運んできてくれる。ラムネだ。ラムネを飲まねば夏が始まらないのだ!ビンのヤツ!



と、取り留めもないことを考えて、良い感じにまとまってきて、ヒミツのエッセイノートでも取り出そうかと思った時であった。


ピポポッと、近場で音がした。



ヤノハ

「対話モード起動。背筋を正しく。


バイタル正常ですね。デフラグ完了、おめでとうございます。」



アンプ

「……4200円返せ。」



ヤノハ

「依頼主からあなた宛てのメッセージを保管しています。こちらをどうぞ。


業務モード起動。K14エリアのゴミ回収を続行。」



ピーポポ言いながら逃げ去った。ロボット的にその態度はどうなんだと問い詰めてやりたいわ。



……それで、メッセージ?


封筒を開いてみると、中にはメモが一つ。なにかのアルファベットと数字の混合羅列が書き綴られていた。


その後に、『Zoom』とだけ記されている。オンライン会議に入ってこいと?



まぁ、構わん。風邪薬分の感謝と、住所特定分の叱責をせねばならんからな。虎穴に入ってやるわ。



スマホで該当の会議キーを入力して接続。


すると、そこにはベッドに横たわる白川の姿があった。冷えピタを張り、頬を赤く染めて、少々息を荒くしているのであった。



アンプ

「……移したかね、私は。」



白川は鼻で笑ってみせた。同時に咳を二つした。



白川

「移されたっすよねぇ。」



……くっ。こうされると、罰するつもりが萎えてくるではないか。


致し方ない。懲罰は犯人の回復を待って施行することにする。故に今は……。



アンプ

「風邪薬、感謝する。あれでだいぶ病状は良くなった。」



白川

「はっはっは……ま、私たちの仲じゃあないっすか。


それより……ヤノハロボはちゃんと機能してたっすか?」



アンプ

「ちゃんと……かは分からんが、まぁ貴様の依頼は達成していたよ。


ヤツは何なのだ、結局。話してみても、やはりロボの真似しているからかプライベートが見えてこないぞ。」



白川

「さぁ、ね……けほっ、んっん。


私も、あの短い会話だけじゃ、依頼機能を解放するのが精々でしたっす……ロボじゃない時のヤノハまでは分かんなかったっす。あ、でも、げっほ!」



大きく咽せた後に、画面の向こうで扉が開く音がした。


そこには乙葉が映っていた。湯気の立つおわんと水の入ったコップをトレーに乗せて現れたのだ。



乙葉

「ご飯できたよー……あっ。あ、アンプさんだ!電話してたの!?」



白川

「ん、ども、水ちょうだい水。」



白川が水を飲んでいる間に乙葉が画面いっぱいに近づく。ニコニコしちゃって、此奴には風邪が移っていないようだ。



アンプ

「貴様、風邪移ってないのか。」



乙葉

「はいっ。きっと僕、風邪に強いんです!身体を鍛えてたからですねっ!」



白川

「毎日縄跳び50回だけでしょ。」



乙葉

「う、ち、違うもん!それだけじゃないもん!あ、朝のラジオ体操とかぁっ……。」



改めて、乙葉にも感謝をする。乙葉は素直に照れていた。えへへぇ、って感じだ。なんとなくイメージが沸くだろう。


さて、とりあえず感謝もしたし、それ以上の用はない。常々言っているが、私はどちらかというと孤独を愛している。雑談は疲れるが故、だらだらと会議を続けるつもりはない。彼らも風邪と看病で疲労しているだろうし、手切れは容易であろう。



アンプ

「じゃ、そういうことで。」



白川

「お、ちょい待つっす。


デモリは?そこにデモリいないんすか?」



アンプ

「見当たらんが。」



白川

「んん……。


デモリ、3日も会ってないっす。心配してるかな。」



アンプ

「さぁな。藪知らずで虫でも食べてのんびり待ってるのではないか。」



白川

「あの図体で虫だけで済むんすか?」



……冷や汗が一気に湧いて出た。


そ、そうだ。あのUMA、普段何食べて生きてるのだ。


あそこが禁足地なのってまさか……。



白川

「……なにビビってんすか。大丈夫、デモリはヒトなんか食べちゃいないっすよ。


きっと。たぶん。おそらく。」



アンプ

「そこは断言してくれ……。


……まぁなに、貴様と会う前から生き延びていたのだ。心配せずとも生きてはおろう。」



白川

「ならいいんすけどねぇ。


あ、もしかしたら声出せば気づくかな。デーモーリー!!!こーこーっすよー!!!げほげほ!!!」



乙葉

「あ、あわわ、ほら水だよ水っ。」



デモリは白川を飼い主として認め、相応に愛情を見せている。それはやはり、白川自身もデモリを寵愛しているからなのだろうな。


とはいえ、いないものはいない。早く元気になって姿を見せてやッ。



ズドォンム。


メキョッ。メキメキッ……ミシッ……!!!



突如、私の右半身全体を襲った壊滅的な衝撃。車に撥ねられたのかと思った。


私の身体は歪み、軋み……ひとしきり圧縮されたところで、バンッ!とバネのように弾けた。


そのまま左へ吹き飛ばされ、土手の斜面を10mは転がったと思われる。



薄れゆく視界の中で、デカいヤモリがヤモヤモ言いながらスマホに頬擦りしているのが見えた。その巨大な目からは涙が流れ、さぞかし喜んでいるのだろうと分かる。貴様、本当に爬虫類か。



あぁ、神よ。神がいるのなら。


どうか、夜更け前には目が覚めますように。


また掃除ロボとカルトヤギに襲われないように……ガクッ。

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