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-10-「古生代の守護の下に在りて。」

前回は白川の奇妙な催眠術により、すっかり眠り込んでしまった。


それはまだいい。私が受けて立ったのだ、負けた私が悪い。



だがな。せめて、起こして帰れよ。



目覚めたのは深夜の1時。そう、あの小童ども、私を眠らせたまま帰りおったのだ!いや……起こせよ!!!


幸運なことに、私の荷物は何一つ失われていない。常時携帯しているショルダーバッグには、財布やスマホ、ヒミツのエッセイノートも変わらず入っていてくれた。


よ、よかった。特にエッセイが失われていなかったことに胸を撫で下ろしている。自分で書いておいてなんだが、コレが世に出回れば、いつしか災禍を招く呪物と成り果てることだろう。相応の犠牲の果てに伊勢神宮あたりに封印されてしまうこと請け合いだ。



ホッとした、それと同時に憤怒が込み上げる。あの小娘、次に怪我した折には、私の地元にある処置が手荒いことで有名な外科医のところに連れて行く。ここに固く誓おう。



ひとしきり怒ったところで、冷静になる。帰ろう。腹が減った。



「ゆゆゆ。」



……なんか、聞き慣れた鳴き声だ。舌を丸めて鳴らしているのか、なんというか泡っぽいような、不思議な鳴き声。



アンプ

「アノム……アノムか?」



水面にいきなり飛沫の柱が立つ。


そして地上に現れたのは、不思議生命体……アノムであった。



アノム

「アノム!キミのくれた名前!」



アンプ

「夜分遅くに……ずっと見張っててくれたのかね。」



アノム

「ゆんゆん!」



何度も頷いて照れていた。ありがたい限りである。おかげで五体満足だ。



アンプ

「ちなみに、不審者はいなかったか?私を襲おうとしていた者は。」



アノム

「いたよ。戦った!ボクは!勇敢にも!」



アンプ

「な、なにぃ。どんなヤツだ!?」



アノムは指を二本立てた。ひ、一人ならず二人もだとッ……。



アノム

「一人は、ウィーン、ガシャン、ビィーーーーム!!!って感じだった。」



そ……ソイツは、奇遇にも、眠る前に見かけた気がするぞ。



アノム

「背中にあるハコ?みたいなのからね、危ないのたくさんだったね。


『粗大ゴミ発見』って言ってたの。ゴミじゃないのに!」



アンプ

「本当だよ!し、退けてくれたのか!?貴様に怪我はないのかね!」



アノム

「ケガ?し、心配してくれてるの!?ゆゆ……ゆゆゆ!


大丈夫!お水かけたら倒せた!」



ショートしたのか……なるほど、相性一致の効果抜群だったのかね。



ちなみに、諸君。一応、断っておくぞ。


私が見たその掃除ロボらしき存在。普通に人間だったからな。ロボの真似してる女子高生。



アノム

「二人めが、むむ、強敵だった……勝ったのかも、わかんない。」



アンプ

「ど、どいつだ……筋肉ムキムキのゲリラ兵みたいなヤツか?それとも糸目の怪しいスーツ男か!?」



アノム

「ううん、ヤギ。」



そっちかよ。絶対無いと思って選択肢にも入れてなかったわ。



アノム

「あのヤギさん、強い……怖かった!


怖いなぁって思いながらね、キミのそばで守ってたんだよ!そしたらね、メェーって鳴いてどっか行った。」



聞いてる感じだと拳を交えた描写は無いようだが……なんか覇気を纏ったヤギだったのだろうか。


どうともヤギは悪魔崇拝のシンボルとして使われがちである。その理由は諸説あるらしく、例えば当時のキリスト教が、ヤギを神として崇めていた他宗教を邪教として扱ったためにヤギが悪魔に結びついたという説や、古来よりヤギを生贄として使ってきた系譜からという説などがあるようだ。


しかし、震えながら語る彼の姿を見ていると……何の捻りもなく、悪魔みたいなヤギが実在したからなんじゃないかとも思ってしまう。


あのヤギは本当に何者だったんだ?なんで河川敷に……。



アノム

「というのが、ボクの努力の話。褒めてね!」



アンプ

「あぁ、感謝する。その身を挺してくれたこと、決して忘れないぞ。


とはいえ……忠告だ。人と関わるのは貴様の好きだが、私に関わっても得なことなどない。」



アノム

「ううん。ボク、キミがいい。」



ニコッと微笑んで即答した。


それはなぜかと問う前に、彼は私に迫ってこう言うのだった。



アノム

「ボクね、思い出せないの。なにか『大切なこと』を忘れてる気がするの。


でもね、キミがきっと思い出させてくれる!キミはボクのことを大切にしてくれるから!」



アンプ

「あ、あー……よく、分からない。私が貴様の記憶をどう呼び起こすと?」



アノム

「わかーんなーい。


でもね、キミがボクのこと心配してくれるとね、カラダがきゅうってなって、ポカポカしてくるの!もしかしたら、大切なことってコレかもーって思ったのー!」



……なんたって、本人が具体的になにを探し求めているのか曖昧なのだから、私が理解しえるわけはない。


だが、私が彼を気にかけたことで生じた……『心の温もり』こそが最も欲しているものなのではないかと推定しているようであった。



アノマロカリスの心、か。


かつての古生代にも、心とかあったのだろうか。



まぁ、知らん。


気になりすぎないことだ。私は人の面倒見るほど暇も余裕もない。



だが……。


私に迷惑かからない程度であれば、構わん。別に非情を気取りたいわけではないからな。

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