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-1-「誰がバージェス動物群だ。」

人は私を『カンブリア・モンスター』と呼称した。


諸説あるが、理由はこうだ。



奇妙すぎる、と。


声も、顔も、不器用なとこも、全部、全部、キモいじゃないの、と。


やかましいわ。いくらなんでも、巷で奇妙奇天烈動物とも揶揄されるバージェス動物群たちと比較するのは、あまりに酷が過ぎるであろう。



物心ついた時分から斯くの如き有様であったため、私は早い段階で人生を悲観していた。


失意の中で彷徨い歩いていた私であったが、ある時、思いがけず一抹の光明に触れた。それは学校の図書室に置かれていた、かの漫画家チャールズ氏の名著『ピーナッツ』であった。


その中で、喋るイヌがこう述べた。『配られたカードで勝負するしかないのだ』と。



そうだ、その通りではないか。


周りに何と思われようと、私が何を考えようと、事実は変わらない。私は現代世間の定義によるイケメンには当てはまっていないのだ。


とはいえ、それを悲観してることで、私に何か素晴らしい出来事が訪れようか?



否。


幸多きは笑み多きであろう。


私はそれから、自分の不遇のすべてを受け入れ、一転攻勢の変態おじさんとして生を受けたのだった。


もう悲観はしない。私という存在を心ゆくまで味わえるのは、他でもない私だけなのだから。



さぁ、とくと見よ。この際者を極めし容姿を。Yシャツとスラックス、サスペンダーにジャケット。一世風靡セピアを彷彿とさせる。


特に注目は特注の一枚レンズメガネだ。おや、ダフトパンクかな?古風な服装であるからこそ近未来感が息衝くのだ。まぁ、そのメガネの下には古風どころか古生代風のフェイスが鎮座しているのだが。


そして言葉の操り、これはこだわるべき点である。面はそう変えられずとも、言動によって醸し出されるものは変えられよう。この私に対しても門戸を広くして受け入れてくれたのは、古き良きスタイルの文豪口調であった。



無論、そんな突飛な生命体を受け入れる世間ではない。素の状態でさえ拒まれがちだというのに、さらにこの多様性をとくと詰め込んだカンブリア・カスタマイズ。


私には、恋人は愚か、仲間もできた試しがなかった。



それでいい。


寂しさはごく僅かにあるが、支障の出る程度ではない。老後が心配であるな、くらいの曖昧なイメージしかない。


それよりも、私らしく私の道を歩いている、その誇らしさが胸中の大半を占めているのだ。





……だが。


そんな私に、奇妙にも好き好んで絡んでくる者どもがいた。



「ねぇねぇ『アンプ』、面白い顔して。あはは、もう面白いっす。」



「や、やめようよぉ……かわいそうだよぉ……。」



その者たちは、男女一名ずつの小童。小学生高学年といったところか。


いつからだったか、私が平日夕方や土日に河川敷の土手に腰かけて、ブラックコーヒーなど嗜んでいると決まって現れるようになった。



アンプ

「小童どもよ。私をその不名誉な蔑称で呼ぶな。」



「え、語源分かったんすか?」



この、体育会系のような語尾をしている割に、やたら眠たそうな目をしている理系女子。端正な見てくれに騙されることなかれ、この者は私を弄ることに愉悦を覚えている犯罪者予備軍である。



アンプ

「調査によると、アンプとは推定するにカンブリア紀の古生物アンプレクトベルアを略したものであろう。貴様、我を古生物と愚弄するか。」



「はっはっは。わざわざ調べたの?律儀っすねぇ。


私はアノマロカリスより好きっすけどねぇ、アンプレクトベルア。もうちっと洗練されてるってか、前者がザクIなら後者がザクIIってか。」



ああ言えばこう言う、そういう女であり、小童相手とて怒りが込み上げることもある。さらに申せば喩えもよく分からん。


対して、今にもパリンと割れてしまいそうな華奢な男子。



「ご、ごめんなさい、アンプさ……あ、えっ、と、おじさん?」



アンプ

「おじさんだと。お兄さんと訂正したまえ。」



「30にもなってお兄さんはキツくないっすか?」



「い、言っちゃダメだよ……。お、お兄さん、ねっ?」



人の顔を窺う姿が余計に儚さを醸す。これだけ見てくれについて主張しておいて言うのも何だが、私とは対極をなすほどの絶世の美少年である。



「いいっすよ、アンプで。それでも頑なに本名言わないのが悪いんすから。


それよりアンプ、見て見て。さっき道端で四葉見つけちゃったっす。欲しい?幸薄いでしょ、分けたげる。」



アンプ

「余計なお世話だ……!」



「わわ、ひ、酷いこと言っちゃダメだよ!


幸せたっぷりですもんね?お兄さんも……えへへ。」



アンプ

「そ、それはそれで少々考え込んでしまうが。」



これはそんな、私と小童二人の、たわいもない小噺群である。


早く彼らに飽きが来て、ここを去りて、この小噺もさっさと終わることを願う。切に願う。

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