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メスケモJKと○○

メスケモJKと部活

作者: 槌場野ビサ

 ここは県立毛毛(けもう)高等学校、通称ケモ校。多種族共学のこの学校で、今日も多様な生徒達が十人十色の日々を過ごしている。

 そんな愉快な生徒達の日常を、ほんの少し見てみよう──



 ***



「いたいた。おーい、マイー!」


 校庭の片隅、陸上部の集団の中。一人の女子生徒が休憩を取っていた。黒いたてがみに栗色の被毛を持つ馬の女子高生だ。名前は方須(ほうす)マイ。今は部活中のため、制服ではなく陸上競技用のユニフォームを着ている。

 そんな彼女のもとに、二人の友人がやってきた。一方は白い被毛に水色の目の猫、加藤ミヤコ。もう一方は緑に黒い模様の鱗を持つトカゲ、月影ミドリだ。


「どうしたの、二人とも。何か用?」

「うん。今ね、部活巡り中なんだよ」


 どうやらミヤコの暇つぶしにミドリが付き合わされているらしい。感情の出にくい爬虫類らしくその表情は窺えないが、ちらりと視線を向けると肩をすくめて「付き合わされてまーす」とつぶやいた。……まんざらでもなさそうだ。


「私、帰宅部だからね! 連日暇をもてあましてんのさ!」


 えっへん、と胸を張るミヤコに対して、ミドリがすかさず「いや、自慢できるようなことじゃないから」と突っ込みを入れ、マイが黙って頷いた。


「えへへ、実際帰宅部は気楽でいいよ~? なんてったって自由時間がたーっぷり! 好きなことが好きなだけできる! だらけ放題! 人間関係のしがらみもないしね!」


 猫らしく怠惰を好んでいるらしい。そのまま帰宅部であることのメリットを滔々と語り出したミヤコに、残る二人はまたか、とうんざりとした視線を向けた。この気ままな白猫が暴走するのはいつものことだ。慣れはしたが、正直な所面倒であることに変わりはない。


「はいはいあんたの帰宅部語りはいいから、部活巡りとやらの話を聞かせてよ」

「おっと、そういえばそうだった」


 折りを見てマイが切り出すと、そこでミヤコはようやく本題を思い出したようだ。


「まずね、ミドリのいるとこに遊びに行ったんだよ」

「ふーん。そういえば何部だっけ?」

「軽音」


 そう言ってミドリは背負った楽器ケースを尻尾でぺちぺちと示す。中身はベースギターだ。彼女は先の割れた細長い舌をちろちろと出して「木登り部があればそこにしたんだけどねー」と冗談めかして言うが、それが本気かどうか二人には判別がつかなかった。


「それはそれとしてさ、もうね、すごかったんだよ!」



 ***



 第二音楽室にて、軽音楽部は活動していた。


『アタシら『シャウトサイダーズ』の音が聴きたいってェ? ハッ! なかなか見所のあるガキじゃねェか!』


 ジャラジャラとピアスをつけたトサカを揺らし、派手な改造制服を身にまとったニワトリの少女が叫ぶ! その容姿は校則違反の塊だ!

 その後ろで背中合わせのジャガーと猿のギターが唸り、小柄なチンチラのドラムが轟く! トカゲのミドリも負けじとベースをかき鳴らし、這うような低音を響かせる!


『いいぜいいぜェ、お望み通り聴かせてやるよォ! アタシらの! オンガクって! ヤツをよォ!』


そして彼女達の強烈な演奏が始まった!


『行くぜェ、まずは一曲目ェ──DEATHROAD HELLLORD!』



 ***



「もうギターがギャリギャリでベースがバッキバキでドラムもダカダカでみーんな激しくって、特にニワトリ先輩がボーカルというより叫びでヤバいの! 耳が死ぬかと思った!」

「丹羽先輩ねー。確かにあのシャウトは凄いわ。伊達にニワトリやってないよね」


 鮮やかなリップの塗られたくちばし(これも校則違反)から放たれるハイトーンボイスを思い出しながら、三角の両耳を押さえ瞳孔を丸く開かせたミヤコが興奮して語り、ミドリが落ち着いた様子でうんうんと頷く。


「ふーん……? それってジャンルは何なのよ」

「えっとねー、こうギュインギュインーって感じのやつ! なんだっけー、あー……」

「へヴィメタルね」

「そうそれ」


 軽音楽部なのに重音とはこれいかに、とマイは思ったが口にはしなかった。頭頂の両耳がピクピクと動く。


「中々にエキセントリックみたいね、ミドリんとこの部活」

「そう? 至って正統派だよ」


 スポーツドリンクを呷りながら言うマイに、なんてことないようにミドリは答える。


「普通じゃない」

「やばいよ!」

「えー、そーお? そんなブッ飛んでるジャンルでもないと思うけど……」


 そう二人に返されてもあまり自覚がないようだ。小首をかしげてつぶらな瞳を瞬かせている。軽音楽部のメインジャンルはオーソドックスなへヴィメタルだが、そんなことは二人が知るよしも無い。


「あ! エキセントリックと言えばさー」


 そこでミヤコはふと思い出したように話を切り出した。興奮からか全身の毛をぶわわと逆立たせる。


「料理部もだいぶヤバかったよね!」


 そして料理部での出来事を語り始めた。



 ***



 それは家庭科室でのこと。


『オーッホッホッホ! 御覧あそばせ非肉食の有象無象の皆様! これが料理というものですわ!』


 高笑いと共に料理を披露するのは料理部肉食動物代表、ライオンの女子だ。たてがみのつもりなのか、豪奢な縦ロールのかつらを着けている。

 差し出したるはひき肉のみのシンプルハンバーグ。フォークで切り分ければジュワジュワと音を立てて肉汁が染みだした。見た目も匂いも美味しそうだ。


『ハ! 家畜肉をこねくり回しただけの物体をもって料理を名乗るとは流石野蛮な肉食動物ですわね! 真の料理とは草食料理のことを言うのですわ!』


 肉食を嘲笑しながら料理を披露するのは料理部草食代表、ウシの女子だ。豊満で特徴的な形の胸をばいーん、と見せつけている。

 差し出したるはバーニャカウダ。草食仕様なのでソースはアンチョビ抜きだ。色とりどりの野菜が食欲をそそる。


『あらまぁ、貧乏性の草食動物が草だけ並べ立てて何事かほざいてますわ~。あらゆる食材を使用してこそ料理ですのよ? そう、つまり雑食料理こそが至高なのですわ!』


 草食を謗りながら料理を披露したのは料理部雑食代表、ツキノワグマの女子だ。大きくはだけた胸元からは、白い三日月模様が覗いている。

 差し出したるはとろとろ半熟オムライス。イヌ科ネコ科等に配慮して玉ねぎ抜きである。多彩な具材とケチャップライスを半熟卵で包み込んだそれはさぞ美味しかろう。


『フン! 虫を入れずして何が至高ですの、馬鹿馬鹿しい! 雑食が聞いて呆れますわ! 全ての食物の頂点に立つのは虫! 御覧なさい、わたくし達の料理を!』


 そして雑食をディスりながら料理を披露したのは料理部虫食代表、モグラの女子だ。視力がほとんどない種族なのに、なぜか大きな眼鏡をかけている。

 差し出したるは三種の虫の佃煮。栄養価の高い家畜虫を煮付けてあり、中々味わい深そうだ。


 その後も様々な食性の動物たちがこぞって他の食性を貶めては自らの食性料理を自慢する中、上履きと靴下を脱いだミヤコはこっそり忍び込んで誰にも気付かれずに味見をしていた。



 ***



「──とまぁこんな感じで、食性ごとに派閥ができて争いを繰り広げていたんだよ」

「しかも何故か皆お嬢様キャラだったよね。ワケわからん」

「ふぅん……まーた濃い面々だこと」


 料理部のインパクトを話してみせた二人に、マイは静かに同意した。


「うちの高校ってどんな動物も受け入れてるから、大概どこも個性豊かになりがちだけど……あの料理部は一段と濃かったわ」


 そうしてまた舌をちろりと出しながら、ミドリは言った。哺乳類から爬虫類に鳥類、果ては魚類に昆虫類まで受け入れてしまうケモ校は、それはもうバラエティーに富んだ生徒でいっぱいなのである。

 そこでマイはふと気付いた。この学校、結構アレな食性の生徒もいなかったか。不安になる。食い意地の張ったこの猫は、やばいもんでも口にしたんじゃないのか。


「ねえミヤコあんた、まさか全部味見して回ったの?」

「いんや、流石に腐肉食や土食とかその他は食べてないよ。お腹壊しちゃうからね」


 けろりと返したミヤコにマイは内心ほっとした。こんなのでも友達なのだ、何かあっては悲しくなる。


「ミドリ、これが好き勝手してる間何してたの? 止めなよ……」

「これとか言うな!」

「ん、扉の陰から見てた。いつでも逃げられるように」

「ひどい!」


 そうしてひとしきりきゃいきゃいと騒いだ後、尻尾を揺らしながらマイが切り出した。


「で? 他には? これだけじゃないんでしょ、見てきた部活」

「あー、そだね。色々見て回ったけど……次はどこにしようか?」

「茶道部なんかいいんじゃない? 料理部とは正反対だったし」



 ***



 茶道部の部室は、畳敷きの和室だった。


 種族の違いはあれど部員は皆一様に穏やかで静かだ。今は部長の鶴が抹茶を点てており、静寂に茶筅の音だけが響く。

 急な来客であるミヤコとミドリを、茶道部はあっさりと受け入れた。これがおもてなしの心というものであろうか。


 やがてミヤコは身じろぎし始めた。静かに正座し続けるのが辛くなったのだ。両足をもぞもぞとさせるうちに尻尾のやり場にも困り、パタパタと振り回し出す。ミドリがそれを注意しようと口を開きかけた時。


「お静かに」


 こちらを見ず、翼も止めずに鶴の女生徒は呟いた。その穏やかさが逆に怖くてミヤコはハイ、と姿勢を正した。


 しかしその後もやはり耐えられなかったのか、同じやりとりを五回は繰り返した。



 ***



「駄目じゃん」


 開口一番、マイはそう言った。

 マイペースなミドリはともかく、元気が有り余っているミヤコには茶道部のようなかっちりした部活は向いている筈もない。てへ、と舌を出すミヤコに二人は呆れた。


「いやー、お抹茶だけじゃなくてお茶菓子までご馳走になっちゃったー」


 全食性向けだって、すごいよねー、とミヤコはお腹を擦る。マイが自分の分は無いのか、と言おうとした時、ミドリがお土産、と言って包み紙を差し出した。受け取り蹄で開けると、中身は件の茶菓子だった。何故かドヤ顔をするミヤコをよそにミドリへ礼を言い、マイは茶菓子を口に含んだ。


「……結構いけるね」

「でしょー? また遊びに行きたいなぁ茶道部」


 茶菓子の感想を言うマイに、ミヤコがペロリと口を舐める。落ち着かない茶室体験をもう一度してもいいほど茶菓子が気に入ったのであろうか。


「入部すれば?」

「それは嫌。私って自由を愛する猫だから」

「あんたのそれはただのワガママでしょうが」


 マイのもっともな疑問に、ミヤコは胸を張って答える。その物言いにミドリが呆れて突っ込んだ。


 その他にも羊やアルパカが自分の毛で編み物をしている手芸部の話や、空中競技部(略して空中部)で大部分の鳥類他飛行可能な種族が空を舞うのを見た話などをしていた。

 そこでふいに、マイは自分の体に重みを感じた。思わず前につんのめる。


「重っ!」

「マーイちゃん! なーに話してーんの?」


 重みの正体は、乱入してきた犬の女生徒だった。大柄なアラスカンマラミュートの少女は尻尾を振りながらマイの体に抱きついている。着ているユニフォームからして彼女も陸上部員なのだろう、突然のことにぽかんとしている二人を見て、嬉しそうに声をあげた。


「あ、もしかしてマイちゃんのお友達? 初めまして! あたしは歩地(ほぢ)モモカだよー。陸部ではね、中距離やってるの!」


 まくしたてるように自己紹介されて、二人は顔を見合わせてから名乗り返す。


「か、加藤ミヤコっスー。よ、よろしくー」

「月影ミドリ。まぁよろしく……」

「えへへぇ、よろしく! ねぇねぇさっきから何話してたの? あたしも混ぜてよー」


 犬らしい人懐っこさでぐいぐい来るモモカに、さしもの二人もタジタジになる。一方のマイは慣れているのか、耳を不機嫌そうに後ろに伏せつつ、ため息をひとつ吐いて軽く説明した。


「耳いいんだから聞こえてたでしょ。部活巡りしてたんだって」

「へぇー部活巡り! おもしろそー!」


 そう言うとモモカはまた尻尾を大きく振って、全身で興味あります、と示した。


「じゃあじゃあ、陸部のことはもう聞いた? 聞いてない? あたしがみんなを紹介したげるね!」


 三人が答えに困っている間に、モモカは一人自己完結すると勝手に語り始めた。軽く引いたミヤコとミドリに対し、こういう子なの、とマイは小声で言った。


「えっとねー、女子の部長はあそこにいる跳田(ちょうだ)先輩! とっても頼りになるんだよー。長距離の代表でもあるんだー」


 モモカが示した先には、ダチョウの女子生徒がいた。おそらく顧問であろうシマウマの教師と何やら話し込んでいるようだ。


「で、あっちの知多先輩が副部長! 短距離なんだけど、めちゃくちゃすごい速いんだよ! あと声もかわいい」


 そう言って指差した方を見れば、チーターの女子生徒の姿があった。柔軟をした後、軽く走り回る。短距離走に定評のあるチーターだけあって、確かに素早い。


「それから向こうのナガミちゃんとは同じクラスなんだー。競技はねぇ、走り幅跳び! すっごい跳ぶんだよー」


 言われた方に顔を向ければ、ウサギの女子生徒と目が合った。彼女は水分補給を終えると、こちらに向かって手を振ってくれた。


 それからー、とモモカが次の部員を紹介しようとした時、遠くでダチョウの部長が集合をかける声が聞こえた。


「あ、休憩時間終わっちゃった。じゃあバイバイ!」


 マイちゃんは後でねー、とドタドタと走り去っていくモモカを見送り、三人はしばらくその場につっ立っていた。


「料理部並だったね、さっきの子」


 モモカが去った方向を見ながら、ミドリがぽつりと呟いた。残りの二人は黙って頷いた。


「てか、マイ行かなくていいの? 集合なんでしょ?」

「……そうだった!」


 ミヤコの問いかけに、マイはハッとした。慌てて水筒をしまい、集合場所へ駆け出す。背後で二人の行ってらっしゃ~い、とハモる声が聞こえた。どうやらまだ部活見学をしていくつもりのようだ。振り向かずに手を振って応え、部員達の集まる場所へと走る。


 部長からの伝達事項を聞いた後、それぞれ個人練習へと向かう。マイも自らの競技の練習をすることにした。ハードルの並ぶトラックのスタート地点で、クラウチングスタートの姿勢をとる。


 マイが陸上部を選んだのは、走るのが好きだったからだ。馬としての本能だろうか、走れるようになってからはずっと走ることを楽しんでいた。成長するにつれて趣味や好みは増えていったが、走ることが好きなのは昔から変わらない。本格的に陸上の道を歩むほどではないものの、自分が楽しめる範囲で走りたいとマイは思っている。


 ピストルの音と同時に走り出す。友達が見ている前で無様な所は見せられないな、と思いながら最初のハードルを跳ぶ。しかし足が当たり、悲しいかなハードルは盛大に倒れた。

既存の動物ではない家畜生物の畜産が発展しているため、異なる食性の動物達が共存できている、という設定です。

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