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「うぅ……痛い……」
「酷い火傷だ……誰か! 誰か来てください!」
「リヴェン様! 一体何ご……っ! なんですかこの傷は……っ」
俺の叫びを聞いて18番が真っ先に行動し、伝令兵の状況を見て絶句する。
駆け込んだ伝令兵は左足が無く、全身が酷い火傷で覆われて所々に深い切り傷があったため、伝令兵に【感覚支配】をかけて痛覚と熱感覚を遮断させる。
「痛い……あ、あれ? 痛く……ない?」
「痛みは抑えておきましたが酷い状態なのは変わりありません。すぐに治療を受けてください」
「ダメです! なぜか痛みがない今、助けに行かなければ! もう時間もないのです! 治療を受ける暇なんかありません!」
このままじゃ埓があかない……!
「じゃあその砦奪還に俺が向かいますから早く治療に行ってください!!」
「……リヴェン様、北の砦がどういう場所かご存知なのですか?」
小声で耳打ちする18番。
「……知りません。でもこう言わなきゃこの人はこの場を離れないでしょ」
「……」
納得したようで黙る18番。
「……わかりました、要件を話すのでその後治療を受けます」
納得したようで治療を受けてくれる事を決めた伝令兵。
「治療を受けてくれるならなんだって構いません」
伝令兵の言ったことはこうだ。
魔物防衛線の要である守りの砦が四方に散らばっているのだという。俺の住んでいたコルト村は魔物と言ってもデビルボアとかダイアウルフくらいだから砦なんて大層なものは必要無かったんだがな、本当に平和だったのだろう。
その砦のひとつである北の砦がドレイクに占領されているのだという。ドレイクというのはドラゴンの幼体のことを指す。幼体と言っても体長は幅広く、非常に小型な個体も居れば、民家2つ分と非常に巨大な個体も居るのだという。ドレイクとドラゴンの違いは魔法を使うか使わないかの一点のみ。
本来ならドレイクのような上位種は現れないのだが突然のドレイクに対応できず砦は半壊、現在は砦にドレイクが住み着いているのだという。
「しかも砦の中にはまだ仲間が……ックソ!」
「落ち着いてください、傷が開きます。18番さん後頼みました」
「お任せ下さい」
「本当に、本当にありがとうございます……っ!」
手を掴んで涙を流し感謝される。
とは言ったものの、正直勝てるビジョンが全く浮かばない。
コルト村に伝わるドラゴンの伝承がある。
《岩より硬き鱗、空を焦がす火炎、蠢く尻尾は大蛇の如し、言の葉を紡げば嵐が巻き起こる。まさに死災、出会ってしまえば死あるのみ》
これを聞く限り普通の人が勝てるような生物じゃない。とりあえず、現在使える能力を整理しよう。
【感覚支配】、【超高速】、【巻き戻し】(貸出中)。明らかに戦力不足だ。
あ、そうだ。
────
「すまないが無理だ」
「え」
せめて助っ人でもいればと思い、ギルマス室に行きクロエに参加してもらえれば勝てると思ったが無理だと言われた。
「実は南の砦でも魔物の異常現象が起こっててな。俺はその対応に行かなきゃならねぇんだ。それとワンは連れていくから【巻き戻し】は使うな」
能力がさらに減った。というより……
「南でも魔物が? なぁ、そもそもなんでこの国に魔物が来るんだ? 美味しい肉でも転がってるのか?」
そう言うとクロエが怪訝な表情を向ける。
「それ本気で言ってるのか?」
「え? なんだよ冗談通じない人?」
「違う、なぜこの国に魔物が寄ってくるのかと聞いたが……」
「あぁ、本当に知らない」
「まじかよ……」
額に手を当て呆れられる。失礼だな。
「いいか、魔物と言うのは魔力を浴びた動物の事だってのは理解してるか?」
「馬鹿にするな、それくらいわかる」
例えばドラゴンで言ったら遠い大昔に魔力を浴びたトカゲが変異してドラゴンになり繁殖して現在に至るという。
村長の長くつまらない話を寝ずに聞いてたかいがあった。
「そう、そして魔力を浴びた魔物達は不幸にも自身に魔力源が備わらず進化してしまった。魔力の味を知った魔物は魔力を求め他の魔物同士で喰い合うこともあるが、何より魔力源を備えている我々人間がご馳走に見えて仕方ないんだ」
「じゃあ魔力源を食われてる俺らは狙われないってことか?」
「狙われにくいが正しい答えだな。魔力源がなくても肉には変わりない」
「なるほどな」
「用はないなら早く出てけ、乙女の着替えを覗く気か?」
「乙女って言うかゴリ……」
────
「【傲慢】使って殴ることないだろ。何とか避けたけど当たってたら死んでたぞ」
殴った所が粉々になってまたワンに巻き戻してもらってたけど、確かにあの能力があれば南は問題なそうだな。
「…………なにか忘れてるような気がする」
などと考えていると。
「……リヴェンさん」
「っ!」
背後から急に声をかけられる。
「私の置いていきましたね? 嫌いなんですか?」
声の主は今にも魂が抜けそうなほど疲弊したミシェラだった。
「違う、クロエがミシェラと話をするって言うから……どうだった?」
「どうだって、はい!? やっと部屋が空いたと思って開けたらリヴェンさんが居なくて、あれ〜どこだろ〜なんて思ってたらクロエさんが急に頭を下げたんですよ! 横の秘書からすっごい睨まれたんですからね! あの時の恐怖と言ったらもう……本当に怖かったんですからね!!」
涙目でその時の状況を説明するミシェラ。本人には悪いが小動物が怒るとこんな感じなんだろうなと思ってしまった。
「悪かったって、もうしない」
「もう……それと、クロエさんから話は聞きました。これからは秘書さんが私を保護するみたいです。それもこれも全部リヴェンさんのおかげです、ありがとうございます。と言っても今は秘書さんいないですけどね、どこにいるのでしょう」
おーい、と呼ぶが秘書は見当たらない。
「おぉい! 能無しちゃ……」
何かを言いかけたヤジが柱の陰へ消えた。どうやらしっかり仕事をしてるらしい。
「ん? 今何か聞こえた気が……」
「気のせいだ。……うん、この感じならもう大丈夫だな」
「はい。全てリヴェンさんのおかげです。本当にありがとうございました」
「いいって。俺は少し出かけるけどまた会えたら飯でも奢ってくれ」
「はい! もちろんです!」
別れを言ったあとは何事も無く王都の北門に辿り着く。
「さ、どうやって倒すかは現地に着いてから考えるか。北の砦、どういう場所なんだろうな」
胸を膨らませて門を開く。
──と、目の前には黒服の女の子が立っていた。
「お待ちしておりました。マスター」
「……はい?」
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