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 バキッと机が壊れた音がした。前を見ると戦闘態勢に入ったクロエ。横には手をかざして待機してるワン、少しでも動いたら巻き戻されるだろう。


「返答には気をつけろ。誰の依り代だ?」


 ……。


『言わない方がいい。やつは悪魔陣営だろうが、悪魔にも派閥があるからな。何されるか分からない』


 わかった。


 意識を現実に戻す。


「言わない」


 そう言った瞬間にクロエが椅子からとびだす。


 不味いっ! 


 すかさずガードするが()()()()()()ガードを解かれる。そう認識した時には既に遅かった。


 ────


「うわ! なんの音っスか!?」


 ギルドマスター室から大きな衝撃音が鳴り待機組は困惑する。


「部屋から何か破壊されたような音が……まさかな」


「いえ、リヴェンさんならやりかねないです」


「……どうかご無事で」


────


「──ッハァ! ハァ……ハァ……」


「返答には気をつけろと言ったはずだ」


 なんだ今のビジョン、まるで実際に起きたかのような……いや、実際に死んだのか! 殺されて巻き戻された……死亡状態も巻き戻せるのか。


「……便利な能力ですね」


「今度は巻き戻さない。吐け」


「吐くって何を? 生憎こっちは腹ペコで吐こうにも吐けないんでね」


「そうか、地獄で腹一杯食ってろ」


 あ、やべ──


 拳が振り上げられて死ぬと思い、目を閉じたその時だった。



『チッ、馬鹿が』



 体の自由を奪われた様な感じした。これが死なのかと思い目を開けてみたら俺は彼女の拳を止めていたのだ。


「なっ……」


「馬鹿な! クロエ様の拳を止めた……?」


 横にいたワンも驚いた様子。それもそのはず、俺の姿が先程とは違っていたのだ。

 黒かった髪は白く、肌は少し青白くなり、顔には額まで伸びたヒビが走っている。

 羽は生えていないが、その姿はまるで初めて強欲(イラディア)を行使した時の姿と似ていた。


「ちっ、代わったか……」


 拳に目一杯力を入れてるようだが1ミリも動かない。


「言わない方がいいとは言ったが言うなとは言ってないだろ馬鹿が」


『まさか殺されるなんて思ってなかったからな。というかなんだこれ、体動かないんだけど』


「今は俺様の体だ」


「何をさっきから喋ってる! ワン戻せ!」


「……できません」


「な、何故だ!」


 叫ぶクロエを横目で見る。


「横で叫ぶな耳が痛い。確かに貴様が言う通り同化だけじゃ貴様の能力の乗った拳は止められない。だったら3分前の能力を使ってない貴様に()()()()()()()()()


「っ、まさか!?」


「不覚っ……!」


 ワンの顔が歪む。


「1度奪ったんだからこうなることくらい予想してただろ? それとワンは動くな、動いたらこいつを殺して適当な平野に捨てる。元受刑者なんだってな? 主が死ぬと嬉しいだろう」


「くっ……!」


 先程と立場が全くの逆になった。


 これが悪魔の力……っ!


「クロエと言ったな、ルシファーを出せ」


 ルシファー?


 その名前を呼んだ途端クロエの雰囲気が変わった。


「お見通しかよ……ワン、下がれ」


「はっ……あの」


「ほら、()()よ」


 パッと両手をあげる。


「……失礼します」


 現れた時と同じように【巻き戻し】で部屋を出る。


「ちっ、今日働いてもらおうと思ったのによ。出てこいルシファー」


 クロエがそう言うと、より一層雰囲気が変わる。

 長く綺麗な金髪は白く、綺麗で健康的な肌は青白く、額にはヒビの代わりに立派なツノが2本生えてきた。

 おそらくクロエの悪魔、ルシファーというやつの姿なのだろう。


「……ふん、遅かったなマモン。なかなかお前のお眼鏡に適う奴はいなかったか」


「おいおい、謝罪も無しか? まさしく傲慢だな」


 傲慢、そのワードを言った瞬間ルシファーの表情が険しくなる。


「マモン貴様俺から奪ってみろ? 殺すぞ」


「どうやって? 今この場で動ける大罪は俺様とお前だけ、魔界だと他の大罪が止めるが今は違う、傲慢を失えばお前はただのゴミだろ」


 能力名を言う。それが簒奪の条件だからかわざと傲慢と言う。

 数秒間の睨み合いの後ルシファーが口を開く。


「チィ……わかった、すまなかったよ」


「クク、ルシファーの謝罪とはなんと気持ちのいいものか」


「今度はこちらの番だ。なぜ顕現が遅れた」


 顕現、恐らく依り代に取り憑く事だろう。


「お前が言った通り良い奴が居なかったが、見つかったんでな」


 トンと自分の心臓を叩く。


「そいつがか……強欲のお前が言うならきっとそうなんだろう、ところで今顕現してるのは俺とサタンとお前だけか?」


「お前が出た後にベルのやつも出たが、他は知らん、もう出てるのかも知れないな」


「ベルゼブブか、意外だな。というかあいつらは勝つ気があるのか……まぁいい、ならベルゼブブを探すのが先決だな、共に来い」


「待て、こいつの行動はこいつが決める」


「なっ!」


「リード、お前はどうしたい?」


 神を普通に殺し回った方が速くないか? よく知らないがそのベル……なんとかって人を探す方が時間がかかると思う。


「だとさ。ベルは1人で探してろ」


「貴様、これは神魔大戦(ラグナロク)なんだぞ……」


「知らないな、なら力ずくで従わせろよ傲慢の悪魔(ルシファー)


 能力を盗めば向こうはただの人。勝ち目のない試合を仕掛けてるようなものだ。


「……ちっ」


「分かったら戻れ。クロエに用がある」


 自由は効かないが俺の体だからわかる、今めっちゃ悪い顔してるな。


「……殺すなよ」


「もちろん」


 めっちゃ悪い顔でそんな言っても誰も信じないと思うけど。


「ふん」


 徐々に先程までの美しい金髪に戻っていく。


「──何の用だ」


「かかか、依り代も傲慢極まりないな。それで、お前は俺様を殺そうとした訳だが、お詫びは無しか?」


「お詫び……?」


「あぁ、同化まで使ったんだ、割に合わない。リードはなにがいいと思う」


『そうだな……仲間が欲しい、秘書とかどうだ』


「名案だな。秘書を1人寄越せ」


「なんだそれだけか、ならちょうどいいのが1人いる。ワン」


「ここに」


 ワン? まぁ悪くないな。


「こやつか?」


「もっといい奴がいる。ワン、43番を出せ」


「よろしいのですか? ()()は……」


「構わんこいつなら任せられる」


「かしこまりました」


 また姿を消す。その時チラと見えた顔はほほ笑みを浮かべていた。


「悪い、時間切れだ……あとはリードと話をつけろ。俺様はもう寝る……」


 徐々に外見が元に戻り、掃除に体の主導権も俺に戻った


「……なんだったんだ一体」


「なんだ同化は初めてか。あれは一時的に悪魔に体の主導権を握られるだけだ。そうだな、お詫びついでに教えてやるよ」


 俺はクロエに悪魔側と神側の詳しい事を聞いた。それが以下の項目。



 魔法は悪魔は使えない、神は使える。


 同化とは一時的に悪魔に体を明け渡すだけ。また同化を使ったその日、悪魔は一日中行動が出来ない。


「神側は魔法使えるのか……」


「まぁ魔力源に居座る必要も無いからな」


「炎を出す夢は諦めるか」


 また、俺はともかくクロエも含めて他の依り代達は律儀に契約者と戦っているのか? という質問には。


「結論から言うと戦わざるを得ない」


「どういうことだ?」


「俺達悪魔の依り代は契約者と出会うと強い怒りや不快感を覚える。またそれらを排除するには神の依り代を殺すしかないと本能が訴えてくるんだ。あの不快感が来たら何人たりとも逆らえないから俺たちは契約者を殺すしかないんだ」


「まさに呪いだな」


「だからお前が依り代だってわかった時も少なくとも神側では無い事が確定してたんだ」


 なぜ最初能力を偽ったのか。という質問には。


「自分の手の内を全て明かすなんてバカがやることだ、それに全部が嘘という訳では無い。名は【傲慢(プライディア)】と言う。能力は、身体能力の上昇というシンプルなものだが上昇に上限はないし、それに合わせて身体も適応されるから能力による自滅も無い」


「かなりぶっ飛んでるな」


「お前も人のこと言えねぇよ。他人の異能を奪い取るなんか聞いた事もねぇ」


「それもそうか」


「それと俺達は悪魔の中でも最高戦力『大罪の悪魔』の

依り代だから絶対に明かすんじゃねぇぞ。

 ……まぁ、その、大罪という責任に追い詰められていたとはいえ殺そうとしたことは申し訳ないと思っている、すまなかった」


「そっちにも理由があったのはわかったから許す。またここに来た時は美味しい紅茶でも出してくれればいい」


「ふっ、いいだろう。これからはどうするつもりだ?」


「適当に依頼受けて適当に金を稼いで各地を回ろうと思っている。一刻も早く神共を始末しなくちゃ行けないからな」


 それを聞くと少し不思議そうにするクロエ。


「気になったんだが、契約者に出会って不快感に襲われたから殺すならわかるが、なぜそこまでして神を殺したがる?」


 俺はコルト村が依り代に襲われて壊滅したこと、それをきっかけに依り代になったこと、これ以上俺みたいな被害者を出さないためにも神を(みなごろし)にすると決めたことをクロエに伝えた。


「そうか……お前も大変だったんだな」


「あぁ」


「実は俺も昔はスラムに住んでてよ、まさに無法地帯だったそこでは女は道具のように扱われてた。俺は少しでも奴らの好みにならないように言葉だけでもと思ってこんな口調にしたんだ」


 なんで俺聞いてもいない昔話されてるんだ? まぁどういう経緯で依り代になったのか気になるし聞いてやるか。


「それでついに俺がやられそうになった時だった。お前ごときが俺を思い通りにできると思うなよ、って舌を噛みちぎってやろうと思ったらルシファーがやってきて俺を依り代にしたのさ。

 それでこの力をただ振るうのではなく弱き者を守るための力として使っていこうと思ってギルドを建てたんだ」


「ちょっと待て、弱気を守る? ミシェラの件はどういうことだ? まさか気づかなかったとは言わないだろ」


「もちろんすぐに発覚し保護するという対応をしようとしたが、本人からやめて欲しいと希望があったから形として放置になった。だが今回の件で我々としてもミシェラを保護することに決めた。

 しかし今まで何も行動を起こさなかったのは事実であり許されないことであるのは理解している、本当に申し訳ない」


 再度頭を下げる。


 ……思ったよりしっかりしてたのか。言いすぎたかもしれない。


「まぁ事情があったなら仕方ない……こっちも言いすぎた、すまん。それとドアの前にミシェラがいるから後で直接言っといてくれ」


「もちろんそうする」


 ミシェラはクロエに任せれば大丈夫か。俺に用がある訳でもないし 、何かあったとしてもギルド内にいるだろう。


「それじゃあもう用はないし適当に依頼受けてどっか泊まるよ。それじゃ」


「あぁ、また何かあったら直接来てくれ、ってもういないか」


 同時刻、受付ロビーにて。


「どうも」


「リヴェン様!? 急にどこから現れたんですか……」


 【超高速】で受付の目の前に現れる。


「詳しいことはさておき、1番報酬が美味しい依頼を貰えますか?」


「そ、そうですね……1番報酬が良いのだと危険ですが、『デルテラットの殲滅』が1万Gです」


「1万!? 宿が1泊350Gだから……1万回は泊まれるじゃないか!?」


「泊まれませんね。どうしますか?」


「そのデルテラットってなんですか?」


「ここから北の方に行くとデルテラットと呼ばれる盗賊団の根城がございます。そこいる盗賊を殲滅させるのが依頼内容です。ですが、そこのリーダーであるソーヤと副リーダーのアリスがかなりの実力者で王国も手を煩わせております」


「なるほどね……」


 国が対処出来ないということは能力者である可能性が高いな。神側なら殺せばいいが、悪魔側なら協力を頼みたいな。


 などと考えてると入口から1人の兵士が走り込んでくる。


「っ!!」


「伝令ッ! 伝令ッ! 北の砦がやつらに……っ占領されてしまいました! 至急ッ応援を求めます!!」


 その兵士は前進酷い火傷をしており深い切り傷を負っていたのだった。

★5評価、感想、ブクマでモチベ上がります。

良ければお願いします。

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