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あの後、バルガは複数の秘書に運ばれて地下に、俺たちは事情聴取という形でギルドマスターの部屋へ連れてかれた。
部屋に居るのはギルドマスター、俺、その場にいた各秘書、そしてミシェラ。
「俺はそいつを読んだ覚えは無いんだが」
ギルドマスターは長い金髪の女性でスラッとした大人っぽい見た目と裏腹に少し荒い性格をしていた。綺麗な声で俺という一人称だと脳が困惑してしまいそうだ。
「元はと言えば私が招いた事です。私もここにいるべきかと思います」
ミシェラはそう主張し部屋を出ていこうとしない。たしかにバルガの件ならミシェラは居るべきだ。しかし今はバルガではなく異能についての話し合い。
「だからぁ、その事はもう良いっつってんだろ? バルガを更生させて終わり! 出てけよ、悲劇のヒロイン気取りか?」
チラッと目が合う。俺の事考慮してくれてるのか。
「なら尚更リヴェンさんがここにいる理由が分かりません」
まぁそう考えるのが当然だろう。
「ガキコラァ……てめぇ俺が誰だかわかってねぇのか?」
今にも噴火しそうなほど真っ赤になった顔には血管がいくつか浮かんでいた。
……仕方ない。
「ミシェラなら聞かれても構いません。早く済ませてください」
「リヴェンさん……ありがとうございます」
「……本人が言うならいい」
「よいしょ」と、おじさんっぽい台詞を吐き椅子に座り込む。
「改めてバルガの件、礼を言う」
「当然のことをしただけです」
ムカついたから殴った。当然だろ?
「後でこいつらにはキツく言っておくから許してやってくれ」
そういうと12番と23番の顔色が少し青くなった気がした。
「程々にしてやってください」
「まぁそれはいいとして、本題に入るが」
来たか。
「お前がさっき見せたあの動き、魔法じゃないだろ」
「はい」
「詳しく教えろ」
『濁せ。面倒だ』
心の中でマモンがつぶやく。一般人に異能権能のことを理解出来るとは思えない。
「言ったところで分からないと思いますよ」
「質問を変えようか。誰がいる?」
「……!」
「クロエ様、それはどういう意味でしょうか?」
「おっと私も歳かな、間違えたよ。それであれはなんだったんだ?」
ニヤニヤとこちらを見てくる。この様子だと彼女は神魔大戦についてなにか知っている様だな。神共の情報を知るためにもここは──
「……おっしゃる通り魔法ではありません。【超高速】、それが俺の異能です。」
【強欲】と言わなかったのには理由がある。
まず、見られたのが【超高速】だったから都合がいいのと【感覚支配】は感知されていなかったから。と言うのも、【強欲】は能力を同時に2つ行使できないことがついさっき、ミシェラの件で判明した。どうやら同時に2つ行使すると先に使った能力は即時、効果を失うらしい。
あの時ミシェラに【感覚支配】をかけたはずだったが、直後に【超高速】を使用したため【感覚支配】は取り消された。だからあの時手応えが無かったのだ。
『能力が2つ以上同時に使えるわけ無いだろ、馬鹿か?』
先に言っておけよ。
「どういう能力だ」
「自分の時間を引き伸ばしてあらゆる事柄を全て一瞬で行える能力です。要は俺だけ超高速で動けるってだけです」
「便利だな」
「そんなこともないです。【超高速】の世界……そうですね「刹那」とでも呼びましょうか。「刹那」では俺の時間が極限まで、だいたい1分が1時間ほどに引き伸ばされます。
なので「刹那」で物に触れたとしても力の流れも遅いので動きが遅くなります。例えば……」
そう言って手元に持ってる羽根ペンを見せる。
「これご存知でしょうか」
「それはここにあった羽根ペン! それが【超高速】か」
クロエは自身の手元にあるはずだった羽根ペンを見て驚く。そう、これはついさっきまでクロエの手元にあった羽根ペンなのだ。
「はい、そのペンをこの位置まで動かしましたが、「刹那」の世界では20分程度経過してました」
「そういう事か、面倒だな」
「え、え、どういうこと、ですか?」
「他にもやり方はありますけどね」
困惑してるミシェラは一旦置いておこう。目線をデスクの上にあるコップに移すとコップがリードの元へ飛んで行くような動きを見せた。
「おぉ」
「コップにここまで飛ぶように力を加えて【超高速】を解除すると、力の速さは通常に戻って、あたかもさっきの瞬間に殴った様に見せる事も出来ます」
「なるほどな。ところでその「刹那」ってのに俺は入れるのか?!」
目を輝かせながら聞いてくるクロエ。こういうの興味あるタイプの人なのね。
「はい、原則「刹那」には俺以外のあらゆる物体、生物は侵入不可なんですが、例外として【超高速】を発動した瞬間に自分が触れている物、並びに自分の物だと認識した物、生物は「刹那」に入る事が可能になります。
例えば、今俺が触れている服、靴下、空気は「俺」になり、靴や愛用の剣も俺のものだと認識しているから「俺」になり「刹那」の世界に入れる。
地面、ペン、クロエさん達は自分のモノだと認識していないため「刹那」には入れません。ちなみに、最初は時間がかかったペンの移動も今は触れているため「刹那」の中に持ち込めてすぐに戻すことが可能です」
羽根ペンを持ってる手を下ろす仕草のままデスクに指を指す。その指の先には羽根ペンが置いてあった。
「入れないのか……しかしクセはあるが中々強力だな」
露骨にしょんぼりするな。可愛いぞ。
ミシェラも話についてこれなくてしょんぼりするな。可愛いぞ。
「ではリヴェン様はクロエ様と同じく異能使いでしたか!」
意外にも18番は異能のことを知っていた。
「異能の事ご存知でしたか」
「ふふん、実は秘書には一通り仕込んである」
ドヤ顔のクロエ、少し子供っぽいところが垣間見える。
「異能使いだったとは、先程の無礼本当に申し訳ございませんでした」
胸に手を当て深深と頭を下げる12番。
「もう終わったことです」
「にしてもすごいっスね、羨ましいっスよ」
お前はケロッとしすぎなんだよ、もっと反省しろ。
「あの、18番さん、異能というのは一体なんなんですか!?」
やっと異能について聞けるのが嬉しいのかピョンピョンしながら18番に問う。
「魔法は現在様々な属性の魔法が発見されていますよね? 火、水、土、風。希少なものだと雷属性も居ます。
反対に異能とはそのどれにも当てはまらない力の事です。例えばリヴェン様の【超高速】は各属性に当てはまらないですよね」
「じゃあその五属性にありそうなものが魔法で、なさそうなのが異能ってことですか?」
なんともミシェラらしい解釈だな。中々いい所ついてるんじゃないか?
「それが曖昧な所なんです。自分の体を炎や水に変えるなんて異能もありますし、逆に五属性には無い、武器を精製する『武器精製魔法』なんて魔法もあります。
確実に言えるの魔法は生み出したり、飛ばしたりするのが限界で、それ以上の事が出来るのが異能という認識で大丈夫だと思います」
なるほど、魔法とはそういう区別をしてるのか。それより自分を炎にさせる異能……欲しい。
「ちなみに俺の異能は【超人】。身体能力が何倍にも膨れ上がるって能力だ」
そう言ってクロエは持っていたペンを握りつぶす。
おい……あのペンすごい高そうだけど大丈夫なのか……?
「クロエ様、それ国王からの贈り物だって言って自慢してたっスよね。壊して大丈夫なんスか?」
「え? ああああああああぁぁぁ!!」
大丈夫じゃなかったらしくあまりのショックに膝から崩れ落ちてしまう。
「ワン!! 来い!」
「ここに」
ワン、と誰かを呼ぶと誰もいなかったはずの空間に急に秘書が現れる。
「っ!」
さっきまでこの秘書は居なかったはず。一体何処から……?
ワンと呼ばれる秘書は片眼鏡を付けており、銀髪が映える褐色肌の男性。
「いつ見てもびっくりされます」
「それは失礼しました」
18番はこれを見るのが初めてじゃないらしい。
「いいからこれ直してぇ……!」
涙を流しながら粉々になったペンを指さす。
「かしこまりました」
粉々になった「ペンだった物」に目線を向ける。すると──
「直った……」
粉々になったはずのペンが徐々に元に姿に戻っていった。
「助かったよ、ありがとな!」
「とんでもございません。──が、このようなことで一々呼ばれると業務に支障が出てしまいます。そうなってしまうと! クロエ様に! 業務の一部を! 回すかも知れないので! ……以後お気をつけください」
「……すまん」
あいつ主のはずだよな? 秘書に圧掛けられる主なんているのか? というよりさっき現れた時の能力、どんな異能だ……?
「気になってるな? こいつは俺の秘書第1号ワン。秘書の中で名前をつけてるのはこいつだけ。ワン、能力の方も教えてやれ」
「かしこまりました。私の能力は【巻き戻し】、自分又は指定したものを、その瞬間から3分以内であればどの時点にでも巻き戻せるという能力です」
「どんな物もですか?」
『【巻き戻し】を簒奪しました』
……ん? ちょっと待て。
「どんなものもです。例えば……おや?」
【強欲】は発動させてないはず! まさか強欲は常時発動型の……
「すみませんがワンさんとクロエさん以外は今すぐ出ていってください」
「なぜで──」
18番が「なぜですか」と言うより先に12番23番18番ミシェラを【超高速】で部屋の外へ運び、移動させる。その時間は約1時間ほどかかってしまった。
「──すか? おや」
「すっげー、まじで一瞬っス」
「鍵がかかってる……呼ばれるまで待つしかないか」
ドアノブをガチャガチャと回し確認するが当然開かない。
「リヴェンさんったら……」
────
「なんのつもりだ?」
息が上がりきってる俺に静かにそう尋ねてくる。
「ごめんなさい、ハァ、そのつもりはなかったんですが、ハァ……奪っちゃいました」
「奪った? 何を?」
「【巻き戻し】です」
「なに? おい」
「さっきから試してますがダメです。発動しません」
首を横に振るワン。
「……てめぇ、返せ──」
椅子から飛び出し殴り掛かるとするが【巻き戻し】でクロエを2秒前に巻き戻し椅子へ座らせる。
「んなっ! お前の異能は【超高速】って話じゃねぇのかよ」
なるほど、巻き戻されるのは状態だけで記憶とかはそのままか、じゃなくて。
「落ち着いてください。奪うつもりは無かったって言ってるでしょう、色々試してみますから待っててください」
「あ?」
意識をマモンの部屋へ移す。
「おい、能力はどうやって返せばいい」
『返すのは無理だが貸すのは可能だ。手をかざして与えたい能力名を言え』
「返すと貸すは何が違うんだ?」
『返すのと違い貸している状態ならいつでもどこでも返してもらうことが出来る』
「よし、ワンが異能を使えればなんでもいい」
すぐ意識を現実に戻して、ワンに手を翳す。
「リヴェン様? 何をするつもりですか?」
「返すんです。──【巻き戻し】」
その瞬間ナニカが抜けていく感覚と共に体がドッと疲れた。
「これで戻ったはずです……」
そう言われるとワンは目線をペンに移す。しばらくするとペンは粉々の状態に戻った。
「確かに、返していただきました」
「おうそうか、良かった良かった。じゃねえええ! 戻せ馬鹿!」
やれやれと言った感じでまたペンを戻す。
「よし……まぁ、返してもらったならいい。ふたつの能力について聞きたい所だがこれ以上は疲れる。あいつら戻せ」
……これ言うべきか? いやトラブルになるだけだよなぁ…………言うか。
「……クロエさんの能力、【超人】じゃないですよね?」
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