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「ようこそリヴェン様」
「どうも」
連れてこられたのは大きな機械がある無機質な白い部屋。出迎えてくれたのはスーツの男。
「18番です。以後お見知り置きを」
「じゅうはち? 名前はないんですか?」
「ございません。私のようにギルドで黒服を着た者は全員ギルドマスター様の秘書であり、全員元受刑者でした」
「受刑者?」
そう聞いて身構える。
「元です。今ではマスターからの更生施術を施されましたので、問題が無い限り人を襲う事はないですよ」
ひとまず安心か……
「更正施術、例えばどんなのが?」
「詳しくはお伝え出来ませんが、主に、基本の事務作業の研修、戦闘力強化ですね。
少しでも弱音を吐いたり逆らったりしたら……これ以上はやめておきましょう」
「そうですね……これで魔力鑑定をするんですか?」
無理やり話を変えようと大きな機械を指さす。
「はい、この部屋で魔法を使っていただいたのち、そこの機械が部屋の魔素を計測します。その数値が多ければ多いほど魔力量が多いということになります」
「なるほど、と言ってもどうやって魔法を出すのか分からないんですが」
「今どき魔法を知らないなんて珍しいですね。魔法は呪文を唱えれば誰でも使えますよ。こうやって魔力を練って……」
「ちょ、魔力ってなんですか?」
「体に流れるエネルギーです。ほら」
と言ってると18番の指先に炎が集まってくる。
「この状態だとすぐに霧散してしまいますので、呪文を唱えてイメージを具現化させるのです。言葉はなんでも構いませんよ、『火よ』でも『燃えろ』でも」
18番は言ってたように『火よ』と言って指先に炎を出す。すると、機械のディスプレイに『77』という数字が映される。
「なるほど、ありがとうございます」
なんだっけ、魔力を練って……
「難しい……」
「集中して、体を流れるエネルギーを感じ取ってください」
……あった、これか。
「その流れを辿ってへその下あたりまで意識を辿ってください。流れの源があるはずです」
へその下…………え。
『ん、なんだリヴェンか、なんか用か?』
言われた通りへその下に意識を集中させるとそこにいたのは禍々しい羽を生やした悪魔だった。
「……」
『なにか言え』
「ここに魔力の源があるって聞いて来てみたら……」
『あぁ、魔力源か。食った』
「食った??」
『あぁ、俺たち悪魔は依り代の中で生活すると言っただろ? その住処にここがちょうどいいんだけどな、魔力源がどうも邪魔なんだ』
「……じゃあ魔法は?」
『安心しろ、強欲がある』
「使えないって事か……過ぎたことだから仕方ないな」
『ちなみに神の依り代は魔法を使えるぞ。中に住まないから魔力源は健在だ』
「……最高のハンデだな」
意識を現実世界に戻す。
「どうしました?」
さて、どうしよう。本当のことを言ってもいいが、今後が非常にめんどくさい。
あ、そうだ。
「なんだか行けそうな気がしてきました」
「そうですか、ではお好きなタイミングでどうぞ」
そう告げて距離をとる18番。万が一暴発したら危ないからだろう。
「行きます、『火よ』」
そう唱えて指先に炎を出すとディスプレイには『57』と映った。
──ように見せている。実際にはディスプレイには『0』と映っている。
呪文なんて唱えてないのだから。
「57、平均より少し高いですね」
よし、バレなければセーフ。というか57で平均より上ってことは、77のこの人って相当強いんじゃないか?
「では、鑑定結果を報告するので受付までご同行願います」
「わかりました」
そう言って18番と一緒にロビーに出た。
「なんでっ!」
──瞬間にドンッと大きな音とともに叫び声が隣の部屋から聞こえてくる。
確かその部屋にいたのは……
「あの、ミシェラさんってどんな人ですか?」
「……ミシェラ様は努力家な方ですよ。初めての魔力鑑定で前代未聞の『2』を出してしまって……それでも挫ける事なく、毎日訓練して、毎日ここに来られますよ」
扉の向こうから泣き声が聞こえる。
さっき扉を触ってわかったけどここの扉はかなり分厚かったはずだ。そこから漏れでるほどの泣き声となると相当悔しいのだろう。
「魔力ってのは訓練で増えるものなんですか?」
「……いえ」
……は?
「てことはミシェラさんは無駄なことをしてるって事ですよね? なんで誰も教えてあげないんですか? ミシェラさんのことコケにしてるんですか?」
「……これはどういうつもりでしょうか?」
つい感情的になり18番の首元に剣をを突きつける。
(気が緩んでいたとは言え私が気づかない程の剣速とは)
見ず知らずの人ってのは自分でも十分理解してる。でもあんなに良い人が「魔力がない」ってだけで苦しんでるこの状況が許せない。
「あなた方はあの姿を見て何も感じずただ笑ってるだけなんですか?」
少し刃物を進めて首皮を斬り、血が1滴垂れる。
「……私が」
首に当てられてる剣に臆することなく答える18番。
「笑ってるとお思いですか?」
っ! 状況はこちらが優位のはずなのに勝てそうにないほどの覇気。
「……私達は何度も、何度も何度もお教えしましたが、ミシェラ様はやってみなければわからない、と明るく振舞ったのです。我々があれを見て何も思わないわけないでしょう」
「……そうですか、失礼しました」
剣を納める。
「ケホッ、本来なら違反行為ですが特別に大目に見ましょう」
「な、すみません……忘れてくれるとありがたいです」
そんなやり取りをしていると扉が開かれた。
「ぐずっ……ん、あ、リヴェンさん! いやぁ、お恥ずかしい所を見られちゃいました! えへへ」
こんなにも悲しい笑顔が存在するなんて知らなかった。
「ギャーハハ! やっぱりダメだったか『能無し』ちゃん!」
……あ?
「今笑ったやつ前出ろ」
「いいんです! ほんとに、いいんです……」
なんで……なんでミシェラさんがここまで我慢する必要があるんだ……
「……優しいんですねミシェラさんは」
「あ、『さん』は要りませんよ! リヴェンさんにはミシェラと呼んで欲しいのです!」
またいつもの笑顔だ。
「おぅおぅ! 新入り……と、『能無し』か!」
やっと落ち着こうとしたところにまた次から次へと……
そう声を掛けてきたのは体長2m越えのキズだらけの大男だった。
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