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「ここが王都……」
大きな大きな門を潜るとそこには広い居住区があり、その家の一つ一つがコルト村の村長の家よりも立派だった。
……アイラやケインにも見せたかったな。多分すげぇ楽しいんだよな。
村長の家よりもでけーぞ! って俺が言ったら、ケインが『ワシの家の方が立派じゃわい!』とか村長のマネして、アイラがそれ見て笑って……
……でも、もう居ねぇんだ。あいつらを殺した神とやらを全員殺すまであいつらに顔向け出来ねぇ。
(意気込んでる所悪いが、今の貴様では神とは戦う事も叶わんぞ)
なぜだ?
(そもそも天使共を何とかせねば何も始まらん)
天使? 神とは違うのか?
(違う。そもそもこの神魔大戦は俺様達、悪魔陣営が圧倒的不利なんだ)
数か。
(その通り。悪魔側は悪魔だけだが、向こうは天使と神。少なくとも倍は向こうが多いだろう。まぁ不利な理由は数だけじゃないが今はいい。
そこで、公平を期すために俺ら悪魔陣営は依り代との行動を常に許されているが、神陣営はそれを許されていない。)
こうやって会話出来てるのが悪魔側の特権ってわけか。
(もうひとつ悪魔側の特権があるが……まぁ今は置いておこう)
「そんなことより冒険者だ、金が欲しいからこんなよくわからない土地に来たんだよ」
(金か、人間はよくわからんな。まぁいい、俺様は寝るから起こすな)
起こし方がわからねぇよ、寝とけ。
っと、冒険者はどこに行けばなれるんだ……?
「あ、あのぉ……」
「ん?」
声がした方を向くとチンマリした女の子が立っていた。
「さっき冒険者がどうとかって言ってましたよね……」
あ、声に出てたのか。
「言ってたような気もします、なにか用ですか?」
「良かったら一緒に冒険者になりませんか? あれ、私たちどこかで会いましたか?」
身長の関係で上目遣いで顔を覗き込んでくる。可愛らしい顔が近づいてきて少し照れてしまう。
「初対面だと思いますよ。というか近いです」
「あ、すみません! 見たところギルドとか知らないのかなーって思って、だから、私も鑑定ついでに教えようかなーって」
「ついでということならお願いします。王都に初めて来たもんで右も左も分からずで困ってたところです。なんと呼べばいいですか?」
「ミシェラ・リースです! ミシェラって呼んでください!」
「よろしくお願いしますミシェラさん。俺の名前はリード・リヴェンです。好きに呼んでください」
「よろしくお願いします! リヴェンさん!」
そうして俺はミシェラと共にギルドとやらに向かった。
「へぇー! コルト村って所で生まれたんですね! なにか特産品などはあるんですか?」
「特にないですね。田舎も田舎なので」
「あら、そうなんですね」
「ところで、なんで冒険者になろうとしたんですか?」
「稼げるから」
隠す必要もない。即答だ。
「えええ! 死ぬかも知れないのにそんな理由で……凄いですね」
そんなに驚くことか? と思ってしまうくらい過度なリアクションをとるミシェラ。
「へぇ、どんな理由が多いんですか?」
「うーん、大体の方は、強さを求めて〜とか、称号が欲しくて〜とかですね」
「称号ですか?」
「はい、冒険者じゃないと入れない様な場所がこの世界にはあるんですよ。一般人だと死んでしまう程危険な場所があったりするので」
「なるほど。ちなみにミシェラさんはどうして冒険者に?」
「私は……昔会った人にもう一度会いたくて冒険者になりました。その人が冒険者かどうか分からないですし、既に亡くなってるかも知れないですけど、私はその人に会って色んな事を話したいです! そのために王都に、冒険者になりました! それと、単純に冒険者面白そうですし!」
そう語るミシェラの顔は尊敬の眼差しとほんの少し頬が赤らんでいた。
「いい理由ですね。でも、「おもしろそう」ですか……行き過ぎた好奇心はいつか身を滅ぼしますよ」
「どういう意味ですか?」
「……忘れてください」
その後もたわいもない雑談をしながら歩いた。
◇
「あの」
「はい」
「ギルドってのはいつもこう……賑やかなんですか?」
なぜそんなことを聞いたのか。
理由は単純明快。ギルドに入った途端にクソほどうるさくなったから。
などと思ってると周りのガヤからこんな声が聞こえてきた。
「おーーーーーーい!! 『能無し』ミシェラちゃーん! 今日も恥を晒しに来たのかぁ!?」
「今回こそ結果を出してやるんだから!」
ん?
再度こんな声も
「あれあれぇ? ミシェラちゃんのお隣は誰かなぁ?」
「なによ、気になるの〜?」
おかしい、全員ミシェラのことを馬鹿にしてるはずなのに何故そんな笑っていられる。
「新しい『能無し』仲間に違いねぇ!」
「「「ギャハハ!」」」
「っ! ちがっ、この人は……」
能無し? この国では異能や権能が当たり前の世界なのか?
「ちょっといいですか?」
ガヤと笑い声が入り混じる中、ミシェラに尋ねる。
「え、今ですか? ……いいですけど」
周りのヤジが気になるらしい。けどどうしても気になったから仕方がない。
「その能無しってのは一体?」
「……気遣いって知ってますか?」
「自分の中で『気遣い』と『好奇心』どっちを優先するか会議した結果『好奇心』が勝っちゃいました」
悪びれもなくそう答える。
「仕方ないですね、この世界には稀に……と言ってもそんなに珍しくは無いですが、火を出せたり、風を起こしたりなどの『魔法』と呼ばれる超常現象を使える人がいるんです」
能力のことじゃなかったか。まぁここの全員が能力者だったら恐ろしいか。
「その話の流れだと魔法が使えないと」
「お恥ずかしながら……」
えへへと笑う彼女はどこか悲しげだった。
「それで『能無し』……」
俺にとってはここの全員が「能無し」だけどな。
「はい、冒険者には危険が付き物。ここ最近魔物が活発になってきてどんどん危険な魔物が出現するようになってきて、自分の身も守れない奴は『能無し』って……」
魔物の活発化……コルト村にいた頃は変わらなかったけど。そういえば王都の前にサイクロプスがいたけど何か関係してるのか?
「……ヴェンさん、リヴェンさん!」
「ん、あぁ、ちょっと考え事を」
「もう……しっかりしてくださいよ。登録しますね?」
「はい」
まぁいいか。
そう言って俺たちは並んで受付に向かった。
「ようこそ、ギルドへ」
受付には大人びいた女の人が立っていた。
「どうも」
「どうも……」
ミシェラはどこか暗い顔をしていた。
「こんにちはミシェラさん。今日も魔力鑑定を?」
「はい、お願いします!」
「わかりました、ではこちらへ」
そう言って別の係員に別室へ連れてかれる。
「リヴェンさん、頑張ってください……!」
頑張る?
「初めまして、お名前を教えてください」
「リード・リヴェンです」
「リヴェン様ですね、ありがとうございます。ではいくつか質問をさせていただきます。出身を教えてください」
「コルト村です」
「コルト村……先日壊滅した村ですね。お悔やみ申し上げます」
「……ありがとうございます」
情報伝わるのが早いな。
「年齢を教えてください」
「伏せます。必要じゃないと判断したので」
「身長を……」
「伏せます」
「体重を……」
「伏せます、これ本当に必要なんですか?」
「冗談です。緊張してる方の緊張をほぐすためにこういう質問をするんですがリヴェン様には必要なさそうですね。本題です、なぜ冒険者になろうと思いましたか?」
個人情報を聞いて緊張ってほぐれるものなのか? まぁいいや。
「稼げると聞いて」
「危険を犯してまでお金を稼ぎたいなんてモノ好きですね」
ミシェラにも言われたがそんなに変かな。
「それほどでもないですよ」
「褒めてないです。……質問は以上となりますので、あちらの部屋で魔力鑑定を行ってください」
そう言われて俺は別室へ連れていかれた。
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