1.いきなりのクビ宣告。軍師との舌戦
俺は王国軍最強の盾持ち。防御に必要や凡ゆるスキルを身につけ、凡ゆる戦いでそれを発揮し、味方を守って来た。
仲間達は俺のスキル在りきで戦術や戦略を練る程に俺を頼ってくれているし、俺はそれに答えるべく防御の要として常に前線でその盾捌きを奮ってきたわけだが、
若手軍師様がそんな俺を呼び出してきて唐突にクビ宣告を突き付けてきやがった。当然納得いくわけがない!!
「俺をクビにするとか正気か!?」
いつもと変わらない朝、作戦室で仲間達と会議中に突然呼び出した俺たちの軍師様は、顔を合わせるなり俺に戦力外通告を叩き付けてきた。
「もちろん正気だ。君の戦いぶりやスキルは確認させてもらったし、その上で私が独断で決めさせてもらったよ。君の仲間には私から説明する。」
専用の執務室を持つ軍師様、最近やって来た若手の敏腕軍師と聞かされていたが、どうも書類仕事は得意でも実戦経験はあまりないようだ。この浅はかな決断が何よりの証拠だろう。
「だが待ってほしい。分かってるのか?今俺が所属している分隊は俺のスキルあっての構成をしているんだぞ!?」
「俺が抜ければ部隊の防御の要は失われる。剣士も弓使いも暗器使いも、俺が居なければ丸裸になって一方的にやられるだけだ!」
俺は大きな椅子に座る軍師様にあくまで淡々と、しかし熱い気持ちは隠さずに語りかけた。
自分がどれほど部隊にとって重要な存在であるかか。自分がいない部隊がどれ程脆弱であるか。
それも自分がいないと部隊が一瞬で崩壊することは目に見えているからだ。仲間を捨ててここを去るなんて出来ないからだ
しかしこの軍師には俺の思いや後に起こり得る現実がどうも見えていないようで、
「君のその言葉は私の決断に影響を与えることはないよ。私は自分の観察眼にはそれなりに自信があってね。その上での判断は絶対なんだ」
俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか、それすら俺には分からない程度の適当さを持った言葉を返してきた。
「そんなの無責任な言葉で納得行くか!!!」
俺は持っていた大楯を床に叩き付けた。
銀色に輝くこの大楯は俺の誇りであり役目の象徴だ。
この盾で俺は何度も味方の命を救ってきた。それが俺が永らく担ってきた使命だった。しかしこの軍師はそれをまるで分かっていない。
「俺はこの盾で仲間を守る使命を立派に果たして来た!仲間を死なせた事もない!怪我一つさせる事もない!その為の技術も磨いてきた!常に仲間を守ることを優先して戦ってきた!その結果がこの仕打ちか!?正気なのか貴様はァァァァ!!」
ドンドンドン!と大楯が床を打ち鳴らす。
その度に建物がガタガタと揺れ動き、天井の照明が揺れ、軍師の机の上にある小さな花瓶も倒れ、本棚にある分厚い本も床に落ちる程の衝撃を周囲に与える。
「ふむ……。」
軍師はそんな俺を見ると椅子に深々ともたれ掛かると何かを考えるように両手を顔の前で組んだ。
「なるほど、君は自分のスキルに余程自信があるようだ。その熱意は認めよう。」
「だがそれでも君は私が率いる部隊に相応しくない。この失礼な態度と短気を抜きにしても、君は戦士として三流が良い所だろう。」
「さ…三流……」
馬鹿かコイツは。
俺のスキルや技術や戦歴を見て三流と評する奴がこの世にいるとは信じられない。信じたくない。こんな奴が俺たちを率いていたというのか。
「くだらねぇ!!なら本当に三流かどうか試してやろうか!!」
俺がいよいよこのいけ好かない軍師には掴み掛かろうとした時、彼はそっと右手を挙げてその動きを止めるようなジェスチャーを見せた。
「君が三流なのは技術の問題ではない。戦歴の問題でもない。仲間の安否や安全の問題でもない。君の一つ一つの言葉に三流の思考が見え隠れしているんだよ。」
「さ…三流の思考……?」
何を言っているんだコイツは。俺が仲間を傷付けたことがない事、常にスキルを磨いていること、使命を果たしてきたこと、それが三流の言葉だとでもいうのか。
「君は自分の使命を"仲間を守る事"だと思っているが、それは君の役割に過ぎないんだよ」
「いいかい?君の使命は"勝つ事"なんだ。仲間を守るなんてその中の小さな一つの役割に過ぎないんだ」
軍師様はそういうと立ち上がって倒れた花瓶や本を元の位置に戻し出した。
「君は役割に固執しすぎだ。自分はこれだけが役割だ。自分は与えられたこの責務だけ立派に熟せば良い。今日も自分は仕事を全うしたし何も問題ないぞ。そんな風に考えてないかな?」
「な…何が言いたいのか分からん。盾持ちの俺の役割は仲間を守って、その結果勝てば良い事だろう。それがチームプレイであり戦術というものだ」
「だから君は三流なんだよ。」
倒れたら落ちたりしたものを直し終わると軍師様はコチラを真っ直ぐと見た。先程の柔らかな態度とは違う、何か熱い感情を感じさせる目だ。
「例え盾持ちでも暗器を投げ付けて敵の目を潰す。剣士でも仲間を守る盾となる。弓使いでも短剣を持って敵の喉に喰らい付く。魔法使いでも棍棒で敵の頭を潰す。」
「凡ゆる手段を尽くし、思考を巡らせ、先手を取り、予想を上回り、貪欲に勝利を捥ぎ取る。その目的意識が君には足らんのだ。」
「うっ……」
軍師様の口調はとても強かった。俺の弱点を的確に見抜き、俺の考えを全て見通してるかのような確信に満ちた口調で軍師様は続ける。
「君は自分が抜けたらチームが崩壊すると思っているようだが、私はそうは思ってないよ。」
「君が抜けて暫くは大変だろうがね。最後にはそれぞれがチーム内で新たな役割を担うだろう。君の役割はそれぞれに分担されるし、各々が協力して新しいチームとして立派にやって行くだろう。」
「役職やスキルに固執する君には想像出来ない所だろうがね。」
そうして嫌味ったらしい笑顔を向けてきた。
「………。」
返す言葉が見つからない。
俺は自分のそれまでの誇りや使命を全て否定されたような気がした。俺がいないと仲間達はやって行けないだろうと、俺は信じたかったからだ。
しかしこの軍師様はそうならないと断言した。実際そうかも知れない。俺が居なくても奴らは立派にやっていくだろう。
そりゃそうだ。彼等もまた、俺と同じぐらい強いんだから。
「さてと、雑談済んだ所だし今後の君の処遇に関しての話も進めようか」