03 生配信してみた前編
「はーい! 聞こえてますか?はーい?」
画角に向かって指を伸ばし、ゴソゴソしてから勇者アスカは再び笑顔を作る。
背後に映るのは広々とした草原。
頭上にあるだろう太陽が緑の大地を燦々と照らし、風が通る度に草原は水面の如く光る波を描き出す。
「はーい? 誰か来たら分かるのかな?初めてってワクワクするよねー。って集まるまで待つの?」
右手首内側に装着した配信確認用の水晶板を覗くアスカ。
水晶板を固定した手甲を覗くその姿は、閉じられた肘と首の角度からまるでポーズを取ったモデルのようでもある。
その時、一つの文字列が画角を右から左に流れる。
『こんちは!』
「おおおおお!?こんにちは異世界の人!! 初めましてこんにちは!聞こえてる? 見えてる?」
『・・・・・・』
「あ、あれ? なんか駄目?」
しばしの間の後、文字列が再び流れる。
『映ってる。聞こえてる。今』
「え? 今? ……」
右手首の水晶板を食い入るように見るアスカ。
『ツブヤイターしたから直ぐ集まるかと』
「お? 招集用の法術かな? 異世界の法術って興味あるよねー。どんなのがメジャーかコメント欄に書いといてよー」
『こんにちは!。おじゃまします。生配信ときいて……。らいぶきたーーーー。おめー。8888」
様々な文字列が画角を右から左に横切る。
「おおおおお! 凄い凄い! 皆ありがとねー違う世界が繋がるって不思議だよねーいいよねーありがとねー。読める! 読めるよーめっちゃ勉強したもんねー。勇者の急成長の全てを注ぎ込んだからねー」
『よろすくー。参るよねー。ちゃす。こちらこそー』
「始めて良いのかな?」
『いよー。おk。どぞよろー』
「はーい! 異世界通信アスカチャンネルへようこそ! アスカでーす! 今回はなんと異世界とライブでつながっちゃいましたー。これって凄いよねー」
アスカは爽やかな笑顔で、キラッと笑った。
「さて今回は前回のコメントで非常に多かった『魔法や!』に生配信ならでは、リクエストされた法術を使ってみた!で行ってみたいと思いまーす」
『おおおおおおおおおお。やたーーーーーーー。888888』
「まず先に魔法ってコメントされてたけど、前回の動画で俺が使ったのは【精霊術】ね、んで言葉や図形で契約を履行してもらうのが【法術】で、魔法って言葉はこの世界では無いねー」
『ほーーーー。メモメモ。なるる』
「んじゃまず何が見たいかな?」
体操のお兄さんバリに、画角に向けて耳をかざすアスカ。真っ直ぐな鼻筋、少し厚みのある下唇、長いまつ毛。イケメンは耳の形までイケていた。
『ファイアボールでそ。ライトニングアロ。下級。ひのたま。アイスジャベりん。ファイア』
たくさんの文字列が画角を流れる。
「わーお! 凄いね! んじゃまず火の法術からねー」
水晶の杖を地面に刺したのか、画角は固定され、アスカは少しだけ離れた草原で画角に背を向けて立った。
小さいながら、アスカの声が聞こえる。
「ユグドーよ、契約に従い繋がり給え……」
『おおお!。MPバー光った。わくわく』
「法はエーテル、術は事象、技は炎渦……」
『MPごっそり……。ちょっww。おいおいおい』
「関与せよ!」
最後の言葉と共に、アスカの右手から炎の渦が螺旋を巻いてほとばしる。その光景はまるで炎の龍を産み出したかのようだ。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお。まじかーーーーーーーーーーーーー。キターーーーーー。ヤベーーーー』
炎の渦は前方の草原を扇状に焼き払い、地中の根を燃やし、含有物の多い石が割れ弾けるまで続き、時を迎えると唐突に消えた。
「……ふう。結構ぐったり。参るよねー」
『スゴスゴスゴ。キャーーーーーーーーー。ヤベエ……。うほおおおおおおおい。かっけーーーーー』
画角は驚愕を表す文字列で溢れた。
「んじゃ次は氷系ね」
アスカはポーチに手をやり、取り出した小瓶を一気に飲み干す。
『MP大丈夫?。ゲージ半分以下だぞ。』
の直後。
シャキーン。
『おおおお。MP回復!。ドーピングや。異世界だなぁ』
の文字列が流れ、水晶板を覗き込んだアスカが首を傾げる。
「ん? ゲージってコメントあるけど画面に何が映ってるの?」
『え。は?。???』
『見えてないんか。体力と魔力?のゲージが頭上に出てますが。頭上にでてますよー』
コメントを確認して、頭上を見上げるという動作を数回繰り返すアスカ。
だがアスカは再び首を傾げる。
「またまたー。そんなの無いよー」
爽やかに笑うイケメン。
『ええええええ。あるから!。これ割合?。レベまだ15なんですねー』
このコメントを確認したアスカは、スタスタと画角に近づき、アップで異世界の視聴者に問いかける。
「本当に見えてるんですか? レベルも表示されてるの? どうなってんの?」
珍しく真剣な表情のアスカ。
コメントが流れる。
『参るよねー』
その文字列に心の余裕を取り戻したアスカ。ちょっと恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ま、参るよねー」
『参るよねー。まいるよねー。ねーー。マイルヨネー。参るよねー』
たくさんの文字列が、画面を流れるのだった。
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