02 魔物倒してみた
「はーい! 異世界通信アスカチャンネルへようこそ! アスカでーす! 前回の終盤で水晶が喰われて、動画、音声、ダウンしてしまいました。参るよねー」
勇者アスカは、歯をキラリとさせて爽やかに笑う。
画角に収まっているのは、崖に立つアスカの足元に広がる広大な森林と、頭上にそびえる積乱雲。
青い空に浮かぶ分厚く白い雲、そして深緑の森に転々と輝く池や沼は、美しくも壮大な異世界景色だった。
「水晶を修理しようと調べてたら、そっちの世界からのラドエナジーも感知出来る事を発見! 今回は修理確認の動画だけど、次回はもしかしたらライブ配信できちゃうかもでーす。チャンネル登録よろしくね!」
そう言って、歯をキラリとさせると、アスカは崖を降りて森へと入って行く。オープニングの景色撮りの為だけに、崖上まで登ったようだ。
「今回の動画は、前回映って無かった魔物討伐と、前回のコメントにもあった『勇者ってなによ?』の質問に勇者の定義と題して答えたいと思いまーす」
森の中、藪の丈が徐々に高くなり、視界が悪くなる。
「水晶修理のついでにこんな物を作ってみました! ジャーン」
そう言うと、藪に覆われていた画角は高さを持って視界を確保し、その視線はまるでバスの窓からのような高さになった。
「あー、見えないよねーコレ。水晶を樫の杖の先に付けて体から離れた所から撮れるようにしましたー。イエーイ」
枝の上まで登った視線は、まるで鳥が見下ろすかのような画角でアスカを捉えた。
「持ってる時はこうして向きも自由自在でーす。更に……おっと出ましたね。このフックで……」
画角は固定され、アスカの声が遠ざかる。
その画角のほぼ中央。人が乗れそうな程に大きいイノシシ系の魔物がアスカと対峙する。
前足で地面を掘って体を揺するイノシシは、ドラッグレーススタート前のマシンを、半身で肘を高くしてロングソードを構えるアスカは、マタドールを思わせた。
アスカ目掛けて突進するイノシシ。
一方コレを待っていたアスカ。
すれ違いざまに繰り出された斬撃は、イノシシの牙に当たって深手にはならなかった。
すかさず追撃しようとダッシュするも、水晶と画角を気にして元の位置にスタスタと戻るアスカ。
「・・・・・・・」
何か言っているようだが聞こえはしない。
ただ、爽やかに笑って歯を光らせたのは見えた。
イノシシが再度突進する。アスカは突進先を誘導し木へ衝突させ、ピヨっている間に首筋にロングソードを突き立てて止めを刺した。
イノシシから剣を抜いたアスカが、猛然と画角に迫る。
戦闘中より格段に早い速度で迫ったアスカは、枝に吊るしてあった水晶の杖を取ると、同じ速度でイノシシの元へと走る。
画角一杯のイノシシ。
「こ、このように、止めを刺された魔物は砂になり……崩れると……」
解説通りに、色を失って砂になったイノシシは、最初の一粒の砂が落ちると一気に崩れ落ち、砂の小山になった。
「からのぉ……チャリーンっと」
砂の小山からコインが飛び出し、光の尾を引いてポーチへと吸い込まれていった。
「コメントだとコレが不思議らしいんだけど、俺からするとコレが普通なので、説明って言われても困りますねー。金額は違っても、飛び出すコインはいつも1枚だし」
その後も順調に魔物は現れ、時には水晶の杖を持ったまま臨場感あふれる画角で、時には枝に吊るして俯瞰した画角で、戦闘動画は撮影される。
「勇者の定義ですが、魔王討伐は勿論だけど、一番は急成長だと思う。一週間で騎士団長と同等の強さになった勇者の話が伝えられてるし、俺も先週まではショートソードでも重いって思ってたよ」
「次の定義は万能性かな。」
水晶の杖を持ったまま、戦闘しながら説明をするアスカ。
現れた3匹の一角兎は、周囲を素早く跳ね回る撹乱戦法を開始した。
「斧と弓とか、火の精と水の精とか、本来親和性が阻害される組み合わせでも、阻害無く習得できるんだ」
そう言いながらアスカは火・氷・風の精を呼び出して三種の矢を放つも、一角兎は火以外は大したダメージを受けた様子もない、そこでアスカは氷と風の精を依り代にして水の精を呼び出した。
「上位精ラーグよ、彼の者の肺を満たせ」
火・氷・風の矢をそれぞれ受けても致命傷とはならなかった一角兎達が、口から水を吹き出して溺れ死ぬ。
そして砂になった小山からコインが飛ぶ。
「苦手は無いけど、その分覚える事が多くてさ。参るよねー」
アスカは爽やかに笑った。
森を深く進み、湖畔に佇む古い洋館が画角に入る。
「不死性は勇者に限らないし、あとは……あのドア、鍵がかかってる筈だけど」
アスカは洋館の正面ドアノブに手を掛け……。
かちゃ。
「大体のドア開けれちゃうことかな?意味分かんないよね?」
アスカは玄関ホールに響き渡る声でしばし笑った。
「今回はこの位で、戦闘も見やすくなったでしょ?次回はライブ配信しちゃうかもよ。高評価とチャンネル登録お願いしまーす」
「ま、撮れ高は十分でしょ」
そう言ってアスカは水晶を杖から外し、ポーチへしまう。そしてドアを背にしてホール上階へ視線を送る……。
「お化け屋敷か。グロいのって需要あるのかな?低評価とか閲覧注意とかやだなぁ」
上階から凍てつく視線を送る負の者に、アスカは恐れる風もなく言い放つのだった。
「こい、動画間エピソードども」
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