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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
16/69

16 遭遇後編

 ビア王国とハラ帝国を南北に隔てるキドゴ山脈。その山麓にて狐目の男は、大きく抉れた山肌の前に立っていた。


 直径20メートル程の巨大なドリルで山肌を抉ったかのような跡が二本。

 その抉れの開始地点に、アスカとドローンが居た形跡は微塵もない。


 王都アビリが騒がしくなる中、騒ぎの原因である土煙の発生源で、男は静かに腕組みをし首を傾げている。


「おかしい……弱いじゃないですか……。隔絶牢を破る程の力を持つなら、手加減は危険と判断したのですが……」


 土煙に霞む遥か向こうで、丸くくり抜かれた崖が音を立てて崩れ落ち、新たな土煙を巻き上げる。


「死ぬと光の塵となって特定の施設で復活するのでしたか……。ま、私の攻撃は忘却属性がありますから、復活してもおいそれとは私の事を思い出せないでしょうが……あんなに弱いのにどうやって隔絶牢を……」


 カッツーン。


 背後に何かが落下する音を聞いて、狐目の男は腕組みの姿勢のまま振り向いた。


「これは勇者の……?」


 落下したのは、不思議な色を放つ水晶球。

 勇者が、使役していた混血種に持たせた物だった筈だ。


 何故コレだけが残ったのかも気になったが、狐目の男の注意を引いたのは水晶球を取り巻く空間の歪みだった。


 狐目の男は水晶球を手に取り、不思議な色合いに常に変化する水晶球に手をかざし、表情を険しくした。


「何だこれは……生物でもないのに疑似的なコーザル体が……いや穴が空いているのか? あっ待て!」


 もっと詳しく分析しようとしたのか、狐目の男が尻尾の先に光を宿したその時、水晶球は光の塵となって風に舞い、その手から失われてしまった。


「装備品は勇者を倒しでも残らない。報告通りですか……しかしあの空間の穴は……」


 あの水晶球が異なる世界と繋がっていたならば、隔絶牢が砕けた説明にはなる。

 隔絶牢は空間の内外を相対的に等しく保つ事で、光も時間も無い空間に対象を封じ込める。だが相対的均衡を崩す要因があった場合は、泡に管を刺したが如く、その空間を隔てる線は脆くも崩れ去る。


「何か私の知らない術でも構築しようとしたのでしょうか?」


 ヒゲを摘んで考えに耽る狐目の男は、「おっと」と思い出したように顔を上げ、王都アビリへ向けて走り出す。


 二歩三歩と加速し、四歩目以降は山道を駆け抜ける一陣の風となって、その姿は低地の森林へと消えて行った。

 


 厳かなパイプオルガンの和音と、ステンドグラスから差し込む優しい光が、その施設の神聖性を高めていた。


 円を十字に切り取った意匠を持つこの施設は、かつて動画に登場した教会よりもふた周り程大きく、装飾も設備も一段とケバケバしかった。


 教会の廊下を若い神父が早足で進む。法衣の擦れる音を立てながら、走っていませんとギリギリ言い訳出来る速さで進んでいる。


 ノックの返事を待たずに若い神父はドアノブに手を掛け、「入れ」の声と同時にドアを開けた。


「例の勇者に蘇生の兆候が現れました」


「ようやくか!」


 返事と共に振り向いたのは、初老の神官。帽子にも法衣にもふんだんに金糸が使われ、指輪も腕輪も靴も、金の装飾に溢れている。


 これはこの初老の神官が高い地位にある事を表していたが、老神官は金に輝く法衣と装飾品を脱ぎ捨て、クローゼットの物色を始めた。


「あ、あの、ミズリ神官長……?」


 パンツと靴下だけの姿で、大きな箱を抱えてクローゼットから出て来た神官長に、若い神父は意味をなさない言葉を掛ける。


 蓋を取った箱から、神々しさとは無縁なカラフルな法衣を取り出した神官長は、にっこりと笑ってこう言った。


「動画映えしそうじゃろ?」



「天の神よー地の神よー、彷徨える勇者の御霊を導き、不滅の肉体へと宿し給えー」


 カラフルな法衣に身を包んだ神官長が、暖かくも荘厳な声を教会内に響かせる。

 その声を聞いた錫杖を構える教会職員が、小声で同僚に囁く。


「初めて聞く聖言だが、もしかして大物の勇者なのか?」

「いや、そんな大物はもう大森林そばのマッシーなんぞに蘇生登録してないだろ」


 カタリ。


 柩の蓋が開き、中から金髪碧眼の若者が上体をゆっくりと起こす。


 眠りから覚めた。


 正にそんな様子で目を瞬き、軽く頭を振って周囲を見渡す若者。


「天の神よー地の神よー、彷徨える勇者の御霊を導き、不滅の肉体へと宿し給えー」


 神官長は聖言を繰り返しならがら、復活した勇者をチラッチラ見ている。

 そして……。


「撮らんの? アスカちゃん?」


 両手を上に広げたポーズを崩す事なく、神官長は顔だけ向けて復活したばかりの勇者アスカに小声で語りかける。


 神官長の顔を見たアスカ。


「あれー? 神官ちゃーん! 久しぶりだねーどうしてここに?」


 尚もポーズを崩さずに神官長は答える。


「アスカちゃんがここで蘇生登録したって聞いたからじゃよ。前に撮って貰った動画というヤツを見て、撮られる歓びに目覚めたんじゃ! もっかいあのセリフから行こうか?」


「撮る楽しみも中々でやんすよ!」


 隣の柩からドローンが飛び出してアスカの頭に留まると、周囲に驚きの声が上がる。


「あぁ、コイツは俺のお供だから大丈夫」


 ホッとした空気の中、アスカはポーチからソニーくんを取り出し、一脚杖にセットする。


「あーちょっと待ってねー。編集もインサートも使えないから、一発録りなんだよねー。構成考えないと……」


 そう言ってアスカは顎に手を当てる。


(ん? 俺、何で死んだっけ?)


 動かないアスカに神官長が耳打ちする。


「復活を司った神官長が、勇者の志に強く共感し、仲間に加わるというのはどうじゃ? パーティーに入れてくれるなら、神官長なぞ今すぐ辞めるぞよ?」


 神官長はそう言うと、いたずら小僧の様にニカッと笑った。


「ちょちょちょっとミズリ神官長!? 何を仰ってるんですか!」

「そそそうですよ! 先日突然押しかけてきて先任の神官長を左遷したくせに!」

「い、如何にミズリ様とは言えそれ程の我儘は……」


束になって非難する教会の面々と、それに向き合う神官長。


「本部に飲ませるから、通達を待つように」


 遥か高みから見下ろす様に言われた一同は、口をパクパクさせるだけで言葉を失ってしまった。


「アスカちゃーん、本職の神官は一味違うよー。回復、解毒、呪解、それに儂モンクじゃから結構ヤルぞよ」


 初老とは思えぬ見事な上腕二頭筋を見せて、自分を売り込む神官長。


 気付けばドローンが少し離れた所でソニーくんを持って羽ばたき、一連のやり取りは既に撮影されていた。


 ハッとした神官長は、厳かに蘇生の聖言からやり直し始める。


「天の神よー地の神よー、儂をアスカのパーティーに加え給えー、儂クラスになるとー現地で蘇生もレベルアップも出来るぞえー、地理も詳しいぞー」


 さっきと文言が違うばかりか、天井に向けて手を上げるポーズまで違ってしまい、上半身裸で一言毎にフロントダブルバイセップス、サイドチェスト、バックダブルバイセップスとポーズを変えて、言葉と筋肉とで自分を売り込んでくる老人に、アスカは腹を抱えて笑い出してしまう。


 笑い過ぎて溢れた涙を拭いた手が、神官長へと伸ばされ、硬い握手が交わされる。


 こうしてアスカは、勇者以外のメンバーを更にパーティーに加えたのだった。



「はぁ!?マッシーで死に戻りってどう言う事よ!?」


 担当導師であるミアは、この時点で神官長がパーティーに加わった事をまだ知らない。



今回再登場の神父さんが良い感じに暴走してくれたので、前回登場した5話目を調整改変しました。

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