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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
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14 遠い近道

「な・ん・で・アイツ居ないのよ」


 ビア王国王都アビリ。王立図書館正面の大扉前で、導師ミアはその小さな体をワナワナと震わせていた。


 先日から王立図書館に籠もってレベルアップに行こうとしないアスカに、今朝もミアは声を掛け、ため息と共に退散し、他のパーティの監督へと移動した。


 そして昼に上司に呼び出されて戻った王都。


 ほんの数時間前に「外に出る気、一切ナシ」とほざいていたアスカの姿が王立図書館に無い。


 つい先日、勇者セトを見失ってばかりの導師が笑い話の種になった。それを耳に挟んだ上司に担当勇者の管理厳格化を言い渡されたばかりだと言うのに。そうまさにたった今。


「転移陣じゃないんですか?」


アスカと顔見知りの図書館の門番が、気遣わしげにミアに声を掛けるも、振り返ったミアの表情は暗い。


「ポータル使わないのよ……アイツ」



 青空を隠そうと頑張っている。


 そう思える程の分厚い雲の塊が空にたくさん浮かんでいた。雲の切れ間から青空は覗いているのに、世界は夜明け前のようにほの暗い。

 雲間から差し込む光は、天から地上への神の恵みに思えた。


 頭上を旋回する小さな生き物が、差し込む陽光よりも明るい声を出す。


「テイマーの資質が顕著化してなくても、魔獣を従えた前例があって良かったでやんすね! 旦那!」


 王都アビリから南へ2時間程。

 ビア王国とハラ帝国とを隔てる東西に伸びたキドゴ山脈。そのキドゴ山脈の王国側山麓にアスカとドローンの姿はあった。


「あっただけでそれ以上の情報はなかったけどねー。それよりソニーくん関連の情報が無さ過ぎるよ。予見水晶を研究した書が見当たらないんだよねー」


 ポーチからソニーくんを取り出し、優しく触れるアスカ。


 今回大森林に差し掛かる寸前から、王都へ引き返した最大の理由がソニーくんの不調であった。


 編集ソフトはおろか、インサートソフトまでが使用不能になってしまったのだ。「最新バージョンではありません」からの「404」という謎の数字で追跡不能に陥ってしまう。


 更には録画開始が不安定になってしまった為、予見水晶の基本知識を得るために王立図書館へと戻る事に。


 数日に渡る引きこもりは実らず「装備品の成長適合遅延」という報告書を信じて、このまま騙し騙し使ってみる事にしたのであった。


 足元の勾配は徐々にきつくなり、それに伴って樹木も高地特有の葉の尖ったものが増えてくる。

 時刻は昼を回ったばかりの筈だが、山から吹き下ろす風は冷たく、時折雨の匂いがした。


「で、旦那。あの山を超えて異国へ行くんでやんすか? アビリの都も色んなモノがあって楽しかったでやんす! 異国の都はまた違った町並みや音楽があるんでしょ?」


 ドローンは興奮したようにくるりと宙返りし、その大きな瞳を輝かせてアスカに顔を近づける。


「行かないよ。キドゴ山脈を越えようとしたら、たとえ勇者でも罰せられるよ。今は協力してるけど、王国と帝国は宿敵と言ってもいい位に仲悪いらしいから。ソニーくん持ってると転移陣が発動しないから近道を……」


「行かないんでやんすか……」


 どうやらドローンは異国へ行けると思い込んで喜んでいたらしく、アスカの最初の言葉「行かないよ」で意気消沈しており、その後の言葉は聞こえていない様子だ。


 パーティを組んでいるお陰で、ドローンの落胆はダイレクトにアスカへと伝わってくる。


「ドローン! 川下りしたことあるか?」


 唐突に明るい声を出すアスカ。


「川って大きな水の流れでやんすか?」


 洞窟から出たことのなかったドローンは、ゆっくりと流れる川しか知らない。今回アスカの言う川はもっと激しい流れのことだ。


「木の幹をくり抜いた小さな船を作って、急流にのって川下へ短時間で移動するんだ。両側が切り立った崖の狭ーい水路とか、大岩が流れを砕く激流とか、滝壺の水中洞窟に潜ったりとか、陸でも空でも味わえないスリルだぞ」


 左眉をツイっと上げて、アスカは得意げに川下りを説明する。


「スリル……でやんすか!」


 アスカにドローンの期待と興奮の感情が流れ込んでくる。


(ふふふ、ちょろいヤツめ)


 そう思いながらも、ドローンが発する素直な感情に心地よさを感じるアスカはその頬を緩めた。


 その時。


「旦那!」


 可愛らしい姿でアスカの頭上を旋回していたドローンが、ダンジョンボスであるアースバットの姿になり、少し離れた場所の大岩からアスカを庇うように身構えて警戒感を顕にする。


「さがるでやんす! とんでもないのが居るでやんす!」


緊張感漲るドローンの声を聞いたアスカは、スラッと鋼の剣を抜き、スチャッとアプチャーヘムルを被り、チャキッとソニーくんを一脚杖に取り付けた。


「なにしてるでやんすか! 逃げるでやんすよ!」


「初見の魔物との戦闘は収めとかないとね。そんなレアな魔物との遭遇なら尚の事」


 剣とソニーくんを構えて前に出ようとするアスカと、そのアスカを背中で抑えて後退しようとするドローン。

 薄暗い山道で「だめたって、だめじゃないって」と押し問答する二人。


 抑え込みを諦めたドローンが先手を取るべく動く。


「旦那! 耳を!」


 アスカが耳を抑えた直後に発せられる超音波。反響の弱い屋外とは言え、初めて耳にするならそれなりの混乱を生じさせる事が出来る筈だ。


 本気の本気出力で発せられた超音波は、木々を震わせ、正面の大岩に亀裂を生じさせた。


「そこから出てくるでやんす! 出てこないともう一発いくでやんすよ!」




〈無理やり使役されてるなら、助けましょうか?〉




 魔物の言葉を発しながら、ソレは岩陰から姿を表した。

間隔が空いてしまい申し訳ありません。いつも有難う御座います。

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