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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
11/69

11 アースバットミニ

 戦闘終了と共にインサートされる、過去の宝箱の映像。


 映像は換金アイテム【琥珀玉】の獲得を写している。アースバット討伐で出るアイテムの内で最上では無いが、その美しさは絵面的に最高だ。


「次は何処で冒険しようか。面白かったら高評価!チャンネル登録宜しくね!」


 アスカはソニーくんに、キラーンと笑ってサムズアップした。




「ふう」


 アスカは一息ついて、地下空間中央へと向かうとしゃがみ込む。


「良かったよー。本当は強いんだねー。ありがとねー!」


 小さな穴に向かって、アスカは心からの称賛を贈った。


 穴の奥からモゾモゾと出て来たアースバットミニは、アスカの前にちょこんと座り、涙目でアスカを見上げる。


「良かったでやんすか? ありがとうでやんすか? あっしは今まで何人も勇者を見て来ましたが、褒められたり感謝されたりは、初めてでやんす!」


「迫力ある動画が撮れたからねー。構成が崩れちゃったから、録り直したい所だけどソニーくん限界っぽいからね」


 アスカが軽く触れるとソニーくんは薄く赤い光を発する。


 アスカの右手首内側の水晶板に、自分が映し出されている事に気付くアースバットミニ。


 水晶板に手を伸ばしかけ、短い右手を振り、その手は徐々にソニーくんに寄っていく。


「その水晶玉に映る景色を見れるんでやんすか」


 アスカはすっと目を細め、立ち上がる。あまりにも察しの良すぎるアースバットミニに警戒感を抱いたのだ。

 ソニーくんの価値に気付かれたら、奪われるかも知れない。


 この世界に身勝手な理由で召喚され、見たこともない魔王を倒せと命ぜられ、来る日も来る日も戦闘とお使いを強いられる日常。

 そんな中、予見水晶の失敗作と一緒の箱に放り込まれていた、のちのソニーくんと、アスカは運命の出会いを果たす。


 ウンザリな毎日を送っていたアスカは、何処か異なる世界と繋がっているらしい水晶に心奪われた。

 王立図書館に籠もり、分析を重ね、異なる世界との接続に成功する。その世界の様子をチューブという短い動画で知り、言語を学び、仕組みを学び、ついには自分がチューブに動画を投稿するに至る。


 異なる世界に情報を届け、評価される喜び。再調整中ではあるが、異なる世界とライブで繋がる一体感。


 再生され、高評価され、チャンネル登録者数が増える。


 それがアスカの全てになったのである。


 そして今……アスカの全てを支える根幹であるソニーくんに、熱い視線を送る魔物がいる。

 小さく可愛い姿にはなったが、ダンジョンボスに違いはない。涙を流して旦那みたいな勇者は初めてだと言っているが魔王の眷属なのに違いはない。こんなダンジョン捨てて付いてくるとか言っているが、モンスターなのに違いはない。


 殺すか。


 ソニーくんを奪われるかも知れないとの思いに囚われたアスカは、アースバット討伐を思案する。だが討伐しただけで大丈夫か?一抹の不安が過る。討伐だけなら今まで何度も何度も何度も繰り返した。


 そもそも討伐前の記憶を継承するモンスターなど聞いたことが無い。あるいは高位の魔物や勇者の不死性に近い属性があれば有り得るのか……。とは言ってもここは【始めのダンジョン】。序盤も序盤、最序盤だ。こんな所で討伐前の記憶を継承し対策を立ててくる魔物が居たら、記録に残っていて当然だろう。


 何故記憶を継承したのか、たまたま継承しただけで次の討伐でリセットされ記憶は失われるのか。メンタルが崩壊し肉体の蘇生を拒否するまで徹底的に討伐するか。あるいは……。


 取り敢えず殺すか。


 ソニーくんを奪われる妄想に囚われるあまり、視野狭窄に陥ったアスカ。

 右手がゆっくりと鋼の剣に伸びる……その時、嬉しそうに話し続けるアースバットミニの言葉がアスカの耳に滑り込む。


「空からの景色も見れるでやんすね!」


 な・ん・だ・と……。


 アスカは一陣の風に吹かれた気がした。


 ソニーくんを持ったアースバットミニが上空でヒラリと翻り、崖を掠めて急降下する。画角は青空から一転、スリリングな速度と距離で崖を急降下してゆく。

 崖がマイナス角に切り上がって開けた視界。そこには荒野を埋め尽くす魔物の大群を相手に、対地極大法術を繰り出す勇者アスカ……。空からのアングルによって、その破壊力の強大さと広大さをまざまざと見せつける極大法術……。


「……な。旦那」


 その声にはっと我に帰るアスカ。


「アースバットよ。ソニーくんには俺が望まない者が手にした場合、その者を焼き尽くす法術が施してある。仮に炎から逃れてもソニーくんを奪おうとしたら、俺が百回でも千回でも1万回でも殺す」


 震え上がるかと思われたアースバットは、意外にもツンと胸を張った。


「あっしはついさっきまでダンジョンマスターだった身。信用なんて直ぐに無理は承知……。ようござんす。あっしに反意ありと見たら殺してくださって結構でやんす。もっとも百や二百はとうに超えてやんすが」


「え。そんなに殺……したっけ?」


「って事はあっしを連れってくれるんでやんすね! 旦那! 感謝しやす!」


 うやうやしく両手を差し出すアースバットミニの手を、まだ半信半疑ながら握るアスカ。

 その時、コジョとパーティを組んだ時と似た感触が手に伝わる。


「こ……これは……?」


 水晶解析でレベルアップレースに完全に出遅れたアスカは、今までずっとソロでやってきた。先日コジョと組んだのが初パーティ、自分がリーダーとなるのは今回が初めてだった。


 アースバットミニの、溢れんばかりの喜びの感情が伝わってくる。


 そうか、とアスカは納得をし、コジョらの見事な連携を思い出す。この感覚の共有が、あれほどの連携を成す一助になっているのだ。関係性が深まれば共有する感覚の質と量は増えるのだろうか。


 アスカは、嬉しそうに握手した手をブンブンと振るアースバットミニを見る。

 パーティを組んだお陰でコイツの感情がダイレクトに分かる。これは意外に優秀な防犯装置といえた。


「所でアースバット。お前が居なくなったらこのダンジョンの主はどうなるんだ? 誰か代わりが派遣されて来るのか?」


「知らないでやんす! これから旅立つあっしには関係ない事でやんす!」


 確かにな、と苦笑いするアスカ。


「それと旦那。アースバットは種族名でやんす。あっしの名前はドン・ロイヤード・ローンでやんす」


「長いな……」


 そう言いかけてアスカは頭に閃きのマークを灯す。


「お前に名前を付けてやろう。お前は今日からドローン! 空撮担当のドローンだ!」


「ドローン! いいでやんすね!」


 新しい呼び名を貰ったドン・ロイヤード・ローンあらためドローンは、嬉しそうにアスカの頭上を飛び回り、妙な音楽に乗せて自分の名前を繰り返すのだった。

いつもありがとうございます。

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