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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
10/69

10 ダンジョン異変

「ふう、まさか罠宝箱(トラップチェスト)があるとは」


 アスカは穴が塞がった額を流れ落ちるの汗を拭う。


 コジョら3人とのパーティを街で解散してから、アスカは最短ルートでアースバットとの戦闘を繰り返した。


 クワナベのアドバイスに従い、アースバットを倒す度に教会へ行って、レベルアップを重ねた。

 しっかりと耳栓をしてもキツかった超音波も徐々に気にならなくなり、今ではアプチャー中でも法術を使える位、エーテル量に余裕がある。


 折角見つけた経験ボーナスルート。アスカはレベルが上がらなくなる迄、このダンジョンをしゃぶり尽くした。


 壁の染み1つで、どの階層のどのエリアのどこ向きか分かる程にやり込んだ。


 最近では、我が家に戻った安心感を覚える程になっていた初めのダンジョンだが、罠宝箱は初めてだった。


「うーむ……極低確率……なのか?の割には……」


 このダンジョンしか知らないアスカに、確率の判断は出来なかったが、罠宝箱の中は良く見るブロンズヘルムだった。


「ま、ダンジョンって不思議だよねー」


(オシてるな、マキで行くか)


 アスカはキラリと笑って、先を急ぐ。動画が長くなると低評価が付きやすい傾向がある。


 人社会の敵、魔王よりも。

 無茶振りするだけの王様よりも。

 打合せ内容をすぐに忘れる、武器屋の一族よりも。


 アスカはあのサムズダウンが大嫌いだった。


 エンカウントするモンスターを、まるで無人の荒野を進むが如く、意に介さずに屠り、歩を緩めないアスカ。


 アプチャーの強烈な光に照らされたモンスターは、あまりの明るさに怯んだすきに鋼の剣で切りつけられ、肉体を持たないゴーストの類は、炎矢の法術で次々と倒されて行った。

 胸のすくような無双っぷりではあるが、初めてダンジョンに入った風で構成した前半が台無しである。


 そしてダンジョンボス【アースバット】の元へ。

 角を曲がる寸前に、今まで撮りためたアースバットの登場シーンがインサートされる。


 画角に映し出されるのは、暗い洞窟の地面から這い出る大型モンスター。そのモンスターが身を震わせ体に付いた土を払い落とすと、超音波を伴う嘶きと共に二対四枚の翼膜を広げる。暗闇に鈍く光る目がその赤い光を増し、正面に立つアスカは太陽の煌めきでアースバットの巨体をその画角に収める。


「あ、あれ?」


 アスカは講堂のように広い地下空間で立ち尽くす。


「どこ行った?」


 地下空間を見渡してもアースバットの姿は何処にもない。

 今まで何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もアースバットを倒したが、この場所に登場しない事は一度もなかった。


「お……おーい。どーこー? 今が本番なんだから困るよー」


 ソニーくんは地下空間をぐるりと映し出すが、周囲にも天井にもアースバットの姿は無い。

 いつもはこの辺に……そう呟いてアスカは地下空間の中央に歩み寄り、足元の小さな穴を見つける。


「ん?」


 光法術アプチャーを照射し、ソニーくんで穴の中の撮影を試みる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! もう許して下さいダンジョンボスとかもう辞めますからお願いでやんす! あっしだって敵いもしないのに何度も旦那にボコられるのヤなんです! もう勘弁して下さい!」


 小さな穴の中には、手のひらに乗りそうな程小さな【アースバット】が、頭上で両手をすり合わせて命乞いをしていた。


「え?」


 あっけに取られるアスカ。


「旦那と争う気は毛頭ございやせん! ってか金輪際で懲り懲りで抱腹絶倒でやんす! ま、まずはその太陽をしまって下せい! 後生でやんすーー!」


 素早くソニーくんを背中に隠し、画角からアースバットミニを追い出すアスカ。


「取引しよう」


 アスカはアプチャーを停止し、光の筒一つだけの光量に落としてから、真剣な眼差しでアースバットミニとなにやらひそひそと話始めた。


 そして……。


「ぐふふふ!ついに来たか勇者よ! 我が名はドン・ロイヤード・ローン。このダンジョンの主なるぞ」


 光の筒一本から差す微かな光の中、アースバットはその巨体をアスカの前に表した。


 途中のたるんだ空気を、完全に忘却の彼方へ吹き飛ばしたかのような真剣な眼差しで、アースバットの眼前に立つアスカは鋼の剣を腰間から抜き放つ。


「我こそはビア王国に召喚されし数多の勇者が一人アスカ! 我が剣に討たれ魔王討伐の礎となるがいい」 


 両者の間に流れる緊張した空気。


(くっ……やはり光量が足りない。ノイズがやばい)


(だ……旦那……直視は出来ませんが、もう一本は行けそうでやんす)


(よし!)


 睨み合う勇者とモンスターは、やたらとバチバチ瞬きを交わし、互いの瞳に敵意と殺意を漲らせ、緊張の高まりに呼応するかのように、2本目の光の筒が光を放つ。


 それを合図に動き出す両者。


 地面を蹴ったアースバットは、その鋭い爪をアスカの頭上に振り下ろす。


 膝に力を貯め、十分に引き付けてから派手な横っ飛びで躱したアスカは、アースバットの着地を狙うべく、すかさず反転し剣を振るう。


 だがアースバットは予想に反して、飛び掛かった勢いそのままに、地面を掘って地中へと姿を消した。


 地中から飛び出したと思えば翼膜を羽ばたかせて空中を移動し、剣、法術いずれにも攻撃の的を絞らせない。


 回避。


 体当たり。


 鍔迫り合い。


 薄暗い地下空間で、息詰まる攻防は繰り広げられ、戦いは遂にクライマックスを迎える。


 地中からアスカの足元に飛び出したアースバットが、空中でアスカの蹴りを受けて地下空間中央に飛ばされ、土煙を上げて転がる。


「法は幽、術は事象、名は雷網、関与せよ!」


 画角に背を向けたアングルで放たれた雷系の法術は、視界を白く染める程の発光を伴ってスパークし、広い空間に雷の網を広げた。


 チャリーン。


 白く焼けたままの画角。コインがポーチに収まる音が、戦闘の終了を告げたのだった。


 

 

いつもありがとう御座います。

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