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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
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01 動画撮ってみた

 私達の世界とは異なる時間。


 強大で狡猾な魔獣が世界を支配し、エーテルと呼ばれるエネルギーが世界を巡り、物理とは異なる力が存在する世界。


 弱小な存在である人種(ひとしゅ)は予言された魔獣の侵攻に対する為に、勇者召喚の秘法を共有。満を持して各国で多数の勇者を召喚し、最適化された手順による強化を進めていた。


 人種(ひとしゅ)社会存続の希望。異世界から召喚された勇者と呼ばれる存在は、今日も人々の希望と願いを受けて「レベルアップ」という名の研鑽に励む。


 ……極一部の者を除いて……。



「はーい! 異世界通信アスカチャンネルへようこそ! アスカでーす! 今日は前回コメントを貰った質問にいくつか答えてから、近くの森に魔物を退治しに行きたいと思いまーす」


 にこやかにカメラ目線で話すのは、20歳位だろうか金髪碧眼の分かりやすいイケメンだった。

 肩と膝に金属を当てた部分鎧とロングソードを装備し、腰にはポーチを下げている。


「さてここは王都アビリから二つ目の街シャロ。この先の橋を超えると敵が強くなるって言われてるボーダーシティさ。ここでしっかりと強くなって、装備も整えろって事だね」


 画角は左から右へとパンして行き、街の様子を映し出す。2~3階建ての建物の並ぶ中央通り、その向こうには共用井戸があって街人が談笑している。


 街を囲む塀は3メートル程と低く、箱の中に居るような圧迫感は少ない。


「街はこーんな感じさ。じゃ質問に答えながら街を見て回ろう」


 アスカは足取りも軽く、自分を横から撮影しながら大通りを歩いてゆく。


「おお! 勇者様! 平和を取り戻してくだされ」

「勇者さま! 魔王やっつけてね!」


「はいはいーありがとねー」


 気さくに手を振って街人に答えるアスカ。


「見ての通り、どいつもこいつもなんでか俺が勇者だって知ってまーす。悪気はないんだろうけどプライバシーはゼロでーす」


 アスカは白い歯を光らせて「参るよねー」と笑う。


「さて、質問に答えながらだよね。『どうして王様はショートソードしかくれないの?』って質問から」


「他にも『最初から強い武器やったれ』とか『ケチ』とかのコメントも貰ってます」


 時折すれ違う街人とハイタッチを交わしたりしながら、勇者アスカは画角を操って自分と街とを交互に見せている。


「アンサー! ダララララララン……ケチ! だと思う! 最初から伝説の武器くれないのは分かるよ、俺らって悪目立ちする割にまだ弱いし、盗られちゃったらマズイもんね」


「でもショートソードは無いよねぇ……って事で、ジャーン」


 画角が振れて武器屋の看板が映し出される。


「武器屋にやって来ましたー。親父さんどうもー」


「おお、これは勇者さま。またのお越し有難うございます。さっき買ったロングソードに不備でも?」


「ちょっと親父……初めて来た風で頼むって言ったでしょ!」


「こ……これは失礼」


 そそくさと店を出て、ジャーンと看板を撮る所からやり直す勇者アスカ。


「武器屋にやって来ましたー。親父さんどうもー」


「おお、勇者さま。いらっしゃいませ」


 にこやかな親父に、満足げに頷くアスカ。


「ここのラインナップを見せて欲しいんだよねー」


「は、はあ、こちらでございます」


 武器屋の親父は武器の飾ってある壁を指す。


 ショートソード

 ロングソード

 手斧

 幅広斧

 ライトランス

 弓

 ライトシールド


「ご覧の通り、しょぼい品揃えだけど、ロングソードと幅広斧、それとランス系が初登場です。じゃ親父さんロングソードを見せて下さい」


「え、さっき買いましたよね」


「……おい」


 ジト目で親父を見るアスカ。


「親父! もう設定忘れたのかよ!……く、もういい、どうせまだ編集とか出来ないし」


 アスカは向きを変えて、親父を画角から追い出す。


「えーっと、はい、これがさっき買ったロングソードです。特に装飾されていませんが、無骨な美しさがありますよねー」


 抜刀したロングソードを、光の反射と背景ボケを考慮しつつ、美しく映し出すアスカ。


「と、言うことで俺はロングソードを手に入れましたー。パチパチパチ」


 ロングソードを鞘に収め、店を出るアスカ。画角の端には不思議そうに首を傾げる武器屋の親父が映り込んでいた。


「さて次の質問です『モンスターてどうやってコインになるん?』とか『モンスきえる……』のコメントも多かったですね」


 画角は結構な速さで流れ、アスカが大急ぎで走っている様子を伺わせる。


「はぁはぁ。そ、それではアンサー! ダララララララン……わかりません!」


 情けない答えをきっぱりと言い切る間も、画角は凄い速さで流れている。


「はぁはぁ。と、言う訳で街から出て森にやって来ました!ゼェゼェ。実際に魔物を倒して検証してみましょう。早く……ゼェゼェ、編集ってヤツを身に着けないと……」


 膝に手を付いて呼吸を整えるアスカは、ポーチに手を入れ小瓶を取り出すと、一気に飲み干した。


 シャキーン。


「さ!魔物をさがしましょう。この辺はまだ危険度の低い兎や犬系の……おっと早速現れました。狂った野犬です。単体ならそれ程注意する相手ではありませんが、複数だと逃げた方がいい時もあります」


 説明しながらロングソードを抜き、画角には狂った野犬と自分を交互に映し、周囲の地形も収める。


「俺は動画撮影の為に盾を装備していないので、油断は禁物でーす。ロングソードの使い勝手もレビューしながら戦いたいと思いまーす」


 油断禁物とは言っても言葉程緊張感は無い。下見もしてあるし、ロングソードのコツももう掴んである。


「狂った野犬の特徴は……」


 がぶ。


「ちょっ! おま! 水晶喰うんじゃねえよ! コレはやめろおお! 魔獣の体内・お口からオケツまで紀行とか需要ないから!」


 ガ……ゴ……ゴソ……。


「ちょっと映ってる? 壊れてない? ベットベトだけど大丈夫かなこれ?」


「えーっと見た通り、魔物は死ぬと砂になって、そこからコインが飛び出して勝手にポーチに入りまーす。こんなでーす。チャリーンっと」


 残念な事に『がぶり』の後、画像は映っておらず、残った音声も少しの後切れるのだった。

不定期更新です。

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